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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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振れ動く感情…………………………67mg

【紡希視点】

 廃ショッピングモール1階。

 気づかれないように進んでいたところをヘルメットを被ったゾンビに見つかってしまっていた。

 今はコアの破壊を目指している。できるだけ早くしてしまいたい。


 このゾンビを撒いて、先に行こう──。


 そういう思いで絆の方に目線を向ける。

 絆は、頷きで返す。意思が伝わったようだ。


 幸運にも、ゾンビが持つ武器はヘルメットで、おそらく近接戦が得意なのだろう。

 絆に3本の指を立てて、合図を送る。

 念のため、武器の充電器を生成しておく。

 薬指を折り曲げ、2本残す。

 そして、中指を折り曲げ……、1……。

 0……。

 とタイミングを合わせて走り出そうとした。


「あれ──?」


 ゾンビの動きが急に止まった。

 ヘルメットを被ったまま、ぴくりとも動かない。


 罠かもしれない──。


 警戒心を解くことなく、じっと見つめる。

 武器は出しておいたままにして。


「止まった? 魔力が無くなったのかな 。」


 絆が武器を構えたまま、口にする。


 たしかに、そんなふうにも見える。

 でも──、それにしてはおかしい所がある。


「まだ管が繋がったままだよ」


 ゾンビの足元。

 地を這う管は切れてはいなかった。


「本当だ。それなら魔力が無くなったわけじゃないよね」


 そう、魔力が無くなったわけじゃないんだ。

 じゃあ、なぜ。動かない。


「紡希ちゃん。私、確認してみるね」

「わかった。お願い」


 絆はゾンビから延びる管を指さして、ムチを振るおうとしている。

 管を切って、魔力が流れているのかを確認するためだろう。


 言葉を返した矢先、ゾンビの身体から光の粒子が生まれ始めた。


「なに!?」


 とっさに数歩下がる。

 しかし、落ち着いて考えれば、単純なこと。

 光の粒子の発生が示すのは、まさにゾンビは討伐された。そういう事だ。


 ひとまずホッとして、胸をなで下ろした。


 数歩前に行っていた絆は手に持っていたロープを消す。

 そして、振り返る。


「先に誰かが倒してくれたみたいだね」


 海桜や玲奈、蒼、梨乃、それぞれの顔が思い浮かぶ。

 この中なら、海桜とか蒼だろうか。


「海桜とか、蒼がやってくれたのかな。二人ともとても強いもんね」


「でも」


 絆はうつむいた。

 その表情は、ちょうど髪に隠されて見えない。


「私が倒したかったな──。」


 つぶやいたのが聞こえた。


「絆……。」


「あ、き聞こえてたかな?」


 手が落ち着かない様子で、うろたえている。

 心の声が意図せず漏れてしまったらしい。


「え、えっと……、今のは"なし"で。聞かなかったことにして。」


 あのつぶやきを取り消そうとする絆。

 でも、その心の声をなかったことにしていいのだろうか。

 花音さんと戦った後の絆はその表情がいつになく、険しいものだった。

 覚悟を決めたあの心の内には、どんなに大きい苛立ちがあったか、私には到底計り知れない。


 その覚悟が思わぬ形で果たせなくなった時、絆の心の内はどうなってしまったのか。

 全てつかみきれないけど、根深く突き刺さったものがあるはずだ。

 そして、それは引き抜こうとしても痛みを伴う。


 ゾンビが倒されたこと、本当は喜ぶべきはずなのに、そうする気にはなれなかった。


「ごめんね!空気を悪くしちゃって」


 絆は手を合わせて、ニコッと笑う。

 先程のつぶやきが嘘のように。


「でも、これで四魔、全部倒せたってことだよね。私たちは最後の戦いを乗り切ったんだね」


 嬉しそうな顔をしている。しかし、ちょっとぎこちない笑顔。

 絆は話題を変えて、心の声を隠そうとしている。


 もう自分では触れないつもりなんだ──。


 こちらから触れにくい空気で煙に巻かれてしまった。

 今は触れるべきじゃないのかもしれない、と自分に言い聞かせる。


 戦いが終わった今、何をすべきか考える。

 考えた結論は。


「みんなに会いに行こうか。」


 絆に呼びかけた。

 とりあえずでも何かした方がした方が良いと思ったから。


「だね。みんな、無事だと良いな」


 あ、そうだった──。


 最初のことを思い起こされる。


 ゾンビと初遭遇した時、全員バラバラになったんだ。

 それから大分時間が経っている。

 誰もが無事だという確証なんてあるはずもない。

 

