8.修理に出すか…
遅れて首都高サーキットから降りてきたエイアルさんは、俺のヴィッツの後ろにS55を停めてかなり落ち込んだ表情をしながら降りて来た。
「あーあ、負けちゃったよ」
「パワーだけがあってもダメなんですよ、スポーツドライビングはね」
「そうかもな……仕方が無い、約束は約束だ。君の勝ちだから治療費はタダにするよ」
こう言う所は医者らしくキッチリしている様で、俺はエイアルさんとのバトルを終えた。
だが、次のエイアルさんの一言ですっかり忘れていた事を思い出す。
「それはそうと、君のその車の後ろの傷は修理しないのかい?」
「え……あ」
エイアルさんに指摘されて彼の指先を見てみると、そこには修理の予約をしていたヴィッツのリアバンパーが俺に再び現実を教えてくれた。
「うう……そ、そうだった、こっちの傷も直さなきゃいけないんだった……」
「良かったら知り合いの車屋さんを紹介するが?」
「いいや、この車の修理はもう既に俺の馴染みの店に頼んであるから大丈夫ですよ。それじゃ今日はこれで失礼します。色々ありがとうございました……」
「ああ、気をつけてな」
エイアルさんよりも更に凹んでしまった俺は、予定していた日に必ず修理に出そうと思いながら帰り道を走り抜けた。
◇
それから修理の予定の日までは相変わらず他の客の所へ出張サービスに出かけたり、顔見知りの頭の固い政治家から金を積まれてライバルの政治家の動向を探ったり、裏の世界で知り合った車の輸出(と言う盗難グループ)の手伝いをしたりとなかなか忙しい日々を送っていた。
バンパーの修理代も稼がなければならないので、なるべく多くの仕事を入れた事も忙しさに拍車を掛ける要因の一つになったのではあるが。
(あー、今日も疲れたぜ……)
その忙しさで目が回りそうになりながらもようやく八王子のビジネスホテルに泊まった俺は、次の日にそのまま三鷹市へと向かった。
何故ならその日こそが、約束していた修理に出す日だったからである。
「こんにちわー」
「ああ、カイザム君じゃないか。待っていたよ」
三鷹市の一角で客の車のエンジンをガチャガチャといじっていた、青いツナギ姿の茶色い短髪の男の人こそ、俺がこのヴィッツを買ったカーショップの店長であるゼイオスさんである。
面倒見の良い性格で、何かとヴィッツのメンテナンスやチューニングを提案してくれるのだ。
「聞いたよ。碓氷峠でオカマ掘られたんだって?」
「そうなんですよ。それ以外にもですね……」
俺はヤビツ峠でのザルスのバンパープッシュの件も話し、更に傷が大きくなったのでそれも纏めて修理して貰える様に頼んでみる。
「あー、確かに結構凹んでるね。でもこれ位だったら一日で直っちゃうよ」
「そうなんですか?」
「ああ。今のテクノロジーは進歩してるからね。ボディリペアの技術だって例外じゃない。サザートと一緒に直しておくから、明日また取りに来てくれ」
そう言うゼイオスさんの後ろからヌッと姿を現した、黄色に近い金髪の若い男の人は今ゼイオスさんが口に出したサザートさんで、このカーショップの従業員である。
しかし、俺はそのゼイオスさんの指示にすぐには乗れなかった。
「そ……それは良いんですけど、この所は何かとトラブルに巻き込まれる事が多くてちょっと疲れてるんです。出来ればこの近くで安いビジネスホテルとかあれば紹介して貰えませんか?」
「トラブル……まあ、さっきの話からするとそうだろうな。相手はレビンに乗っている正体不明の男と、今の世間を賑わせている実業家の男だって言うからな。前者はまだしも後者はそれなりに社会的な地位もありそうだしな」
「エイアルさんと首都高でバトルしてからは特に今まで何も無かったんですけど、公共交通機関を使って家に戻るとなると多くの人目に付きますから、そこで狙われるかも知れないんですよね」
俺らしくないネガティブ思考だぜ、と自分で言ってて思ってしまうものの、実際にそうした危険があるからこそ自分の車で無い交通機関で迂闊に動けないのが現実だ。
すると、その話を黙って聞いていたサザートさんがこんな提案を。
「店長、だったら上の部屋が一室空いていますからそこに泊まって貰ったらどうです?」
「あー、そうだったか?」
「はい。倉庫代わりにしようと思ってこの前に片づけたばっかりじゃないですか。それに最近はここの仕事が減って来たとは言え、預かっている車も多いですから見張りもして貰えば良いんじゃないですかね?」
サザートさんの提案にゼイオスさんはすっかり感心した表情になる。
「そうかそうか、それだったら君もここで匿えるし、見張りもして貰えるし一石二鳥か。なら頼めるか? メシ位は昼に牛丼、夜にピザでも出前取るからさ」
「え、良いんですか?」
「あー、全然それ位だったら。牛丼とピザの代金を修理費に加算したりなんかしないから心配するな」
「そ、そうですか……でしたらお言葉に甘えさせて下さい」
匿ってくれる上にメシまで奢ってくれるらしいので、俺は願っても無い提案に表情が緩むのだった。




