変容
★変容←越久夜町のルールが変わり始める。
「ネーハ!どこにいるの?!」髪型を崩しても気にせず、声を張り上げる。「ネーハ!!」
返事はなく、頭上から断末魔をあげてのたうち回る雀が落ちてくる。雀には穴が開き始め、弾け飛んだ。
「カオスが理を壊し始めてる!-ネーハ、答えなさいっ!」
ネーハは俯き、耳を塞いだ。
「ああ……もうダメだ……私が、やらかしたから」
汗をダラダラと垂らし蹲る。
「有屋さまにバレたらタダじゃ済まない…無明に、帰りたくない!」
ネーハはコンビニの前でジッと蹲る。
「………。……………つかれた…」
膝に顔を埋めて、ポツリと呟いた。雹がバラバラと降ってくる。空はどんよりとしたケガレに覆われ始めていた。
「…有屋さま?」異変を感じ、顔を上げた。
「有屋さま?どうかなさいましたか?!」
呼びかけても返事がない。ネーハは立ち上がり、駆け出し、テレポートした。
テレポートした矢先、有屋鳥子が腕をなくし血液に似た液体を傷口から垂らしていた。
「有屋さま!」
「…ネーハ、大丈夫。腕をやられただけだから…」
なくなった腕をみやり、有屋鳥子はズルズルと力を振り絞り壁に寄りかかる。
「悪神にやられたのですね。なんと惨たらしい…」
ネーハは食い荒らされ散らばっている神使の残骸を目にする。
「これは私たちの、越久夜町の責任よ。天津甕星を、彼をこれまで私たちは見て見ぬふりをしてきた。いえ、あの時…争いが起きた時に私たちは彼と女神に…いたっ……」
傷口を抑えて、顔をしかめる。
「有屋さま…」
「ネーハ…あなたにも、悪いことをしたわね…。最後になるかもしれないから、言っておくわ。」
「良いのです。護法童子とては元は夜叉や魔。私のような存在が神に…」
「確かに護法童子にしては、背負わせるには大きすぎる使命だったわね。申し訳ないと思う。」
らしくない言い草にネーハはさらに焦る。
「早く女神に知らせないと……天津甕星が女神に接触する前に……!」
「わたくしが、このネーハが知らせますっ!」
「ならば、希望を抱きなさい。」
「えっ…」
「これから越久夜町は闇に包まれる。天津甕星が抱えていた闇に支配される。どうか希望を、負けないで。」
「希望…」
手を握られてあせる。やんわりと手のひらに光が宿り、有屋鳥子は言う。
「あなたに旅路の祈りを捧げたわ。こう見えても私、神さまなんだから。さあ、行きなさい。」
「……。」コクリと頷くと、ネーハは鳥になり飛び立つ。
?
天津甕星が神使や神を食し、混沌となった町を歩いている。
場面は変わり、泥の奈落に落ちていく鬼。上か下か分からないまま暗闇に漂う。
巫女の顔が一瞬浮かぶ。
-アイツがやったのか?これを?
鬼の脳裏に巫女式神が浮かぶ。想像上の巫女式神は一瞬、かつての人間時代の自らになり暗がりをパタパタと走っていく。
-私はもう。
『主も見誤るんだな。』
『そりゃあそうさ!ヒトだからねえ!』ケラケラと笑う鬼に、巫女式神は目を丸くする(ただの表現)。
『童子式神があのお方になるのを私が望んでいるんだ。』
巫女式神はにかっと笑う。
『うん!じゃなくちゃ困る!競争するって約束したから!』
-どのくらい間違いを冒した?
-数え切れないほどの分岐点はどこにあったんだ?それすら可視できないほど、私の眼は節穴だった?
鬼は泥の中を漂う。
-結局、"全知全能の神(地球)"の傀儡でしかないのか?
-そうか、そんなものか。
-神威ある偉大な星……一目見たかった……。
目を閉じようとした矢先、何かを感知する。
鬼は混沌の中でハッと顔を上げる。そして手を上にのばし、走り出した。
「ついに蘇ったのか……!」
嬉しそうに顔を明るくさせ、走り出す。水面に這い上がるとズブズブと沈む足元にとられながらも、必死に走る。そして待ち望んでいた後ろ姿を見つけた。
「お待ちください!神威ある偉大な星よ!」
鬼と対面する。
天津甕星は振り返り、冷たい目をする。
「…。」
「わたくしは嬉しゅうございます!あなたさまに会えることだけを願い、この地に閉じ込められても耐え抜いてきたのです!ああ、なんと嬉しいことか!」
無邪気に言うやいなや平伏する。
「神威ある偉大な星…あなたさまをずっと想い慕っておりました!」
平伏する鬼に、天津甕星は「あ?思い慕っていたあ?」
心底嫌そうな声に笑みが消える。
「は?」
「おめえはこの地の神か?」
「え?な、なにを」
「今更命乞いでもしにきたのかぁ?拒絶したくせによお?都合が良すぎじゃねえの?わかってんだよ、薄っぺらい下心をよ!」
「し、神威ある偉大な星-」
「ちいせえ神風情が俺と同じ立場に立てるとでも思ってんの?甚だしいわ。」
何も言えず俯く鬼。
天津甕星は無関係だと言わんばかりに歩き出した。鬼は取り残され、蹲る。
前髪の下でぎらめく双眸。
「あれは…神威ある偉大な星ではない…!違う!あのお方は-!」
涙をこらえ、鬼は言う。「偽物だ!」
ベチャと音がして背後に獣人の冷静が現れる。
「そんなものだ。お前が美化していた、天津甕星という神は。」
「偉そうに……あれは」
「確かにあれはかつての天津甕星ではない、内容物が異なる。だがそんなもんだろ?ヒトってのは変容していくんだ。変わらねえ奴はいねえよ。」
獣人姿の冷静は言う。
「お前は数多の分岐点を踏みにじってここまできた。不変を望んだ。今回の結末は-こんなものだ。」
「ははは!何を知ったように!」
「知っているさ。この世界から除け者にされてる俺が、知らないわきゃないだろ。」
グイッと襟首を掴むと立たせる。鬼は絶望顔一歩手間の表情で俯いている。
「駄々を捏ねてないで結末を受け入れろ。」
泥に投げ捨てると、冷静は無表情に言う。
「役はまだ終わってないぜ。うすのろ。さ、女神の元に向かえ。」