 戦いが終わったのに、まだ戦いに囚われている気がする。

 仲間の安否を確認するまでは終われない。


「安心して。きっと大丈夫だよ」


 中身のない返答をする。

 大丈夫な自信なんてないけど、そう言うしかない。

 

「わたしだめだな~、こんな暗くなっちゃって。」


 絆はあくまで明るく振舞う。

 それでも、その声はどこか暗く聞こえる。


「梨乃ちゃんとか玲奈ちゃんは頭がいいし、蒼ちゃんと海桜ちゃんは強いから、誰一人欠けるはずもないよね」


 まだ何も終わってはない。

 皆の安否、絆の心、2つの問題は残っている。

 

「じゃあ、探しに行こうか」


 それから私たちは海桜たちを探し始めた。


 といっても、探すべき場所の見当は付いている。

 もう消えてしまっていたけど、管が延びていたのは1階バックヤードの方だった。

 だから、そこを探せば、きっと誰かは居るはずだ。


 



 …




 一階、バックヤード。


 ようやく見つけた扉から入って、しばらく進んだところ。

 そこに人の姿があった。

 立っているわけじゃなくて、地面に倒れている。


 遠目では誰かよくわからなかった。

 でも、ゾンビを倒した今、それが私たちの仲間であることは明白だ。


「大丈夫!?」


 2、3度声をかけても、何も反応がない。

 死んでいるんじゃないか──?

 その考えが脳裏によぎった。


「紡希ちゃん!」

「うん」


 絆と全力で駆けよる。

 どうなっているのかわからなくて、怖い。

 一秒でも早く、近くまで行って安心したかった。


 近づくにつれ、青色の装衣が見えた。

 青色に黒を混ぜた紺色のような色をしている。


 私たちの中に、青色の装衣をしている魔法少女は2人いる。

 だが、紺色は一人しかいない。


 海桜の装衣だと気がつくのに時間はかからなかった。


 先にたどり着いた絆が屈んで、海桜の息を確認する。

 それから数秒遅れて到着した。


「海桜は……?」


 海桜の口元に手を当てて、息を確認していた絆が振り返る。


「息してるよ……! 海桜ちゃん生きてたよ!」


 魂が抜けたように気が抜けて、膝の力が抜けた。

 よろよろ脚で後ずさりすると、ぺたっとコンクリートの冷たい床に座り込む。


「よかった……」


 何よりもの気持ちだった。



その後、海桜は寝かしておくと決まった。

先に他の仲間を探した方が良いか──とも考えたけれど、海桜を放ってはおけない。

「すぐに起きると思うよ」という絆の判断もあって、この場所に留まる判断をした。


海桜の寝顔には擦り切れた傷がある。

装衣もあちこちで破れ、穴が空いていた。


それがゾンビとの激闘を物語っている。


海桜はここで倒れるまで戦っていたんだ──。


 私が無茶なことをすればいつも海桜は叱る。けれど、いつも無茶しているのは海桜の方だ。

 危険な前線に立って、最初に被害を被るのはだいたい海桜。

 どうして、ここまでするのだろう。


 何が海桜にそうさせるのだろう。


「お!絆たちだ!」


 バックヤードの通路に響く大声が、奥の方から聞こえた。その先には2つの人影がある。

 海桜のことへの思考を途中でやめ、声の持ち主に話しかけた。


「蒼! 玲奈! 無事だったんだね!」


 そこには蒼の姿と玲奈の姿があった。

 2人はこちらを認識するなり、小走りで駆け寄ってくる。


「そちらも無事だったみたいですね!」


玲奈の言葉に、視線を海桜の方に落とす。


「うん、私たち2人はだけど」


 玲奈はその言葉に怪訝な顔をする。

 そして、そばまでやってくると、海桜の姿に驚く。


「海桜! 大丈夫なのか」


 蒼が心配した様子で駆け寄る。


「寝てるだけだよ。呼吸も落ち着いてるから、命には別状ないよ。」


看病する絆が海桜の姿を見せる。


「そうか……。武闘派の奴らにやられてしまったのかと思ったぞ」


あるワードに引っかかった。


武闘派って言った?

魔法少女の中で一番強かった勢力の?


