38話
馬車を少し走らせると3人が待っていた。
速度を落として近づいていく。
「待たせたな」
そういうと皆御者台に乗り込んできた。
ぎゅうぎゅう詰だ。
でも有難い。今はこっちの方が楽だ。
走らせながら反省会をする。
「今回は何がいけなかっただろう?」
そう切り出す。
「最初からみんな守ってたら良かったのかな?」
ノールが返す。やはりそうなるのか。
「……そうだな。意地を張った。ザックさんの提案を断ったらよかった。
最低でも騎士団と連携していたら、こうはならなかったかもな。」
「あとはアイラの矢よ。少なすぎるわ。」
アイビスが指摘する。
「ネクロがどう思っているかは知らないわ。でも、アイラは最強よ。人類の中でも勝てる人間は少ないわ。それが今はあと20本の矢しかない。才能の無駄使いよ。」
確かに。最悪アイラがいれば何でも殺せる。
「過小評価はよくないわ。ノールもアイラも。この二人に勝てる人はそういない。
2人の装備の充実は、もはや人類の貢献とも取れるわ。」
そこまでいうか。でも否とは言えない。
13歳ということでそのことを意識しないようにしていたのか?俺は。
「アイラはいいわ。『弓の加護』が弓の性能を選ばないから。
問題はノールよ。装備が微妙すぎる。悪くもないけどいいとも言えない。」
「え?結構いいと思うけど」
ノールが返す。
「何言ってるのよ。この前私の鎌を見て武器が欲しいって言ってたじゃない。
見た目もあるけどこれをいい武器だと思ったんでしょ?」
「……まぁ」
「ほらね」
そうか。ならば。
「考えがある。より強い武器を手に入れる方法だ。」
「え!?なになに」
ノールが食いついてくる。強い武器が欲しいか。さすれば、
「『スキル持ち』の魔石を手に入れる。」
「?それでどうすんの?」
「忘れたか?『スキル持ち』の魔石はスキルのついた武器になる。だからこそ高く売れたわけだが。」
「そういやそうだった。でも高いんじゃなかったけ?見たこともねーけど。」
その通りだ。今まで市場でたくさん武器を見たがスキルのついた武器は見たことがない。
「問題ない。俺が作る。」
「「「はい?」」」
「この前武器屋の奴に聞いた。『付与魔法』を使うらしい。魔力の塊の魔石を武器に『付与』するんだと。魔石の供給量と『付与魔法』持ちが少ないから、市場になかなか姿を出さないらしい。」
「……それなら心配ないわね。」
「ああ、これで武器は行ける。だが、何でもいいわけじゃない。」
「なんでですか?お兄ちゃん」
「ノールにあった魔石を使わなくては意味がない。『槍術』の付いた剣を使っても意味はないからな。
力が上がるなりしないと。だが、狙って出るものでもない。」
「確かに、その通りですね。」
「次の町で金を稼ごう。最低でももっといい武器を買う。安全マージンを確保しつつ迷宮に入るぞ。」
「わかったぜ」
「わかりました」
「わかったわ」
30分もしない内に、異変が起きた。
後方に約50mに50匹ほどのオーガが集結し、こちらに睨みを利かせている。
あいつらが殺した。敵討ちだ。
「あいつらが全員殺したのか。問題は奥のあいつだ。」
『解析』
名前:オーガ
レベル:17
スキル:敏捷Lv15
「『敏捷』持ちがいる。パワーはないがスピードに注意しろ。
力がないと言っても、オーガの『スキル持ち』だ。油断するな。」
「「「了解」」」」
あいつのせいで全員やられていたのか。戦ったというよりも逃げることすらできなかったということか。しかし、この近辺には『スキル持ち』が多すぎる。
オーガ達が大声を上げこちらに向かってくる。本能的な恐怖が湧き上がるような光景だ。
「アイラはできるだけ温存だ。ノールとアイビスには『付与魔法』をかける。」
さっきの反省点を踏まえる。武器が悪い。武器を強化する。
『付与魔法』!
