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10.呆気無い幕切れ

「うおっとっとお!?」

 思わずそんな声が出てしまいながらも、俺は左にハンドルを切ってAZー1を回避しつつ、あっさり二台の前に出る事に成功した。

 それもその筈で、一緒にスタートした筈のゼイオスさんのカプチーノが既にバックミラーに映っていたからである。

(後追い作戦なのかな……?)

 幾らチューンしてあるとは言え、軽自動車は軽自動車なので出せるパワーにも限界がある。

 それを見越した上でこうして後ろに引き下がったのかも知れないと思った俺は、バックミラーの様子を見ながらカーナビの指示に従って三鷹のストリートを駆け抜けて行く。


 カーナビ頼りなので何処を曲がるのか確認が遅れがちになるものの、それよりも歩行者の飛び出し等に注意を払って駆け抜ける俺。

 こうした住宅街は見通しが良くないのを、前に仕事絡みでヘマをやらかしてヤクザのオヤジに追い掛けられた時から分かっている。

 そして気が付けば、後ろからはゼイオスさんのカプチーノとサザートさんのAZー1が来て……。

(……あれっ?)

 バックミラーにはどちらの軽自動車の姿も無い。

 まさかミラーの死角で走っているのかと思い、その死角をキョロキョロと見てみるもののやはり居ない。

(やべ……俺、コース間違った!?)

 まさか違う道に入ったんじゃ……と焦りつつカーナビを確認してみるが、カーナビのルートは合っている。

「どうなってんだよ、一体……」


 そう呟きつつカーナビの終点まで辿り着き、そこから遅れる事およそ八秒で先にサザートさんのAZー1がゴール。そして更に二秒遅れてゼイオスさんのカプチーノがゴールした。

「……あのー、もしかして手を抜きました?」

 余りにも呆気無く終わってしまったこのバトルの結果に、ヴィッツから降りた俺は同じく車から降りて来たゼイオスさんとサザートさんにそう聞いてみる。

 しかし、二人の答えはNOだった。

「いーや、俺達はお互いに全力だった。強いて言えばパワーの差だ」

「ああ。流石にパワーの差があり過ぎた」

 異口同音に「パワー差があったから負けた」と言う二人に対して、俺は凄い言い訳がましさを感じた。


 だが、そんな気持ちの俺に割り込んで来る現象が。

「……あ、ちょっとすいません。電話だ」

 ズボンのポケットに入れてあるスマートフォンが振動しているのに気が付いたので、そのコールに出てみると聞き覚えのある声が聞こえて来た。

『もしもし、カイザム君かい?』

「あれっ、エイアルさん……どうしたんですか?」

 電話の主は、俺が昨日の夜に首都高でバトルしたばかりのエイアルさんだった。

 そして、エイアルさんは俺に突拍子も無い事を言い出した。

『実はね、君に紹介したいお客さんが居るんだけど……兵庫県に向かえるかな?』

「えっ、兵庫ですか?」

『そうなんだ。君と私が出会った様に、同じく裏の世界で知り合った人なんだけど……君の話をしたらどうしても会いたいって言っていてね。高速代とガソリン代を代金に上乗せするって言っているし、行って貰えないかな?』


 この前の長野のお得意様みたいに特別な場合を除いて、俺は関東圏から出ない事にしているのだが、エイアルさんからの紹介の上にガソリン代も高速代も出してくれると言うのであれば無碍に断る事も出来ない。

「分かりました。丁度車も早めに直ったし、今からでも行けますけどどうします?」

『じゃあ早速今からお願い出来るかな。先方さんには私から連絡を入れておくから、兵庫に着いたら電話をしてくれ。何処で待ち合わせをするかはその時に伝えるよ』

「分かりました。それでは失礼します」

 考えてみればあの実業家のザルスでも、関西圏まではなかなか追い掛けて来られないかも知れないと言う考えに至ったのもあって、俺は兵庫県に向かう事にした。


 その電話を横で聞いていたゼイオスさんとサザートさんが俺に話し掛けて来る。

『兵庫に行くのか?』

「ええ……今の電話の通りです。バンパーの代金は行く途中に指定の口座に振り込んでおきます。飯もご馳走様でした」

『そうか、分かった。長い旅になると思うが気をつけてな。でも何で大阪じゃなくて兵庫なんだろうな?」

「さあ……そこまで俺は首突っ込まないですから分からないですけど、何かしらの事情があるのは間違い無いでしょうね」

 とりあえず兵庫県に向かうべく、俺はゼイオスさんとサザートさんと別れて自分のヴィッツで再び高速道路に乗って、また西を目指し始めた。


 その去って行くカイザムのヴィッツのテールランプを見つめつつ、ゼイオスはサザートに尋ねる。

「ちゃんとセッティングしたか?」

「ええ、バッチリあれをつけておきました。どうやら向こうも上手くやっているみたいですからね……」

「そうか。なら後は向こうに任せるとして、俺達も仕事の続きだ」

 お互いに相手を見やって頷き合い、それぞれが自分の車に乗り込んで仕事場に帰るべく発車する。

 その二人の頭の中ではこれからの計画の成功がしっかりビジョンとして見えている事を、当然カイザムは知る由も無かった。

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