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第12話 脈動する肉体

長くなってしまったので連投です。

『……邪ナル偽リノ教エニ陶酔セシ悪魔メ……今ココデ打チ払ワン!』


 遂にその正体を表した修道女の見た目をした幽霊。しかし、どこかに狂気と憂いを孕んでいる。

 幽霊はレイドに向けて鎖を射出した。下手に剣で触れようものならたちまち絡めたられてしまうだろう。思わず、ユウリが叫ぶ。


「ひっ……レイド、危ない!」


「この程度で怯んでらんねぇだろ! ユウリはルリカの保護に専念してくれ!」


「あっ……もー……『私の言うことを聞け』って約束したじゃん。見てる方が心配だよ」


 ユウリが止めるのも聞かず鎖の鞭の中をレイドは駆ける。畳みかけるようにレイドを襲う鎖。彼はほとんど生存本能に近い爆発的な回避能力を見せる。


『エエイ! 往生際ノ悪イ! 抵抗シテモヨリ汝ヲ痛メルノミゾ!』


レイドの外套を鎖が掠めて破れる。中には金色の輝きが秘められている。


「知らん! お前がこの街の人を殺して回ってるのは知ってんだ! 免罪符を多く持っている人間を優先して狙ってるんだろ!」


『殺シデハナイ! 救イダ! 憐レナ子羊ヨ……一体誰ニ何ヲ吹キ込マレタノダ』


 感情を爆発させたかと思えば、その直後には慈愛に満ちた台詞を吐く。二つの人格を一つの体に宿しているかのような不気味さがある。


『コレデ浄化スル!』


 バランスを崩したレイドの眉間目掛けて、先端の尖った鎖が飛んできた。回避が間に合わないと悟る間もなく、針先がレイドの表皮を微かに抉る。


 次の瞬間、レイドの心臓が大きく跳ねた。これが最後の脈動か。否、体中に一気に血液が巡り、レイドは紅い稲妻を纏う剣で鎖を弾き飛ばした。


『馬鹿ナッ!?』


 幽霊は予想外の事態に僅かによろめくが、すぐさまレイドの背後から鎖を飛ばす。しかし、その鎖はユウリの炎でかき消された。


『ア……アヅイ! アヅイイイイイイイ! オノレ……誠ナル者ヲ焼キ、不実ナル者ヲ救ウ偽リノ炎……消シ去ッテヤル!』


 幽霊は標的をレイドからユウリに変えた。レイドは幽霊の前に立ちはだかろうとするが、これまで以上に素早い鎖で横腹を叩きつけられ、壁に吹き飛ばされた。勢いのついた鞭は、肉をも裂く刃となる。鞭は確実に、レイドの脇腹を抉った。


「げほっ……」


レイドは脇腹を抑え、口から血を吐いた。下手に動けば全滅する。


「レイド! うわ、ヤバいヤバい……こっち来た! ルリカ! 逃げて!」


「えっ?」


幽霊はユウリとルリカの四方八方を鎖の包囲網で覆った。まるで逃げ場のない鉄格子は、もはや抜け出せる隙間はない。


『断罪ノ時ダ……』


鎖の包囲網は少しずつその密度を狭めていく。


「ルリカ! 絶対にわたしから離れないで!」


「は、はい!」


「そこッ! そいやッ!」


ユウリは杖と魔法を駆使し、時々二人目掛けて飛んでくる鎖を弾く。


「あ、あの、あの幽霊、炎を過剰に怖がっています。内側から焼き尽くしてはダメなのでしょうか?」


「はぁ? そんなことしたら、ルリカの顔に一生消えない痕が付いちゃうよ! 《《わたしは平気》》だけど、他の人が触ると普通に火傷するし!」


「ですが、このままだと……! レイドさんも重傷ですし……」


 攻撃は激しくなる一方。ユウリの体力もじわじわと削られ、肩で息をし始めた。もうこれ以上は抑えきれない。ユウリは杖をその場に捨てると、両手でルリカを抱きしめた。二人の背中に鋭い鎖が狙いを定める。


 包囲網の外側のレイド。満身創痍でありながらも、剣を逆手に持った。自分のことは二の次だ。二人に怪我をさせる訳にはいかない。剣を振りかぶる。


「せめてもの抵抗だ!」


レイドの手から槍のように鋭い剣が投擲され、鎖が生えている幽霊の背中に命中する。


「グオッ!?」


 幽霊は体勢を崩し、次の瞬間、包囲網が解かれた。包囲網の内側からは、腕から血を流すユウリと、ユウリに抱きしめられたルリカの姿があった。

 幽霊が再び包囲網を敷く前に、レイドが二人と幽霊の間に割って入る。剣は投擲してしまった。今のレイドは武器も考えも無い丸腰だ。


「俺は剣士だ……守るのが役目だ。二人とも、下がってくれ」


「ですが、そのお怪我では……」


「大丈夫だ。この程度で死ぬほどヤワじゃねぇ。俺は心臓握りつぶされたって死にはしねぇ!」


 叫びと共にレイドは真っすぐ幽霊に突っ込んだ。幽霊の方もまさか丸腰でぶつかって来るとは思わなかったのか、鎖を束にして真正面からレイドを迎え打った。


「見切った!」


 レイドは一か八か幽霊の股を潜り抜け、背中に刺さっていた剣を引き抜いた。柄を握りしめると、龍核を通して頭の中にあるビジョンが流れ込んでくる。


「……トドメだ!」


 無我夢中で振り抜いた剣から、紅い閃光と共に空気を裂く雷鳴が周囲に響く。手ごたえは確かにあった。思わず振り向いた幽霊に向かって、三日月のような軌道を描き、心臓部に確実にダメージを与えた。


「ハァッハァッハァッ……な、なんだ今の……」


 息が上がる。鼓動がうるさい。掌が僅かに雷電を帯びている。確かに訓練すれば誰だって雷の魔法は使えるが、レイドはそんな心得は何一つない。それ以上に、見間違えでなければ、この雷は真っ赤に光っていたことが不思議でならない。


『ウグォォォォ!』


 苦悶する幽霊の顔面にひびが入る。直後、化粧が剥がれ落ちるかのように割れていき、遂にはその下に隠されていた素顔を露わにした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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