【帰還】
組織が一つ倒れても、他の組織は争っている 最早戦う意味など無きに等しいが、誰がなんと言おうとこの戦場は血で動いている
そう、戦死した戦士達の血で動いている 絶え間なく絶える命が、この大陸を日々変わらせている
しかし今は、そんなことを気にしなくてもいい
ミシェル達が今いるのは、フルハウス団の制圧している街 レンガ仕立ての建物が並び立つモダンな街だ
元々白虎帝国の市民街だったものを、フルハウス団が接収したものである
そもそも、自らの国民を手にいれるため日夜努力している白虎帝国でもなければ、ここまで住み心地の良い街を造るのはあり得ない
「ふー・・・」
過労で倒れてから早一ヶ月 ミシェルはもう完全に回復しており、今では街を散策している程に回復していた
輸送機メンバーがこの街に来たのは、フルハウス団の重役から呼び出されたためだ なんでも、この街でミシェルやあの傭兵と話がしたいらしい
名前は確か、フランシスカ
「あれ?」
しかしミシェルは、ここで違和感を覚えた あの傭兵がいないのだ ミシェル達のが最も頼りにする、死神の渾名を持つ傭兵が
先程までデートまがいの散歩をしていたのだが、ミシェルが街の風景に見とれている間にはぐれてしまったらしい
「どこにいったの?・・・きゃっ」
呟いたミシェルの髪が、そよ風に揺られた
「この風は・・・!」
いな、そよ風などではない 火の粉を運び、鉄の臭いの混じる、戦場の風
見上げれば、砲弾が建物を越えて向こう側へ飛んでいくのが見える
爆音とともに、砲弾が爆発する
顔を腕で覆いながら、ミシェルはその方向を凝視していた
あり得ない、とは思っていなかった こんなことなど大陸では日常茶飯のはずだ ただ、久しぶり過ぎて戸惑っているだけだ そう考えていた
しかしミシェルは怯えていた
彼のことが一瞬脳裏に写った そして自嘲した
「あの人がいないと、私は・・・」
「ミシェル、聞こえる!?」
輸送機の機長、ジャスミンの声 通信機からミシェルを思いきり心配してくれているのが手に取るようにわかる
「ジャスミン、何が起きて・・・!?」
それに応答したとき、ミシェルは声を途中で止めてしまった
そのとき、ミシェルの愛しの彼がいた
人型機動兵器タナトスに乗った状態で
タナトスは背中のブースターを使い、空中を飛んでいた 滞空状態でルビー色のカメラライトを右に左に動かしている
「タナトス・・・」
戦闘に介入するつもりかとミシェルが思った直後、異変が起きた
録音メッセージだ
録音メッセージがミシェルの携帯端末に届いたのだ それも、ジャスミンとの通信を、操作を乗っ取られた状態で切られた上で
そして勿論、ハッキングしたからには再生もされる そのために送ってきたのだろうから
冷静で、ともすれば冷たい印象も受けるその声 音声はまず挨拶をした
「はじめまして、ホーネットの皆様 フランシスカ・ディバイングと申します 始めに、皆様との交流がこのような形になってしまったのをまことに残念に思います」
それは、ミシェル達をこの街に呼び出したフランシスカだった
「そんな!」
驚きのあまり、戦闘中にも関わらず叫んでしまうミシェル だがこれからミシェルは、意外な人物に、更に以外な事を告げられることになる
「単刀直入に申し上げます
タナトス及びそのパイロットは、我々フルハウス団ハートグループが所有権利を買収させていただきました」
「え・・・?」
フランシスカは更に続ける
その間にも、砲弾はさらに街を壊す
「これはあの傭兵とも話を通した結果です 理解に苦しむかと思いますが、彼に見合うだけの『代金』は用意させています ミシェル・レイクさんの借金、その二倍の額を」
そのとき、滞空していたタナトスが動き始めた
ブースターを動かし、前方へ推力を集中させ、視線の方向へ飛んでいく
そう、ミシェルのそばから、飛んでいく
今まで共に過ごしてきた彼が、今、ミシェルのそばからいなくなってしまう
「そんな・・・」
砲弾がミシェルの方へと飛んできた 領地を取り返すのが目的の白虎帝国の攻撃だったのだが、今はどうでも良かった
ミシェルには、タナトスしか写っていなかった
「危ない!」
拡声器からのメアリの声と同時、アリシオンらしき機体がミシェルをかばう
ラドリー達整備班が、メアリを信頼に足るとして与えた、アリシオンの予備パーツをアリシオンの残骸と組み合わせた機体
どうでも、良かった
「待って・・・」
自然に涙が溢れた
「駄目だ、逃げようミシェル!」
アリシオンの手が、ミシェルを掬ってしまう 身動きがとれず、それでもミシェルはタナトスに手を伸ばす
「それでは、ごきげんよう」
最後に、フランシスカが告げた
同時、タナトスはもう、見えなくなった
「嫌・・・っ!」
「ミシェル!」
砲弾の余波に、ミシェルは気絶した




