表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/125

4.治療のアテ

(あれっ、もしかして向こうの方が速い?)

 WRCレプリカのプジョーを操るザルスだが、運転のテクニックは余り大した事が無い。

 そもそもこの車自体、何かカッコイイ車を選んで来てくれと実業家仲間に頼んだ際に仲介して貰った物なので、肝心のメンテナンス等も全部カーショップに任せているのだ。

 モータースポーツの経験も全く無いので、ドライビングテクニックはカイザムよりも大分下手である。

(そんなバカな……ここで引き離される訳にはいかないんだよ!!)

 足回りをノーマルのFFから4WDに移植したまんまWRCレプリカのプジョーだが、加速力が良くなった反面で回頭性が悪くなった上、重量も増しているので次第にカイザムのヴィッツに引き離され始めている。

 しかも細かい切り返しにハンドル操作が追い付かず、アンダーステアまで誘発してしまう。

 ただ闇雲にアクセルを踏み込んでも速く走れる訳では無いと言うのを、ザルスに身をもってプジョーとヤビツ峠が教えていた。


「うわっ!!」

 下りの直角コーナーでまたアンダーステアを出し、危うくクラッシュする寸前でブレーキを踏んで停車。

 しかしそれで更にヴィッツとの差が広がってしまい、最終的に麓まで降り切った時には既にカイザムのヴィッツを完璧に見失っていたのだった。

(くっ、このままでは今まで築き上げて来た僕の地位が粉々に砕け散ってしまう!!)

 それだけは何としてでも阻止しなければならないと悟ったザルスは、電波が入る所までプジョーを走らせてからスマートフォンを取り出して何処かへ電話を掛け始めた。

「もしもし……ああ、僕だ。ちょっと問題が発生した。大至急あいつ等に連絡を頼む。……どうしたのかって? それはそっちに着いてから話す。それと武器の使用許可を出すからそっちの手配もしておいてくれ。僕も急いでそっちに戻るから、頼んだぞ」

 電話の相手にそれだけ伝えると、ザルスは自分の地位を守るべくプジョーを再び走らせ始めた。



 ◇



(はあ……何とか逃げ切ったかな)

 バックミラーから完全にプジョーの姿が消え去ったのを見て、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 だが、その瞬間に鋭い痛みが左肩を襲う。

「ぐあっ!!」

 無我夢中で逃げていてアドレナリンが放出されていたせいか、俺に向かって投げられたあのナイフによる傷が今になってまた痛み始めた。

 これは車の修理より先に自分の身体の修理をしなければならないと思った俺は、信号待ちで停車した際に財布の中から名刺を探り始めた。

「ええと……これでも無い、これでも無い……これでも……あっ、これだ!!」


 港区で開業医をしている、俺の客の一人の名刺があったのを思い出したので財布を探ってみるとやはりビンゴ。

 信号がそろそろ青に変わりそうなので、さっさと番号をスマートフォンに打ち込んで通話ボタンを押す。

『……はい、ガルトリス医院です』

「あっ、も、もしもし! あの……院長のエイアルさんはいらっしゃいますか? 俺、その人の知り合いのカイザムって者なんですけども」

 こうして客から名刺を貰う事はあっても、自分から名刺の電話番号に掛けると言うのは基本的にしない。

 特定の客だけひいきしている、なんて噂が立てばビジネスとして成り立たなくなる可能性もあるので、俺から電話を掛けるのは客が何か忘れ物をした時とか、どうしても伝えなければならない用事があったりする時みたいなもんだ。


 今回の場合はその後者のパターンになるのだが、なかなか上手く行ってくれなさそうである。

『エイアル院長ですか? ……申し訳ありません、ただいま他の患者さんの診察中でして……』

「えっ、そうなんですか?」

 電話に出た受付係らしき女の人のセリフに、俺は苦虫を嚙み潰した様な顔になった。

『はい。もしよろしければ私がご用件を伺いますが』

「あ……いや、ええと……要件は俺が自ら伝えますので、後でこの番号に折り返して貰う様に頼んでいただけます?」

 下手に突っ込まれて面倒な事になったら厄介なので、俺は折り返しの電話番号を伝えて電話を切った。


 スマートフォンで通話しながらの運転で警察に見つからなくて良かった……と思いつつ、俺は高速に乗って再び東京都内を目指す。

(車の中にあったタオルで腕を縛って止血はしたけど、さっさと治療しないとまずいよな)

 とは言いつつも、見知らぬ病院に飛び込みで向かうのはまずい事情がある。

 何故なら、俺は身体を売っている以外にも必要とあれば殺し以外の犯罪にも手を染めて来ているからだ。

 車の窃盗だってやったし、怪しい物品の運び屋だってやった事もあるし、情報屋として諜報活動にも勤しんでいた事もあった。

 今でも必要とあればそうした犯罪に手を染める事もあるし、今回みたいに怪我をする様なトラブルだって経験があるが……それ等は全て理由があっての事なので、今回の様な展開は首を捻るばかりである。

 だからこそ治療記録から過去の犯罪に足がついたらまずいので、裏の世界繋がりで紹介された客であり医師でもあるエイアルさんの元に向かう事にしたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