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取り憑かれた伯爵家御曹司 国を盗む  作者: 新田 勇弥
1章 ゼルガス戦役

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2/8

2話 ロウソー砦夜襲(2) ラマーゾの里へ

3話連続投稿の2話目です。

女だけの民族ラマーゾの里へ突入です。


ブックマークと感想を是非お願いします。


固有名詞が多めなので、概略のまとめを。


●アンドレアス・ギュノス

ギュノス伯爵家3男にして、現在の嫡男。主人公。御曹司。アンディ。


●アニー

小妖精(?)。主人公に付き従う。


●マンフレッド

主人公の側近(頭)。


●マシマ

ラマーゾ族の傭兵部隊の取次。


●ギュノス

伯爵家(主人公の家)。領地の名。


●ゼルガス

伯爵家。ギュノス伯爵と長く紛争している。ギュノス伯領の南方に接する。


●ラマーゾ

国人領主の名、中立の小民族。ギュノス伯領とゼルガス伯領の間のレーズルの森に棲む。女性だけの民族で、傭兵にて経済を立てているが、謎が多い。


 どこをどう辿ったのか、恐ろしく入り組んだ川を1時間以上進むと、木造の小屋がいくつか建っているのが見え、やがて船着き場へ横付けした。

 岸に降りると、まわりをびっしりと女たちに囲まれた。こちらへあからさまな敵意を見せている。


「御曹司」

 側近たちが我を囲んで、一触即発の気合いを見せる。いずれもギュノス子飼いの、下級であるが貴族子弟だ。流石と言うべきか。しかし、囲んでいる者達は本当に女ばかりだな。大体が若い。ただ身に着けるものは、大まかに皮鎧か、色気のかけらもない麻布性の長袖、長ズボンだ。


「皆々、ギュノスの若君であらせられる。粗相のなきように」

 殺気は消えなかったが、ジリジリと下がっていった。この女(マシマ)は、族内で意外と高い地位のようだ。

「族長の元に、ご案内いたします」

 船着き場を離れ、木立に挟まれて見通しが利かない道を歩く。


「マシマ」

「なんでしょう」

「舟が随分迂回していたようだが、我らに道程を覚えさせぬためか?」

 アニーが上空から俯瞰した視界は、我と共有できる。見ていると真っ直ぐ進める水路も、右に左に曲がって、船着き場にたどり着いたのはわかっている。

「それもありますが。水路が続いていても、瘴気が漂っており、通れぬところもございまして」

「ほう。そうだったのか」


───瘴気って?


『火山性のガス(噴気)だろう。さほど鼻を突かなかったから、亜硫酸系ではないようだが、猛毒かもしれないな』

「瘴気の中を進むとどうなる?」

「そこに居た時間にもよりますが、命を落とします」


───前から思っていたけれど アンディって物知りよね どんな傭兵だったのよ?


『気にするな』


───気にするなって 言われても


「まもなくです」

 急に目の前が開けた。

「おお。森の中に、こんな集落があったとは」

 マンフレッドがつぶやいた。同感だ。

 板張りの壁、茅葺きの屋根。土が露出し清潔な通路。

 何人住んでいるんだ。一目で数十人ではないとわかる規模だ。数百……いや千を超えるかもな。


───また 空から偵察する?


『やめておけ。この里は嫌な気配がする。良いと言うまで、我の中から出てくるな』


───そうね なんか寒気がするから 入っているわ


 鱗粉のような光を撒きながら、我の胸元から中に入っていった。あの魔女も、入れば感知しづらいと言っていたから、少しは安心だ。進んで行くとやがて足元の礫が大きくなり、上り勾配へとなった。突如断崖が目前を阻む。

「族長は、この中におりまする」

 指し示す先に石造りの建物があった……さほど大きくないが、石積みが斬新だ。まるで切込接(きりこみは)ぎだ。この密林の中に、こんな物が。

 ラマーゾとは何者だ。


「大変恐縮ながら、お供の方はこちらでお待ち下さい」

「貴様、御曹司から離れよと申すか?!」

「マンフレッド」

「はっ!」

「我ら……いや、我に危害を加えるならば、ここまでに幾度もできたはずだ。ここで待て」

「はっ、ははぁ」


 取次役(マシマ)と共に中に入った。いくつか部屋はあったが、人の気配はない。

 こんな広かったか?

 徐々に暗くなっていく。何か、臭うな。陶然となりそうだ。


「族長の居所にございます」

 あの壁、そうか。ここは、建物の中というよりは、崖に喰い込む洞か、何かだ。

 油皿の灯火が、ちらちらと揺れる。

 椅子もテーブルもない。部屋には、床に絨毯を敷き、そこに座っている者が2人。奥に姿勢はいいが顔は相当年配の1人。左に被り物をしている若そうなのが1人。前者が族長なのだろう。

