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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第3章  救済の魔蟲
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第61話  破滅の魔光


「……流石に気付いたようだな。敵が陣形を組み始めてやがる」


 シムスは額に手を当て、遠くを見る素振りを見せながら戦闘態勢に入ろうとしている公国軍を見る。

 ゼブルや他の魔将軍もシムスと同じように公国軍の様子を窺っており、全力で自分たちの相手を迎え撃とうとしていると悟った。

 アルシェスや王国軍の騎士たちは二万近くの公国軍を目の当たりにし、これから視界に映る大軍が自分たちの向かって進軍して来るのだと緊張した様子を見せていた。

 先日、ゼブルたちは砦にいる公国軍とどのように戦うかを話し合い、ゼブルと魔将軍が公国軍の相手をすることを決め、その後に攻め込んできた公国軍を迎撃するか、自分たちが先に仕掛けるか相談した。

 砦に残っている食料や物資の量、リントスジンから増援部隊がやって来るのに時間が掛かることから、長期戦になれば自分たちが不利になると判断したアルシェスは自分たちから公国軍に攻撃を仕掛けることを提案する。

 普通なら物資が少なく、戦力が少ない状態で挑むのは危険すぎるが、アルシェスはゼブルたちの力を考えれば何の問題も無いと判断した。他にも自分たち王国軍は戦う必要が無いため、ゼブルたちに押し付けてもいいだろう、という下心から攻撃を仕掛けることを提案したのだ。

 こちらから攻撃を仕掛けるというアルシェスの提案をゼブルは承諾し、話し合いの結果、ゼブルたちの方から公国軍の砦に攻め込むことになった。

 そもそもゼブル自身も先に公国軍に攻撃するつもりでいたため、アルシェスが先手を打つことを提案しなかったら、自分から公国軍の砦を攻めることを提案するつもりでいたのだ。


「見た感じ、戦力の大半を迎撃に回してるみてぇだが、流石に全ての戦力を使ったりはしねぇだろう。砦の中にも砦を守るための戦力が残ってるはずだ」

「いえ、恐らく彼らは全ての戦力を迎撃に回していると思います」


 テオフォルスは公国軍を見つめながらセミラミスの予想を否定する。

 セミラミスは防衛のための戦力を残していないと聞くと意外そうな顔でテオフォルスの方を向く。


「何でなんだよ? 奴らにとってあの砦を落とされたら王国軍の侵攻を許すことになるんだぞ。それほど重要な拠点を守る戦力を残さねぇってのは考え難いだろう」

「確かに普通の敵が相手なら公国軍も砦を守るための戦力を残しておくでしょう。ですが、今彼らの前にいる敵、つまり私たちはモンスターを従えている異様の部隊。公国軍はこちらがどれほどの力を持っているか、どんな戦術を使ってくるか全く分かっていないはずです」


 テオフォルスの話を聞くセミラミスは「確かに」と言いたそうにコクコクと頷く。


「情報が全くない相手に僅かな戦力で挑んでも返り討ちに遭う可能性が高い。情報が無いのだからより警戒して少ない戦力で挑み、様子を窺うという考え方もありますが、公国軍にとってこちらは情報が無いだけでなく、王国側の砦にいた二万の部隊を倒した存在。二万の部隊を倒す力を持っていることは分かるのですから、少ない戦力で戦うのは自殺行為だと考えるでしょう」

「例え情報の無い未知の相手でも、二万の仲間を倒して敵が相手なんだから公国軍は全力で挑もうとするってことか」

「ええ。他にも砦の防衛に戦力を回さずに全戦力で挑み、返り討ちにできれば問題無いと考えてるはずです」

「敵さんも必死ってわけか」


 全ての戦力を使わないと王国軍を倒せない状態の公国軍を見て、セミラミスは小さく鼻で笑う。非力な人間が必死になる姿はセミラミスにとってはとても滑稽に見えているようだ。

