9話
「スキル」は先天的なものが大きい。普通の人は持ってないし、後天的にも発現するが、努力と適正が必要だ。
しかし、この限りでない場合がある。
『譲渡』のリンゴ
大陸全土に分布するリンゴを生やしたトレントからとれるリンゴがある。
気性は穏やかで、あちらから襲ってくることはない。むしろ、近づいてきて自分のリンゴを分け与えてくれる。『譲渡』のトレントは数が少なく、リンゴにはかなりの価値が付く。
希少性が高いというのもあるが、問題はリンゴである。
食べたものには必ず『譲渡』のスキルを得ることができる。
『譲渡』は自分のスキルを他者に与えることができるスキルである。|(その際、Lv1からの出発になる。)
故に、貴族や金持ちの商人はリンゴを手に入れ、自分の息子・娘にスキルを与えるのである。|(『譲渡』のスキルは譲渡できない)
騎士学校の生徒たちは基本は1つのスキル、多くても3つのスキルしか持ち合わせない。
スキルのレベルは人生をかけて上昇させるものであり、根気よく育てていかなくてはならない。
騎士にとってスキルは命であり、スキルがなくなることは騎士になれないと同義である。
ネクロはこれから3人組の人生を終わらせるつもりである。
翌朝。
いつも通り、ランニング・素振りをし、ご飯を食べて学校へ行く。
学校に火炎魔法君とフランちゃんはいない。これで、俺の情報が漏れる心配もさらに小さくなった。
他にもちらほらいない奴もいるな。殺し合いだし、当然ちゃ当然か。
今日から通常運航のようだ。座学に実技、どちらもやるみたいだ。スパルタだな。
実技は見学者がいるみたいだが、10人はちゃんとできるみたいだ。俺もそのうちの一人だけど。
「じゃー、動ける奴らはいつも通り模擬戦を始めてくれ。」
いつもの俺ならここでボコボコニされるが今日は違うぜ。
……と言いたいが、突然強くなるのはおかしい。
『強化Lv9』があれば、そこまで痛くないはずだ。今日もボこられよう。
「セイ!」
「ベフ!」
「ハッ!」
「ギャン!」
我慢しろ。俺。
サウロは調子こいてるな。昨日の戦闘で自信でもつけたか。
そのあと、3人組にいつも通りいじめられて家に帰った。本当に強くなったな。痛くない。
スキルは手に入ったんだ。条件は満たした。これで、義勇兵になれる。
騎士団でも行けるかと思ったが、やっぱり無理だな。『スナッチ』を持ったまま所属はできない。
否が応でも義勇兵になるしかない。
両親に提案だ。反対されるだろうが。
「スキルを手に入れたんだ。」
「「え?」」
前と同じく晩飯の時に切り出した。
「だから、スキルだよ、スキル。一昨日手に入れたんだよ。」
「……本当か?疑っているわけじゃないが、あまり信じられんな。」
「すごいわ!お祝いしなくちゃ!」
きれいに反応が分かれたな。
「まあ、疑うのもわかるよ。」
「私は疑ってないわよ。」
反応からわかるよ。
「腕相撲しようよ、父さん。これで分かる。」
「……いいだろう」
「母さん、合図頼むよ。」
「ええ、任しといて。」
どちらも右腕を差し出して、腕相撲の態勢に入る。
改めて見ると父さんの腕太すぎだろ。『強化』あっても勝てんのか?
「よーい、はじめ!」
「ふん!」
「オラァ!」
ちょ、なにこれ!?力強すぎだろ!!同じ人間か?
『スキル持ち』と『スキル無し』には絶対的な差があるんじゃないのかよ。
「……!」
「だらああぁ!!」
よし!勝てる!均衡が崩れた。
「ぐぅ……」
「……はぁ、勝った……。」
「本当に凄いわ!お父さんに勝っちゃうなんて!」
何で母さんがそんなに喜んでんだよ。約束のこと忘れたのか?
「これで、義勇兵になってもいいよね?」
「「……」」
そこで黙らないでよ。
そこは、約束だからしょうがないわね!、くらい言ってくれよ。
「力が強いのは分かった。だが、魔物を倒せるかとは別問題じゃないか?
今の腕相撲で、力があまり変わらないことが証明されたからな。
もっと、はっきりとした力の証明が欲しい。」
ミスったな。腕相撲は余裕で勝って力を示すつもりだったのに。
力があっても父さんと同等レベルではダメということか。
火炎魔法を見せるか?だが、火炎魔法はほぼ確実に『先天的スキル』のうちの一つだ。
努力でどうにかなるものじゃない。『譲渡』のリンゴを買う金もない。
突然、俺が使えるようになったら不審に思うはずだ。
でも、これ以外にどうやって力を示す?
