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129 新月

自殺の多い日と聞いた事もあって、一年前の9月1日、この自殺相談所に初めて来た。


一年前と思えないのは、沢山の人に出逢い、色々な事を体験し、今まで考えた事のない感情について深く考えるようになったからだろう。


人の話に価値がある事も、取るに足らない些細な出来事が世界を大きく動かしてしまう事も、過去や未来に囚われて今を見つめられないのは間違っている事も、生きるや死ぬを考えてしまう事は当たり前で罪ではない事も────そして何より、人に迷惑を掛けてはいけないという事はない。


相談者の中には、自分は役立たずで、世間のお荷物、生きる価値は無いから死にたい、でも人に迷惑を掛ける死に方はしたくない、という人もいた。


人に迷惑を掛ける死に方、生き方って、具体的にどういう事なのだろう。


俺の考える”迷惑”と相談者の考える”迷惑”は一致するかもしれないれけれど、しないかもしれない。


日々、”ちょっと面倒な事に出逢ってしまう”のは、誰にでもある事だと思う。


それを”迷惑”と考えるのならば、避けられない事だ。


迷惑は掛けたいと思って掛けている人がどのくらいいるのだろう。


仕方なく掛けてしまうもの、自分を含め、誰でもそう。


持ちつ持たれつ、困った時はお互い様、


一人で生きているつもりでも、この世界を創ったのは一人の力ではなくて、みんなの力。


数えきれない”迷惑”を積み重ね、創られた世界だと思っている。


それでいい、それがいい、”迷惑”が無ければ今の世界の発展は無かった。


“迷惑”を己の失敗や後悔や恥と考えて、次は違う事をしてみようと人は”成長”する。


子どもの頃は”迷惑”だとか考えずに生きていた。


やがて成長して、もう”迷惑”は掛けないと驕ってしまったのだろうか。


それを嫌だと死んでしまうのは、勿体無いと考えるのは人それぞれ。


でも最近思う。この世は生きづらい、だから死にたいと考えるのはつまらないと。


相談に来る事が出来る人は、迷っているんだ。


生きるか死ぬか、死にたいと考えたけれど生きたいと思っている人が多いと感じる。


“生きていて”


ただその一言を誰かに言われてみたい時もある。


疲れたら空を見上げる。


今立っている足元の狭い世界ではなく、大空と同じく広い世界。


ちっぽけ過ぎる自分の中にある悩みは多分ちっぽけで、人から見れば大した事のないもの。


それでも自分には重すぎて抱えきれなくて、助けを求めたいけれどどうしたらわいかも分からない迷子。


疲れ果てて永久に眠りたいなんて考える前に一晩眠ろう、ぐっすりと、死んだように。


そして朝になって生き返ってみる。


今夜の空には月が無い。


でも本当に無くなったのではなく、ただ見えないだけの新月。


満ちて欠けてまた満ちる、そして欠ける。


今日からまた満ちて行く。


人も同じだ。リセット出来ない事は無い。


今日で欠けて、明日から満ちて行く。そしてまた欠けて満ちる。


繰り返しだ。


驕らずにただ繰り返すだけ。


自分では光れなくても光っている。


俺も、一人の力では光れない。みんなで光ればいいって今思っているのは、満ち足りていると言えるだろう。


「明日も、頑張るか!」


それぞれの道を進む友たちと一緒に、時を進む。


これでいいのかと悩む事は多々あるし、滅茶苦茶落ち込む日もある。


弱音を吐けずに独り言の多くなる日もあるし、優と大樹はどうしているかなと連絡はしないけれど考える事はある。


しあわせの中に苦しみがあるのか、苦しみの中にしあわせがあるのか、


自分と人を比べたって正解は分からない。


考えるのをやめたくなったから何もかも投げ出せばいいと自棄になったら、絶対に答えを知らないままだろう。


知らなくてもいいのだろう事だけど、今は知りたいなと、所長や先輩方を見て思う。


まだ、学べき事がある。ここで。




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