11.いざ六甲
俺はエイアルさんから紹介されたお客さんとの待ち合わせ場所である兵庫県まで、ひたすら西へ向かってヴィッツを走らせた。
(この頃、すげーバタバタしてんな……)
普段は関東圏から出ない俺は、首都高と違って緩いカーブや直線ばかりの高速道路で気が緩みそうになりつつそう考える。
思えば長野県のお客の下で仕事をした帰り道に、碓氷峠で謎のAE111に襲撃を食らってから一気に忙しくなった……と言うよりかは、立て続けにカーチェイスを繰り広げたりレースバトルを申し込まれたりして、違和感を覚える日々が続いていると言うのが正しい。
(そして今度は兵庫県……まさかセントラルサーキットでレースしろとかって言われるんじゃないだろうな)
俺は決してレーサーでも何でもない、裏の世界に関わりがある事以外は本当にただの一般人である。
エイアルさんからの頼みと言うのであれば、また身体を求める客の紹介か、もしくは何か「仕事」の手伝いをしてくれる人足的な役割の人間として回されたのかのどちらか位しか思い浮かばない。
どんな人が待っているのかとか、俺と会ってどうするのか等を考えつつ夜通し走り続け、途中のサービスエリアで飯を食ったり睡眠をとったりして、ようやく関西エリアの一番西側に位置している兵庫県に辿り着いた。
(さってと、エイアルさんに電話電話……)
事前に言われていた通り、兵庫県に着いたので俺はエイアルさんの個人携帯に電話を掛けて報告する。
『もしもし、カイザム君?』
「エイアルさん、今兵庫の尼崎って場所までやって来ました」
『そうか、意外と早かったね。だったらそのままもう少し足を伸ばして、表六甲の頂上にあるパーキングエリアに行ってくれ。そこで赤いアルファロメオに乗っている茶髪の男が居る筈だ』
「赤いアルファロメオの茶髪の男の人……ですね。今は午後の十五時ですけど、今すぐ向かえば宜しいのですか?」
『あー……ちょっと今の時間帯はまだ早いな。向こうもなるべく表に出たがらないタイプの人間だから、もっと遅い時間にしよう。そうだねえ……午後二十一時でお願い出来るかな?』
「分かりました」
となるとかなり時間が余ってしまっているので、俺は時間を潰すのとせっかくの関西なので観光も兼ねて大阪市内を見回ったり、神戸市内を見回ってみる事にした。
(ここまではあのザルスも追い掛けて来ないだろうし、関西方面は滅多に来る事も無いからなー)
東京に次ぐ大都市の大阪だからこそ、木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中である。
大阪の名物の一つの食い倒れ人形を見たり、二度付け厳禁の本場の串カツを味わったり、首都高と同じ様に合法のサーキットになっている大阪環状線から湾岸線まで一周してみたり、通天閣に寄ってみたりする。
大阪駅の真ん前に青いランボルギーニディアブロが停まっていたのはちょっと驚いたが、こっちでもやっぱり金持ちは居るもんだなーと同時に納得する。
神戸では神戸ハーバーランドの神戸ポートタワーを見に行ったりして、六甲山の表と裏の出入り口を確かめたり、実際に上ったり下りたりしてコースをチェックしたりする。
(ここも首都高とか碓氷峠と同じ様に合法のサーキットとして再利用されている道だけど、こんな所で待ち合わせするのか……?)
今までバトルした中で合法のサーキットになっていないのは、ザルスとカーチェイスを繰り広げたヤビツ峠とゼイオスさんとサザートさんとバトルした三鷹のストリートだけであり、今の日本の道路事情はだいぶ変わって来ている。
そして約束の時間に少し余裕を持って、表六甲の道を上り切った場所にある頂上の丁字が辻のバス停までやって来た俺は、エイアルさんから教えられた赤いアルファロメオに乗っている茶髪の男を探す。
(ん……あれかな?)
俺の視線の先には、アルファロメオはアルファロメオでもかなりのビンテージモデル……間違いが無ければジュリアスプリントとか言う1960年代のモデルに寄り掛かっている、ちょっとキザそうな茶髪の若い男の姿があった。
「すいませーん、エイアルさんからの紹介のお客さんですか?」
俺がそう声を掛けると、男も俺の方に気が付いてフレンドリーに右手を上げて近寄って来た。
「あー、君がカイザム君だね。エイアルから話は聞いてるよ。俺はフレイザーってんだ。初めまして」
赤を基調とした上着を着込んでいる、フレイザーと名乗ったこの男に対して若干の馴れ馴れしさを感じつつも、俺は早速本題に入る。
「それで、エイアルさんからの紹介って言うからにはつまりそう言う事だと思うんですけど、何処か場所の希望とかってありますか?」
「場所ねえ……ここでも全然構わないんだぜ、俺は」
「えっ、ここでですか?」
外での経験は無い事は無いのだが、ここはバス停がある場所でもあるので流石に受け入れられない。
「ちょっと申し訳無いですけど、その提案はお断りします」
「あー、人が多いからねえ。だったら少し車を移動しよう。向こうの方に人気が無い場所があるからそこでやろうよ」
フレイザーさんも納得した表情になってから代替案を出して来たので、それであれば……と俺は乗る事にした。




