25.酷い裏切り
「…………ん?」
その言葉がすぐに理解出来ない俺の目の前で、ゼイオスさんは更にとんでもない事を言い出した。
「今回は俺が手配したんだよ。君を追う様にってね」
「ちょ、ちょっとゼイオスさん……何言って……うわ!?」
無意識の内に後退りを始めた俺の背後から、いきなり誰かが俺の両脇の下から手を差し込んで羽交い絞めにする。
思わず首だけでその人物の方を振り向いてみると、そこには……。
「さ、サザートさん!?」
「悪いね。ここで捕まって貰うよ」
余りにも衝撃の展開過ぎて話が呑み込めない俺の目の前に、今度は遅れて追いついたフレイザーが俺に向かってダッシュして来た。
「そいつ抑えてろ! うおりゃああああああっ!!」
「ぐほへっ!?」
ゼイオスさんも加わったサザートさんの羽交い絞めから逃れられずにジタバタする俺に対し、フレイザーが俺の腹に強烈な前蹴りをぶちかまして来た。
「ごへぇ!?」
なかなかの衝撃が胃を襲い、思わず胃の中の物をリバースしそうになったのだが、そこはゼイオスさんとサザートさんに支えられて何とか耐える。
しかし、この整備工場の二人は俺を助ける為では無く、あくまでも自分達が一緒に倒れない様に俺を支えたのだとすぐに理解して目の前がぐにゃっと歪んだ気がした。
「ったく、手間掛けさせやがってよぉっ!!」
「ぐほっ、がっ!!」
フレイザーからの強烈なボディブローを二発食らった俺に対して、自分の代わりにリーキーに拘束を任せたゼイオスさんが俺の目の前に出て来て、この日一番の絶望感漂うセリフを吐いた。
「刑事が嗅ぎまわっていたなんてな。それにしても、やっぱりこの発信機は偉大だ」
「発信機……?」
一体何の話だ? と腹の痛みに耐えながら考えていると、リーキーと協力して俺を羽交い絞めにしたままのサザートさんが補足説明をする。
「君の車のリアバンパーを直して、カーナビに道を記録した時にこっそりつけたんだよ」
「なっ、じゃあ俺の居場所がこの連中にバレてたってのか?」
「そう言うこった。おかげでテメーが筑波サーキットに居た事とか、刑事と一緒に行動していた事なんか俺達に全部バレバレだったんだよ!」
「刑事……って、まさか!?」
その職業が当てはまる人間に心当たりがある俺に対し、拘束を終えたリーキーが冷静な口調で説明する。
「あのベンツのワゴンの男だ。あの男は傭兵だと偽った刑事だ」
「は……え?」
もう頭の中がパニック状態の俺だが、これだけはどうしても聞きたかった。
「何でだよ……何でこんな事をするんだよゼイオスさん、サザートさん!!」
この二人の酷い裏切りにちょっと涙声になり掛けている俺に対して、サザートさんもゼイオスさんも動揺を見せずに淡々と説明する。
「金の為さ」
「ああ、ちょいとばかし金が要るんでね。君を連れて来れば一千万をくれるって約束で手を組んだんだ。騙すのに色々と苦労したけどな。でもこうして君を捕まえる事が出来たんだから、この後も大人しく捕まっててくれよっ!」
そう言いながら、ゼイオスさんがサザートさんやフレイザー、そしてリーキーに掛からない様に俺の顔に向かって催眠効果のあるピンク色の霧のスプレーを噴射した。
◇
「──おら、さっさと起きやがれっ!!」
「ぐほっ!?」
腹に伝わる衝撃と共に目が覚めた俺の、まだハッキリしない視界に映ったのは見慣れない男の顔。
いや、正確には一度だけ見た事がある。この前ザルスとエイアルと一緒に俺のヴィッツを襲撃して来た、AE111のドライバーの筋肉質な男じゃないか。
顔に走っている傷が特徴的なこの男だが、俺にはさっぱり面識が無い。
だがその男の他には、俺の見知った顔ばかりが一堂に会していた。
ヤビツ峠で俺を殺そうとして来た、若き実業家の206乗りのザルス。
フレイザーとリーキーと裏で繋がっていたと言う事で、怪我を治してくれた恩なんて一気にぶっ飛んで俺の敵になった港区の整形外科医のエイアル。
そのエイアルから俺を殺す様に依頼を受けて、六甲山で銃をぶっ放して来たフレイザー。
彼の相棒でディアブロを操るリーキー。
そして一番信頼していた、俺の車を売ってくれたカーショップ兼整備工場の社長であり、俺のドライビングテクニックの師匠でもあるゼイオス。
そしてゼイオスの部下であり、彼の店の従業員として俺のヴィッツを直してくれたサザート。
これだけの俺と関わりのある人間が集まっているこの場所にはまるで見覚えが無いが、周りの様子を見渡してみるとどうやらここは何処かのオフィスの一室みたいだ。
広々としたオフィスの壁には何個もの大型の窓が備え付けられているが、外から見られない様にブラインドを下ろしているので俺がこんな状況になっているのも見えないだろう。
そしてこの空間の中で一番権力を持っているのは、どうやらこの集団の奥にある豪華な革張りの椅子に座っている黒髪に赤い瞳の男らしい。
「ようこそ俺の会社へ」
「誰だよ、あんたは……って、あれっ?」
直接の面識は無いものの、何処かで俺はこの男に見覚えがある様な気がした。