 公国軍の戦力や陣形を確認していると、セミラミスたちは公国軍の最前列で大勢の馬に乗った公国騎士が隊列を組んでいることに気付く。

 他の公国騎士や兵士と雰囲気が違う騎馬隊を見たセミラミスは興味のありそうな顔をする。


「おい、一番前にいる奴らは何だ? 周りの騎士や兵士と比べるとちーとばかり強そうだが……」

「ありゃあ、ダーバイア騎馬団の連中だろう。全員が馬に乗ってる点から間違いねぇ」


 後ろにいたシムスが騎馬隊の正体について語ると、セミラミスとテオフォルスはゆっくりとシムスの方を向く。


「ダーバイア騎馬団?」

「ティリアが言ってただろう。公国軍には騎兵だけで構成された精鋭部隊がいるって……忘れてたのか?」


 呆れたような顔をするシムスを見たセミラミスは瞬きをしながら黙り込み、しばらくすると何かを思い出したような反応をする。


「……お、覚えてるに決まってるだろう! ちょっと確認しただけだ」


 絶対に忘れてたな、シムスはそう思いながらセミラミスから目を逸らして静かに息を吐いた。

 テオフォルスはシムスとセミラミスのやり取りを見ながら「やれやれ」と苦笑いを浮かべる。その姿まるで子供のやり取りを見守る親のようだった。


「皆様」


 自分たちを呼ぶ声が聞こえ、セミラミスたちは声がした方を向く。視線の先には自分たちの方へ歩いてくるティリアの姿があった。


「ゼブル様が開戦後の流れを再確認なさりたいそうですので、お集まりください。既にアリス様はいらっしゃっています」

「ああ、了解だ」


 返事をしたシムスはゆっくり歩き出してゼブルの下へ向かう。

 テオフォルスも笑みを消し、真剣な表情を浮かべながらシムスの後を追うように移動する。

 ティリアは真横を通過するシムスとテオフォルスを確認すると自分もゼブルの下へ向かうために振り返り、来た道を戻ろうとする。

 そんな時、セミラミスがティリアの左隣にやって来た。


「おい、ティリア。ダーバイア騎馬団ってのはどのくらいの強さなんだ?」

「え? 騎馬団、ですか?」

「ああ。アイツらは公国軍の精鋭なんだろう? どのくらい強いんだよ」

「そうですねぇ……」


 小さく俯きながらティリアは考え込み、しばらくすると顔を上げてセミラミスの方を向いた。


「ダーバイア騎馬団に所属している騎士は一人でゴブリン三体を簡単に倒せるほどだと聞いたことがあります。ですから、少なくとも公国兵三、四人分の力はあるのではないでしょうか」

「……ということは、騎馬団の騎士はレベル15から20ぐらいってことか」

「ええ、多分それぐらいだと思います」


 断言できないため、ティリアは若干自信無さげな口調で答えた。

 セミラミスは遠くにいる公国軍の方を向き、最前列のダーバイア騎馬団を無言で見つめる。しばらくすると前を向き、深く溜め息をついてから呆れたような表情を浮かべた。


「精鋭部隊っつうからもう少しレベルの高い奴らかと思ったが、レベル15から20かよ。つまんねぇなぁ」


 公国軍の中でも特に優秀だと言われている騎士たちが強めの下級モンスターぐらいの実力だと知ってセミラミスは失望する。

 精鋭部隊と言われるほどなので、せめて英雄級の実力者ぐらいの力はあるだろうとセミラミスは予想していたため、予想以上に弱いと知って少しやる気が失せたようだ。

 ティリアは不満そうな反応を見せるセミラミスを見つめ、なぜ機嫌を悪くしたのか察して苦笑いを浮かべる。


「た、確かにセミラミス様やゼブル様と比べたら遥かにレベルは低く、倒し甲斐は無いかもしれません。ですが、一度の大勢の敵を相手にすることになるので退屈はしないと思いますが……」


 今のセミラミスが更に機嫌を損ねれば自分がとばっちりを受けるかもしれない。そう感じたティリアはセミラミスの機嫌を取ろうと、公国軍との戦いに面白いところもあるはずだと語る。


