24.デリバリーラン
そんな訳で近くのガソリンスタンドまで給油と洗車をしに行った後、代車のミラを返してようやく再び自分のヴィッツに乗れる時がやって来た。
「それじゃここに頼むよ」
「はい」
トランクに積まれた荷物の運び先を指定されたメモを渡され、俺はカーナビにその行き先を入力してテスト運転がてらのデリバリーランに向かう。
なるべく修理前と同じフィーリングになっていればそれで良いのだが、いざ走り出してみるとその不安もすぐに消し飛んだ。
(おっ、おっ、調子良いじゃん?)
やっぱりこの車を売ってくれたショップの人が直してくれただけあって、修理前と何ら変わらない乗り心地を実感出来る俺はその技術力の高さに感動を覚えていたのだが、そんな感動を一瞬で吹き飛ばす邪魔者がこの後すぐに現れるのだった。
指定された配達先は奥多摩方面なので、今まで毎日向かっていた東京タワー方面とはまるで正反対である。
一口に東京と言っても全てが高層ビルで囲まれた場所ばかりでは無く、多摩や町田の一角みたいに自然に囲まれた場所だってあるのだ。
そうなると人口も二十三区と比べて少なくなる傾向にあり、そこを狙ったのかどうかは不明だが「奴等」が再び俺の目の前に現れた。
「……ん!?」
木々に囲まれた車も人も少ない道を走っていた俺の目の前の脇道から、突然一台の車が飛び出して来た。
「うほっほ!?」
ギリギリでブレーキを踏んで激突は免れたものの、一歩間違えれば大惨事だったのでこれは文句の一つでも言ってやらなければ気が済まない。
……が、その飛び出して来た車を見た瞬間そんな気持ちは吹き飛んだ。
「って、おい、あれって……」
見間違える筈も無い、その独特の赤いフォルム。
それはまさしく、あの夕暮れ時の六甲山で俺を殺害しようとしていたフレイザーの1600GTAじゃないか!!
それに唖然とすると同時に何処からか爆音が聞こえて来たので周りを見渡してみると、俺の後ろから青のランボルギーニディアブロが迫って来ている。
この赤と青の珍しい二台の組み合わせはもう間違い無い。
俺は車から降りて文句を言うのをすぐに中止し、アクセルを踏み込んでその二台から逃げ始めた。
(くそっくそっくそっ!! 何だって車を直して貰ったばっかりなのにこいつ等に出会わなきゃなんねえんだよぉ!?)
しかも今回は荷物を運んでいる最中なので、更に焦る気持ちが大きくなる。
しかし今回は車の調子が万全の筈なので、さっさと振り切るべく俺は前を見据えてアクセルを踏み込み、余り路面状況の良くない道路を駆け抜ける。
妙にクネクネしている、両側が木々で囲まれたドライブルートをハイスピードで駆け抜ける俺に対して、後ろのフレイザーの1600GTAはパワーが余り無い事も手伝って、すぐに俺のヴィッツから離れて行った。
だがパワーのあるリーキーのディアブロは、余りとっちらからないラインを選んでしぶとく食らいついて来る。
(くっそー……離れねえ!!)
かなりのじゃじゃ馬で扱い難いって言われているディアブロを巧みにコントロール出来るのは、それこそ「スーパー」なテクニックが無いと無理だと言われているのだが、それだけのテクニックを持っていると言う事になるらしい。
でもあいつをどうにかして振り切らなければこのカーチェイスも終わらないのでどうしようか考えていた矢先、俺の目の前にまた車が飛び出して来た!!
「うおああああっ!?」
何でこんな飛び出して来る車が多いんだ!?
いや、明らかに飛び出しているのはこんなカーチェイスを繰り広げている俺の方だろうとセルフ突っ込みを入れつつ、何とかその飛び出して来た車を回避。
こんな唐突な展開が今まで何回もあったからこそ、何時の間にか緊急回避が上手くなってるんじゃないか? と自画自賛していた俺だったが、そんな気持ちはその飛び出して来た車を見て一気に吹き飛んだ。
「えっ……あれ、ゼイオスさん?」
見覚えのあるナンバープレート、見覚えのある大きなリアウィングの青いカプチーノ。
それはさっき、俺が配達に行く前に別のお客さんの元に向かった筈のゼイオスさんのカプチーノだった。
もしかしたら必死で逃げ回っている内に偶然に偶然が重なって、こうして鉢合わせになったのだろうか?
いや、偶然でも何でもこの際どうでも良い。
本当は裏の世界と余り関わりが無いゼイオスさんを巻き込みたくないのだが、こんな状況なので形振り構っていられない。
「ぜっ、ゼイオスさん! 助けて下さい!!」
ヴィッツから飛び降りた俺はゼイオスさんのカプチーノの元に向かって駆け出すが、それに対してゆっくりと車から降りて来たゼイオスさんの姿が目に入った。
「……どうした?」
「どっ、どうしたじゃないんです! 俺、追われてるんです……例の奴等に!!」
「例の奴等って?」
「ほら、あれ……」
俺の指差す方向には、やっと追い付いて来たリーキーの青いディアブロの姿が。
「あいつに追われていたのか?」
「そうなんです! お願いです、匿って下さい!」
俺のドライビングテクニックの師匠であり、尚且つこの辺りの道に詳しいゼイオスさんなら俺よりもあいつ等を振り切れる可能性が高いかも知れない。
そう考えての頼みだったが、次の瞬間ゼイオスさんの口から恐ろしく冷たい声が出て来た。
「あれは俺の仲間だ」




