最期の戦い……………………………68mg
【絆視点】
ゾンビが倒されてみんなで集まった時、梨乃ちゃんだけがいなかった。
みんなは「ゾンビと戦っている」ことを前提にして、話し合ってた。
でも、それは絶対に違うんだよ。
もうすでに真面目に「魔獣と戦おう」なんて思っていないはずだよ。
きっと誰もわかっていない。梨乃ちゃんはおかしくなっちゃったってことを。
私は見たから、見ちゃったから。
クスリをむさぼっていたのを見ちゃったから。
でも、みんなには言えるはずがないよ。
だって、あのしっかり者の梨乃ちゃんが、だよ。
みんなすごく動揺すると思う。立ち直れない程でもないと思うけれど。
梨乃ちゃん自身だって他のみんなに知られちゃったら、すごく傷つくんじゃないのかな。
「・・・梨乃との合流ですが、どうしましょうか」
この場にいる5人に問いかける玲奈ちゃんの声で、考えるのをとめた。
「海桜達はこの場に残るとして、私たちは集まって探した方が良いよね」
と、紡希ちゃんからの提案。
その言葉を聞いた時、ドキッとした。
この提案が通れば、梨乃ちゃんのことを隠せないかもしれない──。
みんなで集まって探せば、当然梨乃ちゃんと会ってから隠すなんて時間はない。
梨乃ちゃんの秘密を隠し通すことはできなくなる。
だから、一人ずつで探す方がとっても隠しやすい。
「分かれて探した方がいいんじゃない」
自分で逸らすまでもなく、海桜ちゃんが提案を差し止めた。
正直にいうと、とってもラッキー。
紡希ちゃんは不思議そうな顔をする。
「どうして?」
「今は特に脅威がないし、場所を分担して探した方が早く済むから」
「なるほどね」
紡希の疑問にも端的に答える海桜。
玲奈の判断は決まったようだ。
「決まりですね。分かれて探しましょう」
すかさず。
玲奈が役割分担の配役を聞くより早く宣言する。
「私が、一階をやるよ」
…
旧ドラッグストアーのテナントまでやって来た。
依然として、ゴミ屋敷のような物量の多さが目立つ。
この奥にいるはずだと思っている。
「だけど、梨乃ちゃん。それだけは”ない”よ。」
自然と言葉が口から零れる。
そうだよ。
私たちは必死に戦っていた。
なのに、梨乃ちゃんだけが自分に甘んじて、薬におぼれようとしている。
ふつふつと怒りがわいてくる。
他のみんなが真剣に戦っていた中でそんなことをしちゃ、私はあなたを許さない──。
「だから、ここには絶対にいないでね」
いまだに商品棚に薬の類があふれかえっているテナント。
ゴミ屋敷のようにモノが散らばる通路に足を踏み入れた。
包装紙を踏んで潰した跡がある。
さらに奥には押しのけられて端に追いやられた空の包装の山があった。
確実にここにいる──。
物を踏みつける足が乱暴になる。
商品棚の向こう、人の影が見えた。
「梨乃ちゃん!」
怒気をはらんだ声で、その影が狼狽える。
「ち、違いますわ。これは……」
梨乃ちゃんが視界に入ったその瞬間、拳を握った。
さらに狼狽する対象。
数秒先、手のひらがじんわりと痛かった。
握った拳をほどいて、手のひらで叩いていた。
頬を抑えてうずくまる梨乃。
まるで被害者のように振舞っている。
「……何をしていたの!?」
「……。」
梨乃は答えず押し黙る。
「聞いてるの……?」
「聞こえていますわ。何も慌てなくても、これは大事なことなのですよ。」
「魔力補給とでも言い訳をするの……?」
「え、ええ。そんなところですわ。しかし、それより……」
「話をずらさないで。」
「なんで私たちがこの場所に来たか、わかってるの……?」
「私たちが戦っていることがわからなかったの?」
「あの・・・」
「梨乃ちゃん。あなたは仲間だと思ってた。でも、こんなことされちゃ……。思いたくても、そう思えなくなっちゃったよ」
「このことを皆には……。」
「言わないよ。でも、なんで最初にその言葉なのかな? もっとあるでしょ。言うべき言葉が。」
「どうしてこうなっちゃったのかな。初めて会った時みたいな梨乃ちゃんに戻って欲しいよ……。」
ポケットにしまっていた携帯電話が震える。
手に取ると、画面には「玲奈」の文字が表示されている。
「もしもし……。…………。うん、いたよ。エントランスの方にいるね。……………。うん、あとでね」
耳に当てていたスマートフォンをポケットにしまいなおす。
そして、梨乃の方に向いた。
「おねがいだから、もうやらないって約束して」
梨乃の返答を待たずに、店の外へ連れ出した。
…
【紡希視点】
「これで全員そろったな!!」
梨乃と絆が合流して、ゾンビが出現した時に分かれて以来、初めて全員が顔をそろえることになった。
「そうですね。やっと当初の目的も果たせましたし、全員無事でよかったです」
玲奈や蒼の顔は晴れやかだ。
それもそのはず、今回ゾンビを倒したことで四魔をすべて葬ったことになる。
これで魔王の復活は阻止できたはずだ。
「みんな、体調の方は大丈夫?」