「退屈しない? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。いくら数が多くても、あたしらのレベルなら加減しても簡単に蹴散らしちまう。それで退屈しないって言えんのかよ」

「あ~、えっとぉ……」


 機嫌を良くするはずが逆に更に不機嫌になってしまったセミラミスを見て、ティリアは苦笑いを浮かべたまま言葉を詰まらせる。

 これ以上何か言っても火に油を注ぐだけだと感じたのか、ティリアは何とかこの状況を打開する手は無いかと表情を変えずに考えた。


「おーい、お前ら何やってんだ? 早く来い」


 遠くからシムスの呼ぶ声が聞こえ、二人は同時にシムスの方を向いた。

 ゼブルに呼ばれていることを思い出したセミラミスをムスッとしながらシムスの方へ歩いて行く。

 残されたティリアはセミラミスの相手を続けずに済んだことに安心し、同時にシムスに感謝しながらセミラミスの後を追うのだった。

 ティリアたちは少し離れた場所でアルシェスと共に公国軍の様子を窺っていたゼブルの下に集まる。

 ゼブルの隣にはアリスとダイナの姿があり、一緒に陣形を組む公国軍を見つめていた。


「全員集まったな? んじゃあ、作戦の確認をするぞ」


 全員が揃うとゼブルは低めの声を出しながら一列に並ぶ魔将軍の方を向く。

 ティリアはゼブルと魔将軍の作戦確認を邪魔しないよう、ゼブルの隣で静かに待機する。

 いよいよ公国軍との戦いが始まるため、魔将軍は全員が真剣な表情を浮かべながらゼブルを見ている。ただ、誰一人緊張はしておらず、全員が落ち着いた様子を見せていた。


「戦いが始まったら、予定どおり俺たちだけで公国軍の相手をする。今回の戦いは俺と魔将軍であるお前たちの力を公国軍に見せつけるためのもの。各々技術スキルや魔法を自由に使って構わない。とは言え、全力で戦ったり、切り札と言える能力は使うな? 公国軍が恐れるくらいの力を見せつければそれでいい」


 公国軍と戦う際に絶対に本気を出してはいけない、ゼブルは魔将軍たちを見ながら忠告する。

 本気を出させない理由はゼブルや魔将軍の実力の限界をダーバイア公国や他国に知られないようにするためだ。

 もしも本気の力がどれほどのものか敵対するかもしれない人間たちに知られれば、世界征服や今後の戦いに影響が出てしまう。

 戦いで自分の力の限界、技術スキルや魔法の全てを相手に知られないようにするのは基本であるため、ゼブルは魔将軍に本気を出させずに公国軍に勝利する必要があると考えていた。勿論、ゼブル自身も全ての力を使って戦うつもりはない。


「俺たちなら二万の敵が相手でも問題なく蹴散らすことができる。とは言え、あまり時間を掛けると力が強いだけで連中だと思われるかもしれない。だから、短時間で勝負が付くよう、最初に俺の攻撃で公国軍の大半を蹴散らす」

「ええぇ、マジかよ」


 セミラミスはゼブルの作戦を聞くと若干不満そうな表情を浮かべる。


「いくら時間を掛けないためとは言え、倒しすぎるとあたしらの相手が少なくなっちまう。……せめて半分くらいは残しておいてくれよ?」

「分かってる、お前たちの分はちゃんと残しておくさ。勿論、精鋭である騎馬団もな」


 ゼブルの言葉にセミラミスはニッと笑みを浮かべる。

 セミラミス以外の魔将軍も多くの敵と戦えることが楽しみなのか、小さく笑っていた。

 傍らで会話を聞いていたティリアは一万の敵を相手にしても難なく勝つ自信がある様子のセミラミスたちを見て、軽く目を見開きな内心驚いている。

 ティリアはゼブルの協力者になってからまだ一度も魔将軍が戦うところを間近で見たことが無い。そのため、魔将軍がどれほどの力を持っているのか詳しくは分かっていなかった。