絆と2人で顔を見合わせる。

同じ顔をしていた。


「海桜は2人も相手していたんだぞ。」

「波多野さんと香山さん──、チェンソーの魔法少女と丸太の魔法少女ですね。」


私たちの顔を察してか、蒼が補足した。

そこに玲奈がさらに補足する。


あの武闘派を2人も相手にして、ここまで耐えたなんて──。

どれほどの無茶をしていたんだ。


「そうなんだね。やっぱり、そっちも知り合いに会っていたんだね」


「ということは、絆たちもどなたかに会ったんですか?」


「私たちが会ったのは、花音さんと詩織さんだった。」


「紡希、それは本当ですか!?」


「嘘じゃないよ。確かに2人と戦った」


「そうですか……。つまり、花音さんは……。」


「死んでいたってことだよね。」


「だって、そうだよね。詩織さんも死んでいるし、武闘派の2人も死んでいるってことは花音さんももうすでに死んでいると考えてもおかしくはないよね。」


「そういうことになりますね。」


「玲奈ちゃん。ゾンビって、なんだったのかな?

もし何か考えていることがあったら教えて。紡希ちゃんも」


「何かは回答しきれないのですが、一つ奇妙なことがあるんですよね」


「それって?」


「ゾンビに噛まれるとゾンビになる、そういうイメージがありますよね」


「そうだね」


「でも、花音さんはどうか分からないですけど、詩織さんや武闘派の2人は確実にゾンビには殺られていないんですよ」


「玲奈、私たちもそこに引っかかってたよ」


「だから、魔法少女は死んだら全員ゾンビになるのかなって思ったんだよ」


「たぶん、それはそれで合ってると思うのですが。」


「あのゾンビという魔獣は、何を素に魔法少女をゾンビにしていたんでしょうか。」


「それは……、遺体、とか?」


「詩織さんの場合は、警察が管理していると思います。

遺体発見のニュースになっているのを見たので」


「じゃあ、何を素にしていたの?」


「それがわからないんです。今少し考えただけですが、そういうものは思いつかないんです」


「もしかして、私たちの記憶を元に作ったとか?」


「ありえなくはないですが、私たちが知らない人も多かったはずです」


「そうだね……。」


「じゃあ、他の魔獣が見た魔法少女の姿を作った、としたらどう?」


「それだと、筋が通っているのですが、」

「結局のところ、本当かどうか分からないんですよね」


「お!海桜が目を覚ましたぞ!」


蒼の一言で、海桜の方に目を向ける。

両目はしっかり開いているが、対極的に体はのそっとした動きで、起き上がろうとしている。


「ああ、みんなか。」


起き抜けのぼーっとした様子で呟く。

どうやらまだ頭が回っていないようだ。


「みお、平気か」


蒼が最初に声をかける。


「平気、じゃないか」


 まじまじと海桜を見つめると、蒼は返答を待たずして感じ取ったようだ。


 海桜はまず両手を目の前にかざしてみて、それから体のあちこちを目視で確認する。

 その体は傷だらけだった。


「まあ、なんにも無くなってないから」


 なんともなしに答える海桜。

 この場にいた全員がそうは思えないと考えていただろう。あまり無事とは言えない。


「そんなことより、次はどうする」

「…梨乃と合流することですね」


玲奈は絞り出すように口にしていたが、声音はキッパリとしたもの。

早くも次へ進もうとしていた。


「私はついて行けない」


海桜はきっぱりと断る。


「もちろんです。そのまま安静でお願いします。」


玲奈は蒼にも残るように指示をする。

蒼も海桜についで、傷を負っていたからだ。


後は梨乃との合流に移る。

できるだけ効率的に合流するため、各階層を手分けすることにした。

自ら名乗り出た絆が一階を担当することになったほか、二階は(つむぎ)、三階は玲奈が担当することになった。


「もしかすると梨乃はゾンビが倒されたことを知らないかもしれません。どこかに身を潜めている可能性もあります。」


梨乃のことだから、すぐに見つかるだろうというのが玲奈の考え。

時間はあまりかからないはずだ。


「それではよろしくお願いします」


3人は各階層に分かれた。







【絆視点】


梨乃ちゃんがいる場所、それに心当たりがあった。

一階にあるドラッグストア。そこにいると思っている。


「だけど、梨乃ちゃん。それだけは”ない”よ。」


他のみんなが真剣に戦っていた中でそんなことをし(クスリをキメ)ちゃ、私はあなたを許さない──。


「だから、ここには絶対にいないでね」


いまだに商品棚に薬の類があふれかえっているテナント。そこを目の前にして、ふつふつ湧く怒りを抑えても抑えられずにいた。

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