32話
11歳の女の子に慰められるって恥ずかしいな。
「……ありがとう、アイビス。落ち着いたよ。」
もう大丈夫だ。
「そう、もっと甘えてもいいのよ?」
顔が少しニヤついてる。この前同じようなことやったし、しょうがないか。
だが、そうはいかない。お言葉に甘えさせてもらおう。
「んじゃ、遠慮なく」
さっきまでいた真っ平らの胸に飛び込む。
いっけー!
「……」
「~~!!」
ぎゅっと目をつむって待ち構えている。
殴らないの?そういうパターンじゃないの?
ちょっとその顔やめてもらえるかな?飛び込んでないよ?
すごい罪悪感だ……。
「アイビスさん……?」
「っ!」
俺を廊下へ突き飛ばし、洗面所へ駆け込み、扉を閉めてしまう。
「……あの……。」
扉の向こうへ話しかける。やべぇ、どうしよう。
「……なによ」
声が低い。
「……なんでもありません」
寝室に戻る。後で謝らなきゃ。
ネクロが扉の前を離れたことを確認し、ため息をついた。
「……なにやってるのよ、わたし。」
下を向いていた顔を上げて天井を見る。
「……ばか」
夜が明け居間に全員集まるところで、アイビスに話しかけた。
「さっきは悪いことしたな。すまなかった。」
アイビスは小首をかしげている。
「……なんのことかしら?」
「え?せんめんzy」
「なんのことかしら?」
なかった事にしたいのか。
「……俺の勘違いだったわ。なんでもない」
「そう、気を付けてよね」
も~、目が怖い!
皆席について賑やかに朝食を食べる。
母さんが情報をくれた。
「貴族街で火事があったんですって。それで、バードン男爵がお亡くなりになったそうよ。」
無関心を装う。
「へー、他の人は大丈夫だったの?」
「男爵以外は大丈夫だったのよ。男爵のお部屋から火が出て、他の人はちゃんと避難したそうよ。
屋敷は大丈夫だったけど、部屋は完全に燃えてしまったんですって。」
……作戦成功だ。アイビスの首輪も回収してあるから、証拠は何もない。
3人を目だけで見て、視線を交わす。
安心しているようだ。ノールとアイラには吐いてたことは黙ってるか。
喋ってもいいことないし。
「それより、ネク。いつまでここにいるの?」
急ぐ旅でもないけど。
「明日には出発しようかな。ずっと居るわけにはいかないし。」
そう言うと、父さん、母さんの顔が一気に落ち込む。
アイラとアイビスがお気に入りだからな。もう行っちゃうのが寂しいのだろう。
「あと1日は世話になるよ。アイラとアイビスとはたくさん遊んで。」
「そう?じゃ、そうしようかしら。お父さんはどうする?」
「そうだな。今日は仕事も休みだし。遊ぶか。ノールも行くぞ」
「うーい」
休みなんて初耳だよ。あっまい。あますぎる。
顔緩みすぎだよ。
「俺は馬車を回収してくるから。みんなは楽しんできて。」
「お兄ちゃんも一緒に行かないの?」
「俺はいつでもお前らと一緒だからな。それに、たまには一人になるのもありだ。」
ここ1カ月は一人になった覚えがない。
「ファッションショーでも何でもして来い。
そこのおじさんとおばさんはダダ甘だから、何でも買ってくれるぞ。」
何でもしてくれそうだ。孫と一緒の爺婆みたいだもん。
「とりあえず今日は自由だ。好きに過ごしてくれ。」
「やったわ!早速行きましょ!」
俺以外を連れてみんな出ていってしまった。
あれ?結構さみしい。
今回は正面から防壁を出ていって、馬車の回収に向かう。
確かこのあたりにおいてきたはず。
……なんだけど。
……ない。いねぇよ。どこ行った?
もしかして、普通に盗まれたか?
正直こんなんでいいのか、疑問だったんだよ。
やっぱり盗まれたか。
元々、俺のでもないしいっか。
当てもあるし。
2か月前食料を買った商店に行く。おばちゃんの名前はカイラだったな。
「ごめんくださーい。カイラさーん。いますかー?」
奥からカイラさんが出てくる。
「ん?ああ、少し前の子だね。今日はどうした?」
「また食料が欲しい。14日分を4人分。」
ノールとアイラの故郷があるのは東の地方だ。
一番近い斡旋所がある街はここから2週間かかる。
ない場所ならもっと短くてもいけるけど、金を稼ぐ手段は近くにあった方がいい。
「次は東の方に行くんだけど、また足がなくてさ。誰か紹介してもらえない?」
優しいおばちゃんへのお願い。
「確か前はザックに送ってってもらったよね。東ってどこだい?」
「義勇兵斡旋所がある街。」
「運がいいね。ザックも明日そこに行くよ。手紙書いてあげるよ。
今回はタダじゃないけどね。全部で20,000ユグ貰うよ。」
食料が18,000で手紙が2,000くらいかな?
タダで貰おうなんて思ってないよ。
「それで大丈夫。結構稼いできてまだ余裕があるんだ。」
「太っ腹だね。待ってな。」
食料あんなたくさんか。なきゃ困るけど。
「じゃあね、また来るよ。」
「ああ、また来な。手紙書いてあげるよ。」
そりゃ便利だ。
食料を持って家に戻る。
誰もいない。
何しよう。
暇だ。
俺も行けばよかった。
……寝よう。
夕方、やっとみんな帰ってきた。
アイビスはいない。
用があるんだと。
なんだ?
遅れてくること30分。
馬鹿でかい鎌持ってきやがった。刃は折りたためるようだ。
自分の身長よりでけーじゃねーか。
「……アイビス、何それ?」
素直な気持ちだ。
「……私の武器よ。文句でもあるの?」
刃も柄も真っ黒だ。中二病患者だったのか?似合ってるけどさ。
「どこからそんなの持ってきたんだ?金ないだろ?」
「男爵の屋敷から少し離れてるところに、武器庫があるの。
そこから拝借してきたわ。」
屋敷に近づいたのか?
「……大丈夫だったのか?」
「私をなんだと思ってるの?『暗殺術』があるじゃない。見つからないわよ。」
そうだけどさ。
「てか、お前ナイフ使ってたじゃん。鎌なんて使えんのか?」
アイビスは鼻で笑い、見下した表情をしている。
く、悔しい。
「『暗殺術』の前身は『武器術』よ。武器と名のつくものなら何でも使えるの。
私はナイフより鎌の方が得意だけど。」
「なんで、俺を暗殺するとき鎌を使わなかったんだ?」
「室内なんかじゃこんな大きいの振り回せないでしょ。」
そりゃそうだ。
そこに臭いを嗅ぎつけたか、ノールが来た。
黒い鎌に視線が釘付けだ。かっけーしな。
「え?なにこれ、メッチャかっこいい!」
「……そう思う?」
満更でもないご様子だ。むしろ嬉しそうだ。褒められて嫌なやつはいない。
「思う思う。いいなー、アイビス。ボス、俺も新しいの欲しい。」
何言ってんだ。
「贅沢言うな。まだ使えるだろ。」
「そうだけどよー。これ見ちゃうとさ。ボスだってカッコいいと思うだろ?」
まあね。
アイラもひょっこり出てきた。
「あ!アイビスちゃん。帰ってきたんだ。何その武器!かっこいいね!」
「……ふふ、ありがと」
あ、また笑った。もう珍しいものでもなくなるのかな?
嬉しいような、寂しいような……。
アイビスの戦闘スタイルは「RWBY red trailer」を想像しています。
銃は使いませんが、こんな感じかと分かりやすいと思います。




