第3話 初めての友達
藍川さんが帰った後。
俺はオムライスの残りで簡単に食事を作り、自分の部屋でゴロゴロしていた。
今日は大変だったな。
ボドゲ部のことを、いまだに考え込んでしまう。
あのボドゲは楽しかったけど……入部するとなると話は別だ。
すると――
「お兄ちゃん!」
泰葉がベッドの横に座った。
今日は本当に助けられたな。
「今日はありがとな」
「別にいいんだよ?私なんか、気にしなくても」
首を傾げる俺。
「だから、部活。入りたいんでしょ?」
参ったな。
泰葉には隠し事ができない。
「まあ、正直にいうと、そうだな」
「私、お兄ちゃんがいなくても大丈夫だし。明日からお兄ちゃんのお弁当と朝ごはんは私が作るから」
「でも、泰葉。部活に入ったら、俺がいなくなる時間が増えるぞ?」
「わかってる。悲しいけど、私は受験生だよ?勉強もしなきゃいけないから、お兄ちゃんがいなくても頑張れる。家事もこなしてみせる。だから、安心して学校生活を楽しんできて」
俺は泰葉の頭を撫でる。
泰葉は優しい子だな。
「ありがとう、泰葉。ちょっと考え直してみるよ」
泰葉が出て行った後、俺は目を閉じて考え込む。
泰葉の優しさを無駄にするわけにはいかないな。
***
泰葉は昔から、俺と同じで友達作りが苦手だった。
中学一年の頃。
泰葉は毎日「学校楽しかったよ」と笑っていた。
でもある日、先生から電話が来た。
——友達がいないらしい、と。
俺は先生に相談して、泰葉の友達を作ることができた。
それ以来、泰葉は俺に気を遣い、心配させまいとしてくれていた。
だから俺は、常に泰葉の面倒を見続けていた。
不満を覚えたことは一度もなかったし、むしろ楽しかった。
そんな泰葉が、こんなことを言ってくれるなんて――
本当に泣ける。
***
「お兄ちゃーん!!
そろそろ起きないと遅刻するよ!!」
体をゆさゆさ揺さぶられ、目を擦る。
「う、ん?泰葉、おはよう」
ぼやけた視界で最初に目に入ったのは――
エプロン姿の可愛らしい泰葉だった。
「泰葉、本当に作ってくれてたんだな」
「当たり前でしょ。料理は主婦の基本ですから」
鼻を伸ばす泰葉に、思わず笑う。
「はいどうぞ。今日は多めに作っちゃった」
「だいぶ豪勢だな。どれも美味そう」
魚をひと口。
「……うまい。うまいぞ泰葉」
「もう泣かなくていいじゃん。あと、お弁当も作っておいたから、まだ開けちゃダメよ。お兄ちゃん、めっちゃ喜ぶと思うから」
「えー、なんだろ楽しみだな」
準備を済ませ、家を飛び出す。
小走りしていると――
ん?啜り泣く声がする。
昨日もこんなことあったな。
角を曲がると――マジかよ。
蹲っている藤平。
「藤平、遅刻するぞ!!」
俺を見ると、安心した表情を浮かべる。
「琥太郎ぉ、聞いてく――」
「いや、今無理」
藤平の腕を強引に掴み、角を曲がりきる。
「おい、あとチャイムまで一分だけど大丈夫か?」
「おわた」
***
「お前らまた遅刻か!!あとで職員室こい」
……クソ、藤平を置いてけば絶対間に合ってたわ。
***
二連続遅刻かぁ。
昨日やんわり注意してくれた須田先生も、今日は結構キレてた。
成績に響くよな……すると、遅刻の元凶が俺の前の席に座ってきた。
「よお、琥太郎。さっきはやばかったな、須田もあんなにキレるんだな」
「で、また名も知らない女の子に告ったのか?」
藤平は首を縦に振る。
こいつ、諦め悪すぎだろ。
「藤平、忠告するけど、もうそんなことしない方がいい。付き合えるわけないし、評判も下がりますよ」
泰葉に作ってもらった弁当を机に置きながら、俺は呆れたように言う。
流石に、やめるだろう……。
「ああ、そうだな、やっぱり俺って駄目な奴だよな」
「駄目な奴じゃないですよ。ただ馬鹿ってだけで」
「おい!慰めの一つくらい入れろよ!!」
「毎日告白してる奴に慰めはいらんでしょ」
本当なんだ、この人は……
弁当の蓋を開けると――
開けた瞬間、電光石火で閉じる。
泰葉の意味がわかった。
確かに喜ぶけど、これは……キャラ弁!!
しかも俺の大好きなやつ!!
「ん?どうした、琥太郎。弁当をすごいスピードで閉じて……何かあるのか?」
「いや、何もないっす、藤平さぁん」
「怪しいな、弁当見せてよ」
「いや、別に……あ、トイレ行ってきます」
「トイレなら弁当持つ必要ないだろ!」
俺の必殺技「便所飯」が封じられた……。
「怪しいな、さっきから何隠してる?」
「……だから何も隠してないって!あー、弁当奪わないでください!!」
一瞬で弁当を取られてしまう。
……まずい、まずすぎる。
「さてさて、何かな〜」
もう開けられる。
万事休す。
「え?琥太郎、これって」
終わったな。
「琥太郎、すごいな。お前もこれ好きなのか?」
「え?」
「俺も好きなんだよなぁ。お前、この何が好き?」
こ、こいつ……知ってる。
「藤平も見てるの?」
「ああ、見てる見てる。あれめっちゃ好きなんだよね」
今、確定した。
こいつは俺の友達だ。
「俺は7かな、藤平は?」
「わかる〜。7も捨て難いけど、俺は主人公が好きな2かな」
手を突き出す俺。
こいつはわかってる。
「でも、なんで隠してたんだ?こんな上手なキャラ弁、俺だったら見せびらかすけどな」
「いや、普通に恥ずかしかったから」
「恥ずかしがることねえって!むしろこの弁当で琥太郎の好感度上がったぞ」
「そういうもんかね?」
「お前、敬語やめろよ」
「え?」
「俺らもう友達だろ。敬語なんていらねえよ」
「確かに、敬語っておかしいよな」
「おかしいって何だよ、おかしいって」
少し変わったやつだが、悪い奴じゃない。
俺の初めての――友達だ。