 今回の戦いで魔将軍の力の一部を目にすれば、ティリアは魔将軍がどれほどの強者なのか理解できるため、しっかりと目に焼き付けることにした。


「ゼブル殿、お取込み中失礼します」


 ゼブルと魔将軍が作戦確認をしていると、背後からアルシェスが声をかけてくる。

 アルシェスの声を聞き、ゼブルやティリア、魔将軍たちは一斉にアルシェスの方を向く。


「どうした、アルシェス王女?」

「念のためにもう一度確認したのですが、我々は今回の戦いには参加せず、後方でゼブル殿たちの戦いを見ていればよろしいのですね?」

「ああ、俺たちがどれだけの力を持っているか、その目でしっかりと見ていろ」


 魔王の力がこの戦いで明らかになる。アルシェスはゼブルがどれほどの実力を持っているのか理解するため、そしてセプティロン王国の今後のためにもこれから行われる戦いの全てを見届けようと改めて決意した。

 ただ、ゼブルの力に対する恐怖心も僅かにあったため、最後まで見れるのかという不安もあった。


「ところで生き残った公国軍の捕虜、マルドギードたちはどうした?」

「彼らは砦内にある監視塔から戦いを見届けさせています。砦の外に出して万が一逃げられたりすれば面倒なことになりますから」


 アルシェスは砦の方を向き、出入口である扉の近くにある監視塔に視線を向ける。

 ゼブルたちもつられて監視塔の方を見ると、監視塔から公国軍の指揮官であるマルドギードが同じ捕虜である公国騎士と共に遠くにいる公国軍を見ている姿がある。

 マルドギードたちの後ろには見張りである王国騎士が二人おり、同じように公国軍の様子を窺っていた。

 砦の東側には他にも監視塔が幾つもあり、生き残った公国軍の捕虜と見張りの王国騎士たちが戦いが始まるのを待っていた。

 マルドギードや他の捕虜たちは約二万の公国軍が負けるとは思っていないのか、勝利を確信しているような表情を浮かべている。


「ゼブル殿のご希望どおり、全ての捕虜が今回の戦いを見物できるようにしました」

「ご苦労さん。これで全ての準備は整った。あとは戦い公国軍を倒すだけだな」


 魔王としての力と存在を証明するための戦いが始まることが楽しみなのか、ゼブルは腕を組みながら楽しそうに笑う。

 アルシェスはゼブルの笑う姿に不気味さを感じたのか、ゼブルを見つめながら一滴の汗を流す。


「殿下、公国軍が動き出しました!」


 離れた所で待機していたハリスが大きな声でアルシェスに語り掛ける。

 声を聞いたゼブルたちが公国軍の方を向くと、二万もの公国軍がダーバイア騎馬団を先頭に王国側の砦に向かって進軍してくる光景は目に入った。


「何だよアイツら、全軍で突撃して来やがるぞ」

「どういうつもりかしら?」


 セミラミスの隣に立つアリスは公国軍の行動の意味が理解できずに小首を傾げる。

 タンクビートルたちは異世界では英雄級の実力者でも苦戦するほどの存在。それが百体以上いる敵に突撃してくるのは無謀な行動と言えるため、セミラミスやアリスは公国軍が何を考えて突撃してくるのか分からずにいた。


「大方、タンクビートルたちが強大な力を持ってることを知らなずに向かって来てるんだろう。あるいは知ってはいるが、数で勝っている自分たちなら勝てると思ってるのか……」


