魔杖カドゥケウス④
「アキラさん・・・ あの・・・」
クリスの申し訳なさそうな声にハッとなる。
クリスとアイシャは俺の手にある魔杖と、レイとその手にある魔剣を、アマネとその手にある神刀を順に見て、俺の所で目が止まる・・・。
これは、やっぱり・・・。
だよな・・・。
「あの・・・ な・・・」
『ちょっと待ってください!』
「わっ! 何だ!? ・・・カーラか?」
頭の中に突然叫ばれてビクッとなってしまった。
『分離します』
「え!? あー うん・・・」
杖が紫紺に輝いて、光が収まった時には俺の傍にカーラが立っていた。
「ふ~・・・ 久しぶりに同化すると、疲れますね~」
「そんな年寄みたいな事を・・・」
「いえ、ちょっと力が残り少ないもので」
「そうなのか?」
「はい、それはこの後でマスターに頑張ってもらいますから、いいんですけどね♪」
「うん、まあそれは後でな・・・」
少し話がズレていってる気がする。
「それで、何を待つんだ?」
「それは、まだ私の事が終わっていませんので、それを先にさせて欲しいんです」
「そうなのか? 杖の封印を解くのが目的と思っていたんだが?」
「それと同じくらい大事な事です」
「そうか・・・ それは?」
「彼女を解放する事です」
そう言ってカーラは杖の封印を守っていた魔女の石像を指した。
「魔女が?」
「そうです。彼女は本来のガーディアンではありませんから」
「え!? そうなのか?」
「はい。彼女はガーディアンに取り込まれてしまい、その力を使われていただけです」
「何か理由がありそうだが、それは後で聞くとして・・・。彼女の開放はすぐにできるのか?」
「問題ありません。ガーディアンの機能は杖の封印を解いた時に停止していますから。だから少し急がないとダメなんですけど」
「なら、急がないと!」
「では、少し杖を使いますので」
俺はカーラに魔杖を渡す。
カーラは杖を構え、石像の方を向いて目をつぶりブツブツ呟き始めた。
カーラの呟きが次第に力を持ち、カーラの周囲に魔法陣が出現する。
出現した魔法陣の輝きが増し、白かった光が赤く変わりカーラの動きが止まる。
カーラが目を開き、杖を石像に向けると別の魔法陣が石像の上に出現した。
新しく現れた魔法陣は石像の上から足元まで降りていく。
魔法陣が床に着くと、石像が白く光り、次第に石から人の肌感になっていった。
完全に人の姿形になった女性は、先ほどの死闘を繰り広げた姿と全く同じだった。
ただ彼女の後ろには2メートルほどの、精巧な作りをした龍の石像があった。
恐らくこの龍が本来のガーディアンなのだろう・・・。
そして、人の姿に戻った魔女が目を開き、口を開いた・・・。
「おはよ~~ ございます~~」
「・・・」
緊張して事の成り行きを見守っていた、俺達の空気をぶち壊すかのような、間延びした口調だった。
「久しぶりねリリア!」
「はい~ カーラさんも~ お元気そうで~ なによりです~」
先ほど繰り広げられた魔法戦を覚えているカーラを除くメンバーはあまりのギャップに唖然としていた。
「あれ? 皆さんどうしたんですか? ハトが豆鉄砲を喰らった顔をして?」
「いや、ハトのそんな顔を見た事無いから、どんな顔か分からないが、さっきの戦闘と全然違うからな・・・」
「さっきのは~ 忘れてくださいよ~。ガ~ディアンの~ せいだったんですから~。 お陰で~ せっかくの魔法具が~ 壊れてしまいました~~」
「魔法具?」
「はい~ 物理攻撃の~ 完全防御です~」
「あ~ さっきの!」
「そうなんですよ~ 手に入れるのに~ 苦労したんです~」
「まあ、確かにあまり聞いた事が無いしな・・・」
ゲーム中ではそんな装備は存在しなかった。モンスターの能力ではあったので、初めて戦闘した時に苦労したのを思い出した。
「まあまあ、その内作ってあげるから。 そんなに気を落とさないで」
「お願いします~~」
「え!? カーラは作れるのか?」
「そうですね、1年ぐらい掛かりますけど?」
「そんなに掛かるのか?」
「付加能力が高いと時間が掛かりますね。結界石ぐらいならすぐに造れますね」
「え!? 結界石が造れるのか?」
「そうですね材料の水晶があればできますよ」
「これでいいのか?」
そう言って俺は魔女の城に来る前に通った坑道で手に入れた水晶を、袋から取り出した。
「大丈夫です。造ります?」
「そうだな・・・ 頼むよ」
「分かりました。では・・・ ゴニョゴニョ・・・・」
カーラは水晶を俺から受け取ると、またブツブツと呪文を唱え始めた。
1分程唱えると、カーラの足元に魔法陣が現れて、カーラが杖を水晶に向けると、水晶に吸い込まれていった。
「できました」
「どれどれ・・・ おお! 確かに結界石になっているな!」
俺達が驚いていると、カーラはドヤァとした顔をしていた。
それはそれは、いい表情だった・・・。




