12.やっぱこうなるの?
「うーん、この辺りなら良いかな」
俺を先導する形で木々の間を通り抜けつつ、人目につかない場所までやって来たフレイザーさんは、ちょっと開けたこの空間を見渡しつつ頷いた。
「それじゃ始めるとしようか」
「分かりました。ああ、言っておきますけど俺は逆はやらないのでそこは分かって下さいね」
そう言いながらいそいそと準備を始める俺だったが、そんな俺をフレイザーさんはゴミを見る様な目で見ている。
そして俺に聞こえるか聞こえないかのボリュームで呟いたそのセリフを、俺の耳はしっかりと聞き取った。
「ったく、俺は年下に興味は無えんだよ……くっそ、エイアルのおっさんめ」
「え?」
明らかに不機嫌極まりないセリフに、俺は準備をしていた手を止めてフレイザーさんの方を見た。
「それ、どう言う意味ですか?」
「えっ……あ、何か俺言ったか?」
「ええ、年下には興味無いとかって。しかもエイアルさんからの紹介って言ってましたけど、話に矛盾がありません?」
「矛盾って何だよ?」
不思議そうな口調の中に若干の怒りが混ざっているのを俺は感じつつも、それでもこれだけは問いただしておかなければ納得出来なかった。
「だって俺、エイアルさんからこう言われたんです。俺にどうしても会いたいって人が居る上に、高速代もガソリン代も料金に上乗せするから行ってやってくれって。だから俺は普段関東圏から出ないんですけど、はるばるこうして兵庫県まで来たんですよ。なのに今の発言っておかしく無いですか?」
「いや、それはだな……」
「それとも、エイアルさんからの紹介って言うのは嘘なんですか?」
その一言を聞いたフレイザーさんの顔つきが変わる。
「……んー、それは半分本当だな」
「半分?」
「ああ、半分。だって俺、最初から御前とこんな事する為にここまで来た訳じゃねーもん」
「はい?」
奇妙な事を言い出したフレイザーさんに対してポカンとした顔になっているだろう俺の目の前で、彼は自分の赤い上着の内側にゴソゴソと右手を入れた。
そしてその上着の内側から出て来た手に握られていた物は、不気味な輝きを見せるシルバーメタリックのコルトディフェンダー、それもご丁寧にサイレンサー付きであった。
「げっ……」
考えるより先に、俺はそう口走りながら横っ跳びをしていた。
ワンテンポ遅れてパシュパシュとサイレンサー効果が出ている銃声が聞こえ、俺の立っていた場所に銃弾が撃ち込まれた。
「おいおい、逃げんじゃねえよ。俺はエイアルのおっさんとスカしたザルスの野郎から御前を殺せって言われてんだからよぉ!!」
「はあっ!?」
フレイザーの口から出て来た衝撃の告白。
その中の名前……ザルスは分からないでも無いが、何故エイアルさんまでもが俺を殺せとこの男に命令しなければならないのか?
と言うか、エイアルさんは最初からそのつもりで俺をここまで向かわせたと言う事になる。
しかもあのプジョー乗りのザルスの名前まで出て来ると言う事は、エイアルさんとザルスとこのフレイザーが繋がっている事の証明に他ならない。
(殺されてたまるかよっ!!)
人目につかない林の中とは言え、少し行けばさっきのバス停の前まで出る。
そこまで出てしまえば、この銃刀法違反の法律がある日本で銃をぶっ放す事なんて出来ないし、何より警察に連絡もして貰える。
だが、フレイザーの銃撃は確実に俺を仕留めに来ているのでヴィッツに乗り込むまで油断は出来ない。
「オラオラ、無様な人生のラストダンスの時間だぜ!!」
今時の中学生でも言わなさそうなセリフを言いながら、フレイザーは弾切れを起こした様でマガジンをリロードする。
その隙を突いて俺は足元に転がっている大きめの石をプロ野球選手並みの豪速球(当社比)でフレイザーに向かって投擲。
「おおっと!?」
リロードの途中だったフレイザーはその手を止めて石を回避したものの、俺の逃走を許してしまう結果に。
「くそっ、待ちやがれ!!」
背中を向けて一目散にダッシュし始めた俺の背後から、フレイザーが追い掛けて来る足音が聞こえる。
俺はそっちを見る余裕も無く、ただひたすらに林を抜けるべく草木が生い茂っている土の地面を駆け抜ける。
時折り土に埋まって生えている枝に引っ掛かったり、変にぬかるんでいる場所があったりして何度も転びそうになりつつも、あんなヒットマンみたいな奴に殺されてたまるかと言う意思だけで持ち堪える。
「逃がさねえ……逃がさねえぞお~っ!!」
そんなフレイザーの声を背中越しに聞きつつようやく林を抜けた俺だったが、そんな俺は更なる劣勢に追い込まれる事になった。
「げげっ!?」
何と夕暮れ時だからか、それともここが合法のサーキットとしても利用されているからか、助けを呼ぼうにも人っ子一人居ねえと来たもんだ。
後ろからはまだフレイザーが追い掛けて来ている上に、助けを呼ぶ為のサーキット職員への電話も見当たらない。
それにもし電話があったとしても、職員に掛けている間に銃撃されてデッドエンドだろうし、俺のスマートフォンの連絡先は敵かお客さんばかりなので何処に掛ければ良いか見当がつかない。
こうなったらもう迷っている暇は無いので、俺はバス停の近くに停めてある自分のヴィッツに向かって地を蹴った。