 ゼブルが公国軍の行動の意味を推測すると、話を聞いたセミラミスとアリスは一理あると感じながらゼブルを見つめた。


「どちらにせよ、公国軍は自分たちが優勢だと確信してるはずだ。それで更に自分たちを優勢にするため、先に攻撃を仕掛けようと考えたんだろう」

「ゼブル様、どうなさいますか?」


 計画では自分たちの方から公国軍に攻撃する予定だったのに、公国軍が先手を打ってきたという予想外に事態に驚くティリアはゼブルに尋ねる。

 ゼブルは一歩前に出ると飛翔の技術スキルを発動し、マントを消して翅を出現させた。


「作戦に変更は無い。予定どおり公国軍に攻撃を仕掛ける」

「公国軍の方から攻めてくるという事態になりましたが、問題は無いのですか?」

「ああ。寧ろ向こうから近づいて来てくれて都合がいい」


 慌てる様子を見せずに落ち着いて語るゼブルは地面を蹴って上昇する。

 ティリアは勢いよく飛び上がるゼブルを見上げ、どのようにして公国軍を迎え撃つのだろうと疑問に思うのだった。

 上昇するゼブルは高さ15mほどの位置で停止し、近づいてくる公国軍を見下ろす。

 公国軍はダーバイア騎馬団を先頭に真っすぐ王国軍に向かっており、騎馬団の後ろにいる大勢の公国兵は剣や槍を構えながら走っていた。

 公国兵たちの中には部隊長と思われる公国騎士たちもおり、馬に乗りながら周囲の公国兵たちに指示を出したりしている。


「大分こっちに近づいてきたな……これなら、あれを使っても公国側の砦に影響は出ないだろう」


 ゼブルは宙に浮いたまま上半身を僅かに前に倒し、頭部と顔の角の先端を進軍してくる公国軍に向けた。すると三つの角の先端に紫紺しこん色の光が集まって光球が作られる。

 地上にいるティリアやアルシェスたちは頭上で光球を作り出すゼブルを見上げて驚きの表情を浮かべており、これからゼブルが公国軍に何かしらの攻撃を行うのだと確信する。

 魔将軍たちはゼブルを見上げて何をするのか察し、表情を変えずに視線をゼブルから公国軍に向けた。


「公国の人間たちよ、その身をもって魔王の恐ろしさを知れ。破滅の魔光ディストラクション・レイ!」


 技術スキルを発動させた瞬間、角の先端の光球から光線が勢いよく放たれる。光線は真っすぐ進軍する公国軍の左翼の後方に向かって伸び、大勢の公国兵が集まっている場所に命中した。

 光線が地面に当たると、ゼブルは光線を放ったまま首を素早く左に振る。首を振ったことで光線も勢いよく左へ移動し、公国軍の右翼まで移動した。

 次の瞬間、最初に光線が命中した場所で大爆発が起き、周りにいた大勢の公国兵たちを消し飛ばす。更に右から順番に右翼に向かって三度爆発が起き、後方にいた大勢の公国兵を吹き飛ばした。

 進軍していた公国兵たちは背後からの爆発に驚きながら爆風で体勢を崩し、一斉にその場に倒れ込む。

 爆風は最前列にいたダーバイア騎馬団まで届き、爆風を受けた公国騎士たちは落馬したり、馬と一緒に倒れたりする。

 ゼブルの攻撃で公国軍は甚大な被害を受けただけでなく、態勢までも崩す結果となった。


「こ、これは……」


 目の前の光景にティリアは目を見開きながら驚く。

 アルシェスたち王国軍の人間たちも驚愕しながら爆発が起きた場所を見つめている。

 ティリアたちが見つめていると爆発が起きた方角から突風のような風が吹き、風を受けたティリアやアルシェスたちは思わずよろめいてしまう。

 爆発によって発生した風は遠くにいる王国軍に届くほどのものだったのだ。


「おいおい、ちょっとやりすぎじゃねぇか?」


 セミラミスは爆発を見つめながら若干困ったような表情を浮かべ、他の魔将軍は無言で甚大なダメージを受けた公国軍を見ていた。

 ティリアは体勢を崩さず、何事も無かったかのようにしている魔将軍たちを見て意外そうな顔をする。魔将軍たちの様子から、彼らは先程の突風を何とも思っていないとティリアは知り、魔将軍たちの神経の太さに驚くのだった。