「おい、どうした黙り込んで?」
「ちょっと待って、今考えてるから。」
ゴブリンを狩りまくるか?でも、父さんでも同じようなことはできるだろう。
『剣術』を見せるか?
でも、素人目から見ても、木刀振ってるだけで強さは分からない。
あまり知られたくないが、自分の親だ。こちらから歩み寄るか……。
「父さん、母さん。今からやることを誰にも言わないって約束して。」
「ええ、いいわよ。」
「ちょっ、お母さん……。」
お母さんなんて呼ぶ父さん、久しぶりに見たな。母さんがあっさりOKして焦ったか。
「いいじゃない。それに、ネクが何をやるのか楽しみだわ」
「……しょうがない。約束しよう。」
母さんに弱いな。
「ありがと。ちょっと待っててね。」
言ったはいいけど、火炎魔法使ったことないわ。
確か、魔法の基本は魔力の充填とイメージだったな。
魔力を注げば注ぐほど強くなって、形はイメージに従う。
これだけだったら、後天的にも獲得できそうだけど、魔法スキルを持ってないと魔力を感じ取れないんだよな。だから、ほぼ確実に『先天的スキル』なわけだが。
今は、火炎魔法がある。俺にも魔力を感じ取れる。
指先に小さな玉でいい。魔力は少なく、形も小さく。
よし。『火炎魔法』
「「!」」
『……」
喋れない。口開いたら、消えそうだ。
魔法使ってるやつも、何も喋ってなかったしな。
本当に集中しないといけないんだな。
「……今の魔法よね?」
「……ああ」
「……これが僕の今の力だよ。今はわざと火を小さくしたけど、戦闘になればもっと大きくできる。」
喋ったことで、火も消えてしまった。
魔力の減りも感じない。あんだけ小さければそんなもんか。
「でも、ネク?これだったら、騎士団に入れるんじゃないの?
わざわざ義勇兵じゃなくても……。」
「そうだな。騎士団の方が何かと便利なはずだ。」
そうくるか。『スナッチ』のことは言ってないしな。
どう説明するか。正直だ。嘘は言わず、真実は告げず。
「言い方は変だけど、このスキル達は俺のじゃないんだ。
元々俺のじゃない。でも、俺のスキルのおかげでこうして使うことができてる。
これは、騎士団に知られたくないんだ。俺のスキルは強すぎる。
迫害の対象とさえなるかもしれない。」
「「……」」
「このスキルを得た時点で、俺に騎士団の選択肢はなくなった。
なら、義勇兵の方がいい。むしろ、義勇兵の方がこのスキルに合ってる。」
一方的にしゃべってるな。『スナッチ』を隠してるせいで、決め手に欠けてる。
しょうがない。なんのために腕相撲したのかわからんわ。
「……『剣術Lv20』も持ってる。」
「「20!?」」
これで、ダメ押しだろう。年齢より高いレベルだ。優秀とされている基準を上回っている。
生徒手帳を見せれば一発なんだが、他人には見えない仕様になっているんだよな。
普通は便利だけど、今はありがた迷惑な機能だ。
「……仕方ない。約束だからな。
だが、条件がある。」
「なに?」
「たまには帰ってきて、顔を見せてくれればいい。」
「そうね。無理しちゃだめよ?」
そんなんでいいのか。
「わかった。約束するよ。」
「約束だぞ」
「約束よ」
念押ししてくるな。破ると思ってるのか?
「わかってるって!」
話も終わり、後片付けを始める。
父さんが工房に戻ろうとしたところで、思いついた。
「二人とも、卒業の時の模擬戦見に来る?」
騎士学校には卒業式の後に、模擬戦を行う伝統がある。
騎士団関係者も見に来るので、自分の実力を見てもらう機会でもある。
一昨日までの俺なら来てほしくなかったが、今はちょっといいとこ見せたい。
「そうだな、ネクも強くなったみたいだしな。
その姿を見たくないと言ったら嘘になる。」
「私も見てみたいわ。ネクが騎士と戦ってるところ。」
よし、なんか嬉しいな。認められてるみたいで。今までは劣等感の塊みたいなもんだったからな。
「わかった。楽しみにしててよ。カッコいいところ見せてやるぜ。」
相手はもう決まってる。サウロだ。俺をボコボコにして関係者にいい所を見せようとしたんだろうが、そうはいかない。
サウロの『剣術』はその時に奪う。雑魚の俺にやられれば、あいつの立場は良くはならないだろう。
リックとアバンの『解析』『体術』は卒業式の前にとる。
二日前に『解析』、一日前に『体術』だ。
これで、疑惑の目を向けられるのを最低限にできるだろう。
それまでは大人しくしておこう。
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