 身に着けたものは、麻布の服だが、多くの首飾りを掛けている。


「族長。ギュノスの御曹司、若君にございます」

 目が悪いのか、瞼を薄く開けて我を見ている。


「ようこそ。ラマーゾの里へ」

 族長は額に指を当てると、息を吹いた。

「アンドレアス・ギュノスだ」

「御曹司。ここではそちらの敷物の上に座ります」

「ああ」

 マシマに促されて、綱を渦巻状に巻いた物の上に座った。


「さて、我の用件は後にしよう。サーメル関に来たマシマは、族長も我に会いたいと言った。そちらを先に済ませてくれ」

「では。会いたい……顔を見たいと言い出したのは儂だけではない、そちらのルリでな。儂よりもよく占う巫女じゃ」

 巫女。被り物で目元はよく見えないが、口元や顎はまだ少女だ。我と同い年、もしくはひとつふたつ下か。


 巫女が一瞬笑うように見え、すっと息を吸った。

「新月の夜、星がぶつかって入れ替わりました」

 新月───我がこの身体に取り憑いた、あの日ではないか。

「入れ替わったとは、何かの見立てか?」

「さて、占星術とは、すべて何かの見立てでござりますゆえ」

 巫女は頭を下げた。


「ルリの占いを聞き……儂も見たが、確かにギュノスの衰運は底を打ったようであった。代わって、ゼルガスの凶兆が強まっておりまする」

「それは、我に対する甘言か?」

「戦(いくさ)においては駆け引きを弄するとも、天の思し召しは偽らぬ」

「そうか。占いが正しいとして、その原因が我だとなぜわかる?」

「わからなかったゆえ。部族の他は立ち入らせぬ、この里に招き入れもうした」


「そうか。ならば、我を間近にしてどう見るか?」

「眩しゅうございます」

 目を細めていたのは、そのせいか。

「眩しいわけはなかろう。ここは暗い上に、我は、そなた達とさほど変わらぬ服の色だ」


「いいえ、目映うござる。若君は燐光を放っておられるゆえ。常人には見えぬでしょうが、この婆にはそれが眩しいのです」

「燐光」

 もしかして、アニーが見えているのか?

「魂が、我らとは同じとは思えませぬ」

「そうは思わぬが。ところで、我と会ってどう見る。眩しいだけか?」


 族長が、巫女を見る。

「一度お目に掛かって、どうなるものでも。これより始まるのでしょう」

「そうやも知れぬ。我らが言えることは、この辺り。若君の用件をお聞かせ願わしゅう」

「ふむ。では、我が願いを言おう。レーズルの森を通せ。サーメル関からではなく、この森から、ゼーガスの領内に入りたいのだ」


「ほほほ……さきほども申したように、他民族に森に入れたことは、こたびが初めて。それを通すなど」

「誇りが許さぬか?」

 族長は、黙り込んだ。

「ラマーゾは独立独歩だそうな。それは良いが、時勢を見誤ってはならぬ」

「時勢……」

「そうだ。こたびはゼルガスがベルクに頼み、多勢を繰り出してきた」

「存じております。それでも御曹司は、緒戦に勝たれたと聞いておりますが」

「緒戦に過ぎぬ、それよりもだ。我がギュノスが敗れれば、レーズルの森の周りは、ゼルガスに囲まれるぞ。国人を冷遇するゼルガスにな」

「むう」


「それは、独立独歩ではなく、ただの孤立だ。傭兵を出している以上、森だけでは立ち行かぬ事は分かる。そうなれば……」

「ゼルガスとベルクの黒幕が、我らを窒息させると」

 ふむ。理解しているようだ。


「ならば、我に進んで協力すべきではないか?」

 族長は、深い眼窩の奥を瞬かせた。

「御曹司」

 後だ。

「なにかな? マシマ」

「関にいらっしゃる貴軍が、仮にこの森を通り抜けたとして、多勢に無勢は変わりません。そして、ラマーゾはこの地を喪うでしょう」


 マシマを振り返る

「それに貴軍3千が通り抜けるのは、そもそも無理。舟が足りませぬ」

「我と外に居る者だけでは、いささか心許ないが、抜けるのは数十で構わん。その数ならば、そなた達ラマーゾの協力のもとに抜けるのは可能であろう。そうでなければ、我らにも、ゼルガスの情報は入ってこないはずだ」

 マシマは、ようやく黙った。


「たった数十人……若君、通り抜けておいて、ゼルガスと戦わぬと言われるか」

「お婆様。何が狙いなのかわかった気がします」

「なんと」

「ゼルガスの大軍に挑まずとも、死命を制すことはできる、そうおっしゃるのでしょう」

 ほう。ただの占い巫女ではないのか。

「うむ。敵が守らぬところを攻めるつもりだ」


「少々、お待ちください」

 巫女が横を向いた。小さい盤のようなものを指で扱っている。占いか?

 手が止まった。

 むっ! 何かの発作のように、全身を震わせた。なんだ?


「〜〜〜 刻(とき)は 在(いま) 〜〜〜」


「今じゃと」

「満月にござりますれば……今宵を逃して上首尾は非ず」

「ルリよ、この若君の願いを叶えよと申すか」

「いえ。占果を申しました」

 族長は、また額に触れ、長く息を吐くと目をつぶった。


「よろしい。若君とお連れを、今宵森の南まで案内いたしましょう」

「今宵……」

「協力せずに居られぬとは、まこと当を得たお言葉。感服しました。ただ、ラマーゾは占果にしたがう衆にございますれば。否やとおっしゃるのであれば、このままお帰りください」

 

「ふむ」

「人が足りぬとあれば人を、馬が入り用であれば、それも貸しましょう」

「ありがたい話だ。それで、我らギュノスに何を望む?」

 只で協力をするはずはない。しかも、ギュノスとゼルガスに挟まれたラマーゾだ。現時点においては、我が方が寡兵。それに味方するのだ。

 占いの結果かもしれないが、相当な覚悟がいる。その代償は如何に。


「ならば申し上げよう。安堵令のごとき紙切れではなく……」


     †


「御曹司!」

「ご無事で。ようございました」

 族長の居館を出ると、側近たちが駆け寄ってきた。

「マンフレッド」

「はっ」

「今宵、夜襲を掛けることにした」

「夜襲……」

 顔を引き攣らせて、辺りを伺う。

「案ずるな。攻めるのはゼルガスだ」

お読み頂き感謝致します。

ブクマをいただくと、とてもうれしいです。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Xもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2026/10/13 誤字訂正 (gakuさん ありがとうございます)

2026/10/14 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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