「あんなデカい爆発を起こしたら、公国の人間どもの大半が吹き飛んであたしらの相手がいなくなっちまうんじゃねぇのか?」

「その点は心配ねぇよ。大将もちゃんと考えて攻撃したはずだ」


 セミラミスはシムスを見ると、軽く息を吐きながら腕を組んで公国軍に視線を向けた。


「それにしても、相変わらず凄い威力ですね。魔王様の破滅の魔光ディストラクション・レイは」

「うん。……けど、あれでも威力は抑えてる方なのよね?」

「でしょうね。もし全力で放ったら砦に届くほどの爆発が起きていたはずですから」


 加減しても公国軍に大きな被害を出せるほどの攻撃にテオフォルスとアリスは感心し、自分たちの支配者に相応しい力だと思いながら小さく笑った。

 ゼブルが放った“破滅の魔光ディストラクション・レイ”はEKTの魔王プレイヤーがレベル80になれば誰でも修得できる魔法攻撃型の魔王技術イビルスキルで、その攻撃力は魔王技術イビルスキルの中でも一二を争うほどだと言われている。

 攻撃力が高いだけでなく、射程距離も長く、地面や建造物などに命中すれば爆発が起きるため、遠くにいる敵や敵拠点を攻撃するのに役立つ。

 更に爆発の大きさなども攻撃する際に魔王プレイヤーが調整できるため、近くにいる敵を攻撃する際にも使うことができるのだ。

 攻撃系の魔王技術イビルスキルの攻撃力は使用する魔王プレイヤーのメイン職業クラスによって決まる。

 戦士系の職業クラスを修めている場合は物理攻撃力が基準となり、魔法系の職業クラスを修めている場合は魔法攻撃力を基準にして攻撃力が変化する。これは職業クラスに関係なく、全ての魔王プレイヤー魔王技術イビルスキルによる攻撃を切り札として使えるようにするためだ。

 因みに破滅の魔光ディストラクション・レイは修得した時に光線は手から放つか、口や角、尻尾の先端から放つかを決められるため、EKTでは見た目や戦法でどこから放つかを決める魔王プレイヤーが多かった。


「た、たった一撃でこれほどの被害を出すなんて……」


 アルシェスは甚大な被害を受けた公国軍を見ながら小さく震える。ゼブルの攻撃に驚いたのは勿論だが、想像していた以上に恐ろしい攻撃を行ったゼブルに対する恐怖からアルシェスは体を震わせていた。

 同じようにゼブルが攻撃する光景を見ていたハリスや他の王国騎士たちもアルシェスと同じように恐怖を感じながら爆発が起きた場所を見つめている。彼らも改めてゼブルが魔王であること、魔王を名乗れるだけの力を持っていると再認識したようだ。

 アルシェスたちだけでなく、監視塔にいたマルドギードたち、公国軍の捕虜たちも愕然としながら遠くにいる仲間たちを見つめている。

 最初はゼブルのことをただ魔王を名乗っているだけの異形程度にしか思っていなかった。だが目の前で仲間たちが犠牲になった光景を目の当たりにし、ゼブルは本物の魔王で、二万もの大軍を倒せるだけの力を持っているのかもしれないと感じ始めていた。


