プロローグ
その少年が生まれた場所は、世界の頂だった。
世界で最も強い国の、最も尊い血筋に生まれ、しかも最も高位の位置に生まれ落ちた。
そして彼は、天才だった。
6歳で武芸百般を極めて武芸の教官を唸らせ。
10歳で万巻の書を読破して座学の教官が職を辞し。
15歳を数える頃には、父の名代として国政を統括するに至った。
周囲の人々は彼を天才だと持て囃し、将来を嘱望した。
「流石は余の息子だ」
父は優れた後継者の誕生に喜び。
「流石は妾の息子よ」
母は他の妃達への優越感を隠そうともせず。
「「「これで、我が国の将来は安泰だ」」」
彼に関わる全ての人間が、口々に、異口同音に同じことを言っていた。
少年はその全てに謙遜の礼を述べたが、そもそもそれらの言葉に心を動かされなかった。
何故なら彼にとって、それらの言葉に意味など無かったからだ。
武芸を極めても、万巻を読破しても、父母に褒められても、何も感じなかった。
周囲の喜びは、彼にとっての喜びは無かった。
だって、何の意味がある?
武や文を究めた所で何に使えば良いのか、わからないと言うのに。
国と言う、不特定多数の誰かが喜ぶことに、何の意味も見出せないと言うのに。
誰も彼もが、勝手なイメージで自分を見ているだけだと言うのに。
「このまま、何のための努力かもわからないままに生きていくのだろうか」
何とも言えない、もやもやした感情を抱いたまま生きていた。
何のために武芸を究め、誰のために万巻を極めたのか。
何のために、誰のために。
それは少年にとって、重い、重い問いだった。
――――彼が18歳となる、その日までは。
18歳、つまり彼が成人を迎えるかという時期に、それは起こった。
彼に、妹が生まれたのである。
それ自体は別にどうと言うことでは無く、年が離れていることを除けば興味も無かった。
少なくとも、周囲の人間にとってはそうだった。
「…………」
だが、気付きようも無かっただろう。
彼が生まれたばかり妹をその腕に抱いた、その瞬間に。
生まれたばかりの妹が、彼の指を掴んで笑った、その瞬間に。
彼の精神に雷鳴が轟いた、その瞬間に。
まさか、まさかまさか。
この国の、この世界の運命が決まってしまうだなんて。
この日、少年が18年間抱えた問いに対する答えを得てしまうだなんて。
いったい誰に、想像し得たと言うのだろうか。
だからこれは誰の罪でも無く、そう、何と言うか、まぁ……。
「……あれ、俺の妹って世界一可愛くね?」
――――同じ時代に生まれた不運、とでもしておこう。
最後までお読み頂き有難うございます、竜華零です。
と言うわけで、始まりました新作です。
とりあえずは隔週投稿、1月に2話更新で投稿していく予定ですので、どうぞ宜しくお願い致します。
基本的に、1万~2万字くらいのお話を2話に分ける形になるので、軽めの投稿になりそうです。
基本的に私の趣味と妄想で描いているので、山も無ければ谷も無い、それでもちょっとクスリと笑って頂けたらな、と思っています。
それでは、また次回。