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9.バトルの申し込み

 その日はゼイオスさんのカーショップの手伝いをしながら今までの俺の話で盛り上がり、昼メシも晩メシも用意して貰ってとっても幸せであった。

 そしてヴィッツについた傷も直して貰ったのだが、ここでゼイオスさんとサザートさんから思い掛けない話が。

「そうだ、ついでと言っちゃ何だけど……良かったら俺達とバトルしないか?」

「えっ、ば……バトルですか?」

「ああ。ちょっと俺達の車のコンピューターのセッティングも弄ってみようかと思っててな。そのテスト相手に俺達と二対一でバトルってのはどうだ?」

「あ……ええ、良いですよ」

 ゼイオスさんもサザートさんも俺の車の面倒をずっと見てくれている人だし、その二人からの申し出とあれば断るつもりは無かった。


「でも、何処でバトルするんですか?」

 この辺りは町中だから、まさかこの辺りでバトルする訳にも行くまいと考えている俺に対して、場所の提案をしたのはサザートさんだった。

「それなんだが、ここから少し離れた場所にあるストリートでどうだ?」

「ストリート?」

「ああ。夜中から明け方に掛けて人通りが全くと言って良い程に無くなるから、そこの一角を使おう」

「……分かりました」

 サザートさんの提案を承諾しつつも、俺はガレージの隅で静かに佇んでいる二台の車に目を向ける。

 片方はゼイオスさんの愛車で、派手なリアウィングが特徴的な青いEA21Rのスズキカプチーノ。

 もう一台はワークスエアロが目を引く、水色にオールペイントされているマツダAZ-1。

 両方とも軽自動車だが、どんなチューニングがされているのかが分からない以上は油断出来ないだろう。


「なら決まりだな。バトルはヴィッツを直した次の日の朝四時半だ」

「は、早いですね……」

「サザートの言う通り明け方の方が安全だからな。今日直して……そして明日やろう」

「すげえ急な話ですね」

「まあ確かにそうだろうな。でも仕事が減っている今がチャンスと言えばチャンスだし、数日すればでっかい仕事が入る予定だから、やれるのは今しか無いんだよ」

「そ、そうなんですか……」

 そんなに生活に切羽詰まっているのかと俺は疑問に思ったが、他人の事情にそこまで深く首を突っ込むのも良くない。

 それ以上は話を広げずに、そのバトルの提案を受け入れてから俺はその日、このガレージで就寝した。

 ……寝る前からずっと続いている、心の奥で生まれた引っ掛かるものの正体が気になる気持ちを胸の奥に抱え込みながら。



 ◇



 その翌朝、俺はあんぱんで朝メシをご馳走になった後にゼイオスさんとサザートさんと一緒にガレージを出て、三鷹市の外れまでやって来た。

「良し、それじゃここからスタートしよう。カーナビにコースルートを入れておくから、それに従って走れば良い。そのコースの案内が終了する場所まで先に着いた方の勝ちだ」

 リアバンパーがすっかり直った俺のヴィッツのカーナビに、サザートさんがコースルートを入れているのを見ながらゼイオスさんが説明する。

「三台並んでスタートするんですか?」

「まさか、そこまでの道幅は無いさ。俺とサザートの車をそれぞれ横一列の状態に並べて、その後ろに君のヴィッツを並べたスタイルでスタートするんだ。見ての通りここには信号があるから、この信号が青に変わったらスタートしよう」

「分かりました」


 交差点にある信号を見つつそう言うゼイオスさんに対して俺は頷くが、カーナビ便りのコースルートなのでカーナビ無しでは何処を走れば良いのかが分からない。

 それでもバトルを受けた以上はやるしか無いので、俺はサザートさんによるそのカーナビのセッティングが終わったヴィッツに乗り込んだ。

(そう言えば、二台を同時に相手にした事って今まで無かった気がするな)

 フロントガラス越しに見える青のカプチーノと水色のAZ-1のテールランプを交互に見やりながら、こうした複数台相手のバトルは初めてだと言う事に気が付いた。

 となると、この狭いストリートなだけあってブロック戦法をするつもりなのだろうかと考える。

 相手は共に軽自動車なので、どちらか片方が相手ならブロックをかわして抜く事は簡単だが、二台同時にこうして道を完全に塞ぐ形で並ばれると幾ら俺のヴィッツのボディがコンパクトだと言っても抜くに抜けない。

(とにかく、行けそうな時にスパッと抜くしかねえな!)


 俺が心の中でそう意気込んだ瞬間、目の前の信号が青に変わってバトルがスタートした。

 それと同時に、俺のヴィッツの前で止まっていたサザートさんのAZー1がミッドシップのトラクションの良さを活かして勢い良く飛び出した。

(うわ、やっぱり軽自動車は軽いからスタート速いな。それにリアの重いミッドシップだから尚更……ん?)

 敵ながらそのスタートの良さに感心していたのはそこまでだった。

 アクセルコントロールでホイールスピンを抑えて、二百馬力のパワーを上手く路面に伝えて加速する俺のヴィッツの前に、あっと言う間にサザートさんのAZー1が迫って来る。

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