「てぃ、ティリア、お前はゼブル殿がこれほどの力を持っていると知っていたのか?」


 震える声を出すアルシェスは近くで公国軍を見ているティリアに声をかける。

 話しかけられたティリアはアルシェスの方を向くと軽く首を横に振った。


「いいえ、私もゼブル様がこれほどの力を持っていらっしゃるとは知りませんでした」

「では、ゼブル殿は他にもとんでもない技術スキルや魔法を使うことができるのか?」

「恐らくはできると思います」


 ゼブルが先程の光線と同等の能力をまだ隠し持っていると聞き、アルシェスは緊迫した表情を浮かべる。

 被害を受けた公国軍を見たアルシェスはゼブルが二百年前に現れた魔王やその魔王を打ち倒した勇者よりも遥かに強いのかもしれないと感じていた。

 ティリアが驚くアルシェスを見ていると、ゼブルがティリアたちの頭上3mの高さまで降下し、地上にいるティリアたちを見下ろす。


「公国軍の戦力は削いだ。これより残りの公国軍の一掃を始める」


 ゼブルの声を聞いた魔将軍たちは遂に自分たちが動く時だと知り、公国軍の方を向きながら戦闘準備を始める。

 セミラミスはアイテムボックスを開くと魔法陣に手を入れ、一本の黒い木刀を取り出すと軽く振ってから肩に掛ける。

 シムスも同じようにアイテムボックスを開き、リントスジンで使ったダークウィリアムを取り出す。

 テオフォルスとアリスは使うアイテムは無いのか、アイテムボックスを開かずに公国軍の方を見続けていた。

 魔将軍たちが戦闘態勢に入るのを確認したゼブルは地上で自分を見上げているティリアの方を向く。


「俺たちはこのまま公国軍に突撃する。ティリア、お前はアルシェス王女たちと待機し、万が一公国軍の別動隊とかが現れたら相手をしろ」

「は、ハイ!」


 ティリアが返事をすると、ゼブルは公国軍の方を向いてどのように攻めるか考える。とは言え、自分と魔将軍の強さなら問題なく公国軍を蹴散らすことが可能なので真剣に作戦を考える必要は無いと言ってもいい。


「さ~てと、ようやくこの世界の人間どもと戦えるんだ。思いっきり暴れさせてもらうぞ」


 異世界に来て初めて現地人と戦えることが楽しいのか、セミラミスは笑みを浮かべながら肩に掛けている黒い木刀を下ろす。

 木刀を下ろすとセミラミスは背中から薄い黄色の蜂の翅を出現させ、広げながら軽く両膝を曲げる。

 セミラミスは上級の昆虫族モンスターである“マザーホーネット”が眷属となった存在で、モンスターだった時の技術スキルを全て使うことができる。その中にゼブルが使用している飛翔があり、セミラミスは飛翔を発動して翅を出現させたのだ。


「そんじゃあ、お先に♪」


 セミラミスはシムスたちに挨拶をすると地面を蹴り、目にも止まらぬ速さで前へ跳ぶ。跳んだ瞬間に蜂の翅を高速で動かし、セミラミスは低空飛行をしながら公国軍の方へ向かって行った。


「やれやれ、相変わらず落ち着きがないですね。……私たちも行きましょうか?」

「うん」


 テオフォルスはアリスが返事をするとその場で姿勢を低くして背中をアリスへ向ける。

 アリスはテオフォルスに近づくと背中に飛びついておぶさる状態になり、ダイナもアリスに続いてテオフォルスの背中に飛び乗った。

 アリスとダイナがおぶさるとテオフォルスは立ち上がり、二人を背負いながらシムスの方を向く。


「シムスは此処に残ってダークウィリアムで攻撃を?」

「ああ、俺は長距離攻撃が得意だからな」

「分かりました。では、私たちはセミラミスと同じように前線で公国軍の相手をしてきます。飛行フライング


 小さく笑いながら答えたテオフォルスは飛行系の魔法である飛行フライングを発動させる。発動した直後、テオフォルスの体は一瞬紫色の光り、その後にゆっくりと浮かび上がった。

 魔将軍の中で魔法戦最強であるテオフォルスは多くの魔法を修得している。その中には攻撃魔法は勿論、戦闘を有利に進めるための魔法も含まれており、飛行フライングも移動手段の一つとして修得していた。

 因みに飛行フライングは下級一等魔法で修得可能な魔法職を修めれば誰でも使えるようになる。

 下級魔法であるため、異世界の住人も修得することが可能だが、異世界では修得が難しい魔法とされているため、修得するにはそれなりに努力しなければならない。

 テオフォルスはシムスに目で「行ってきます」と伝えると、アリスとダイナを背負いながら公国軍の方へ飛んでいく。

 シムスはテオフォルスを見届けると遠くにいる大勢の公国兵を見ながらダークウィリアムを構える。


「今度の公国軍はどれぐらい粘ってくれるかねぇ」


 目を光らせるシムスはゆっくりとダークウィリアムの引き金に指を掛けた。


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