22.エスケープその3
(ええーい、イチかバチかだっ!!)
俺はサイドブレーキを引いて素早く右に見えて来た別の道路へと飛び込み、道幅が段々広くなって来た事を確認する。
広い道幅だと、この先でパワーに物を言わせて追い付かれるかも知れないと普通では思うのだが、この道の先は道路工事を行っていて道幅が減少しているのだ。
それに広い道幅でありながらもここは二車線なので、交互に車を誘導させなければならない一車線の一方通行状態になっている。
(なめるなよ……俺はこんな所でまだまだ死ぬ訳にはいかねえんだ!!)
まだ二十歳なので未来のある若者であると自負している俺は、何が何だか分からないままこの世を去るのだけは絶対にごめんだと言う気持ちを持ちながら、順番待ちの車が見えて来た前方の景色を見据える。
「上等だよ、ついて来られるもんなら……ついて来てみろやゴラアアアアアアッ!!」
雄叫びを上げつつ、丁度一車線の道路を進み始めた先頭の車をギリギリで回避して俺はその道路を一気に駆け抜ける。
周りの人間の唖然とした視線を痛い程に感じながらバックミラーを見てみると、改めて順番待ちをしていた車に阻まれてしまったエイアルのS55とザルスの206がフルブレーキで停車しているのが見えた。
「よっしゃ、よっしゃ、よっしゃあああああ!!」
歓喜の声を上げ、俺は後ろの三台を完全にバックミラーから消し去った事に安堵する。
しかしこれでまだ終わった訳では無い。
結局、あのエルトルとか言う男の安否は不明だし俺自身もこれから先どうすれば良いのか見当もつかない。
(何故かは分からないけど裏の世界にこれだけの敵を作ったとなれば、俺はもう裏の世界じゃ生きてはいけないかもしれねえ……)
俺がこうして命を狙われるのには絶対何かしらの理由がある筈なので、その理由を解明するのが今の目標だ。
だがその前に、リア周りだけでなく今の三台とのカーチェイスで右も左も、それからフロントにも傷がついてしまったヴィッツで走っていたらかなり目立つし、これから先の走行にもこんなベコベコの状態だと不安が常に付き纏う状態だ。
なのでせっかく直して貰ったばかりで申し訳無いのだが……と、俺はゼイオスさんとサザートさんの整備工場に電話を入れる。
『……はい、カーショップキースデンです』
「あ、サザートさんですか? どうもカイザムです」
『あれ、カイザム君? ゼイオス社長なら今配達に出ちゃってるんだけど……どうしたの?』
電話に出たサザートさんに対して、俺は今までの出来事を運転しながら警察に見つからない内になるべく簡潔に伝える。
『んー、何だか大変な事になっているってのは分かったよ。でもそれだけボコボコだと数日じゃ直らないかも知れないよ?』
「大丈夫です、お願いします」
『分かった。それじゃゼイオス社長には俺から伝えておくから、東京に着いたらまた電話してよ。修理の準備は整えておくからさ』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
とにかく車を直さなければどうしようも無いので、修理のアポを取ってから俺はつくば牛久ICから常磐自動車道を経由して約一時間半掛けて三鷹を目指す。
まだ昼を少し過ぎた位なので遅くなっても夕方には着けるだろうと考えていた俺だったが、そんな今の俺は知る由も無かった。
(はー、車を直して貰ってばっかりだぜ。これじゃ俺の生活はこれから数か月先まで辛いだろうな……)
この後に待ち受けている残酷な運命を。
そしてそこで俺が最大の危機に見舞われると言う展開を。
◇
「こんなんで良く茨城から帰って来られたもんだよ」
呆れ顔になりながら俺のヴィッツを見て溜め息を吐くゼイオスさんと、その横で腕を組みながら無言でうんうんと頷いているサザートさんの横で、俺は気まずそうな顔になる。
「……その、えっと、直るのにはどれ位になりますかね? 時間とか金額とか」
恐る恐ると言った様子で尋ねた俺だが、ゼイオスさんからは何とも煮え切らない回答が。
「正直これはかなりまずいかもな。まずリア周りがこれだけへこんでいるとなると、ボディがフレームまで曲がっている可能性が高い。それから左右どっちとも傷だらけだからその補修だけでも厄介だ。ドアって言うのは板金作業が難しいんだよ。エンジンは大丈夫だけど……これは直すよりも買い替えた方が早いかも知れないな」
「えっ、そんなにですか?」
確かに幾多ものダメージを負った俺のヴィッツだが、そこまで損傷していたなんて。
「ヴィッツだったらこのターボモデルでも結構タマ数が出てるし、今の俺の店には在庫は無いけど、知り合いの店とかオークションを当たってみて新しいヴィッツを探してやる事も出来るぞ」
「そうだよ。社長の言う通りで、この車をこれから先も乗るのはお勧めしないよ」
ゼイオスさんに続いてサザートさんからも言葉数少なくそう言われた俺だが、新しく車を買うとなると色々と手続きやら何やらで時間が掛かるかも知れないのが不安だ。
ザルスやエイアルの他にもそれなりに客がついている上に、あの銃撃戦で連絡が取れなくなったエルトルの事を考えると、なかなかすぐに返事は出来そうに無い。
だって、東京タワーの下で待ち合わせをしているんだからな。