「私は別に何ともないですわね。ただ、海桜の様子が心配ですわ」
「ゆっくり休めば大丈夫。たぶん」
「今日は皆さん限界のようですね。今後のことについては後日じっくり話しましょう。」
「そういや、自動ドアは開くのか?」
「もうゾンビを倒したし、開いているんじゃないかな。」
「絆の言う通り、心配ないでしょう」
玲奈が自動には開かない自動ドアに手をかける。
この建物に入る時、鍵のロックを外しておいたから、簡単に開閉ができるはずだ。
「あれ動かないですね。こんなに硬かったでしたっけ」
「え、そんな馬鹿な話はありませんわ。そんなに力を入れずとも開いたはずでしてよ」
「そう、ですよね……。でも、開かないんですよ」
「あ、本当ですわ。なかなか動きませんわ」
全員がガラス戸に注意していた。後方の確認など誰一人としてしていなかった。
「なあ、玲奈。玲奈って。おーい!」
「ちょっとうるさいですよ、蒼。そんな元気があるなら開けるのを手伝ってくださいよ」
「玲奈、後ろを見ろ。なんかへんなやつがあるぞ」
そのことばで全員が後ろを振り向く。
さきほどまでは何もなかった空間に、何かがあった。いや、モノではないかもしれない。うごめいている。
その姿は様々な物体・物質の要素を乱雑にかき集めた塊のような見た目をしており、ぱっと見だけではただの物体なのか生物なのか判断に困る。ただ言えることはおそらくは魔獣であろうということだ。
──これが何をしてくるのか
私たちの中に緊張が走る。
何が起きてもいいように身構える。
しかし、何も起きない。
玲奈が目で合図を送り、受けとった蒼が寄ってそれが何なのか確認しに行く。
蒼は気を緩めずに慎重に近づく。
ある場所で一歩踏み入れた瞬間、蒼の体がズレた。
そしてそのまま上半身がべちゃりと地面に落ちた。
「え゛、」
一言発せられたのを皮切りに、蒼は眼球を狂ったように激しく動かせて、腕が血みどろになるくらい暴れまわりながら、奇声を発した。しかし、それも数秒のこと。すぐに電池が切れたかのように動かなくなった。
──あれ…? 今、何が起きた…?
蒼があれが何かを確認しに行って……、叫んだ?
あれ?なんで叫んだんだろう?
そういう冗談?
でも、何の冗談?
あれ?あの目の前の塊なんだろう?
真っ赤で、なんだか気持ち悪い。
地面から生えてるみたい。
あれ?あの生えてるのってだれだっけ?
あれ?おかしいな。あお、どこいったんだろう。
さっきまでそこでさけんでたのに。
すぐにどこかにいっちゃうってあおらしいね。
「に、逃げろぉぉお!!」
みおがさけんだ。わたしはいみがよくわからなかったので、みおはなにをさけんでいるのだろうとおもった。
「しっかりなさい、紡希。逃げるのですよ。」
かたをりのにゆさぶられた。
わたしはりのまでみおとおなじことをいったのでしかたなくうしろをむいてはしった。
ずじょうからまるっこいぼーるみたいなのがとんできた。
そのぼーるについたふたつのめとめがあった。
めがあった。ぼーると。
ぼーると?
ぼーるにめ?
……ボールに目は付いていない。
今、見たものは……、頭上から飛んできたものは……、
海桜の首だ。
我に返った。
そして、ようやく理解した。
死神が言ったことを。魔法少女は破滅の道を歩んでいるということを。
海桜だったものは目を開けたまま転がっている。目の黒い部分は色あせていない。生きていた頃と全く変わらない。顔の赤みだって残っている。肌のみずみずしさだってそのままだ。なのに、死んでいる。
生きたまま死んでいる。
私は叫んだ。喉が壊れてしまうくらい叫んだ。そこに文章なんてものはなかった。言葉にならない声で叫んだ。
絆も叫んで命乞いをしている。しかし、それも喉の奥から吐いたような短く汚い言葉を残して途切れた。
──また一人死んだ。
それでもまだきっと誰かいるはず。まだだれか生きていて。
叫びながら走りながらほかの仲間がまだ生きていることに希望を託す。
周りにはだれかまだいないか。誰かまだ生きていないか。探した。
蒼は、死んだ。
海桜は、死んだ。
梨乃は、死んだ。
絆は、死んだ。
玲奈は、まだ死んでない。魔獣から懸命に逃げている。
──よかった。まだ玲奈だけでも生きている。
と思った瞬間、上から真っ二つにされて地面に倒れた。
…ぁあ、あ、あああああぁぁ…… みんな、みんな死んじゃった。もうだめだ。もう希望なんてものはない。
あぁ、そうだ…
自分だけでも生き残れば…
自分さえ生き残れば…
自分さえ生き残れば、他のことなんてもうどうでもいい。
仲間なんてもう全員死んだんだから、もうどうでもいい。
ただ自分だけ生き残れば…
だからね。一人ぐらい見逃してもらってもいいよね。
私はまだ死にたくないんだ。
いっぱい殺してもう満足だよね。だから私だけ。
助かりたい。私一人だけでも助かりたい。
私だけでも見逃して。
死ぬのは嫌だ。
だから神様、助けてください。何でもしますから。何でもす
┃◀◀end
続