ノールの剣とアイビスの鎌に光がともる。俺の剣にも付与しておいた。
「切れ味を上げてある。1分で決めるぞ。」
言うが早いか、アイビスがど真ん中に突入する。
「はああああぁああぁ!!!」
攻撃がやまない。鎌を振り続けている。円運動をして体を鎌を止めず、絶えずオーガを切り刻む。
体に刃が当たっても止まらない。切れ味の上がった鎌はオーガの体をバターのように切り落としている。
俺とノールも左右に分かれオーガと接敵する。
一閃するたびにオーガが真っ二つになる。
多数で来ようが関係ない。振りぬけば切れる。振るたびに切れる。
武器で防ごうが武器ごと斬っている。
今まで身体能力を上げていたのがバカみたいだ。
「うおおらあああぁああぁ!!」
士気が上がる。1分間この剣を止めれる奴はいない。
『剣術』があれば遅れも取らない。
いち早く殲滅したアイビスがノールの救援に向かう。
ノールも『付与魔法』のおかげで切れ味の上がった双剣でオーガを圧倒している。
しかし、『敏捷』持ちがアイビスを危険と判断したか、信じられない速度でアイビスに迫っている
「アイラ!!!」
アイビスに支援を入れるためにアイラに声をかける。
俺に言われずとも、すでに矢が放たれているが、オーガのあまりの速さに当たっていない。
くそ、また判断を誤った。
先にアイラにフィジカル・アップをかけておくべきだった。
「アイビスちゃん!」
矢を当てれないアイラは残りの矢の本数も考え、射撃をやめる判断を下し、アイビスに警告をする。
アイビスもアイラの意図に気付き、『敏捷』もちのオーガに対し鎌は不利だと即座に判断し、ナイフを抜いた。
さらに、左手に仕込んでいた小型矢を放つもこれも回避。
アイビスは回避方向を予想していち早く回り込み、太ももを浅く切り裂く。
しかし、この程度ではオーガの動きが落ちている様子はない。
オーガはアイビスから距離をとっている。アイラにも気を配り油断していない。
状況がこう着している。ここに居る全員が敵に対して致命的な攻撃力を有していない。
残りのオーガを全滅させ、俺とノールがアイビスの元に駆け寄り、再度キーン・エッジをかけて、攻撃力不足を解消しようとした。
『付与魔法』の存在を知っていたのか、かけさせまいと俺駆け寄ってくる。
俺も剣を放棄し、素手で立ち向かう。向こうスピードに任せた徒手空拳。
『体術』のある俺の方が有利だ。それに奴からは奪う。絶対に。
奴は勢いそのままに横薙ぎの蹴りを撃つ。
「ガァ!」
「っ!」
ステップで回避し、カウンター気味に拳を撃つもすでにその場から消えている。
『敏捷』は伊達ではない。
「……想像以上に速い」
3m程度離れたが、構えをとり同時に突撃。
「ゲァ!」
「ふっ!」
顔面を殴ってくるが『剛腕』を使った腕でガードする。
『敏捷』に任せてオーガは連続で撃ってくるが、『体術』の技術向上で致命的な一撃は貰っていない。
が、攻撃に移る暇がない。ガードできてはいるが一方的な展開になっている。
「ボス!」
ノールが助けに入ろうと駆けだす寸前に、叫ぶ。
「大丈夫だ!俺がやる!」
客観的に見たら俺が一方的にやられているが、そうではない。
奴の顔を見れば焦りを見て取れる。
俺が大ぶりの回し蹴りを放つも、オーガも回避し仕切り直しになる。
「はぁっ!」
「ッ!」
今までの対峙で、分かったこともある。
あいつの攻撃力は『強化』と『剛腕』のある俺には、中々通じるものではない。
厄介なのは『敏捷』だ。速すぎる。走るのだけでも目測80km/hくらい出ていそうだ。
しかし、覚悟を持って受け止める。
大したダメージではない。殺された人に比べれば。
奴が再度突進してくるが、今度は直線的でなかった。
緩急をつけて右に左に動きながら近づいてくる。かなり早い。捉えきれない……!
「くっ!」
俺の右に高速で移動して、速さを重視したジャブを撃ち、顔面を捉える。
「ゴァア!」
「ぐぁ!」
視界が揺れる。かなりの衝撃を頬が襲うが、この程度でやられると思うな。
しかし、オーガは千載一遇と、さっきまでは見せなかったモーションの大きい蹴りを撃つ。
「……来い!」
俺は覚悟してその場に踏みとどまり、『強化』した体で蹴りを受け止める。
「ガアァ!」
「ごぅ!」
脇腹を直撃したのをみて、3人から悲鳴にも似た声が上がる。
「ボス!」
「お兄ちゃん!」
「ネクロ!」
メチャクチャ痛い。パワーがスピードに上乗せされて『強化』を貫通している。俺の左横腹で、オーガの太い脚を受け止め、全力で抱え込む。引き離そうとするがそうはさせん。
アイビス戦と同じような構造だ。成功体験にあやかる。
『剛腕』!!
両腕に全身全霊の力を込めて、脚を折る。何かを砕いたような手ごたえと共に、脚から血と骨が飛び出した。
「がああぁぁ」
オーガは折られた脚に手を当てて、地面を転げまわる。
声は悲痛で、戦いの終わりを意味していた。
地面に倒れるオーガを脚で蹴り、踏み、嬲りつづける。
少し大人しくなったので、次はオーガを組み伏せ顔面を殴り続ける。丹念に。丁寧に。死なないように。苦しませてからだ。
「ガア!ブア!ガッゴッ……ッゲァ……カァッ……」
俺の下でどんどん力が抜けていっている。さっきまでの威勢はもはや微塵も存在していない。
そろそろか。
首を掴んで頭を固定し、目を覗き込む。発動条件は整った。『敏捷』を奪う。
『スナッチ』!!
?また?発動しない。
オーガを観察すると、全く動いていない。微動だにしない。息すらしていない。
……死んでる。なんでだよ。殺した覚えないぞ。
「悪いわね。ナイフ使ったから、毒で死んじゃったみたいね。」
アイビスが近づいて、申し訳なさそうに進言する。
そういうことか。結構強い毒使ってんだな。それを俺にも使ってたの?
『毒耐性』あってよかった。




