バイト
今日もいい天気だ。
今日もゴリラと駄弁っていた。
「あー、ケルベロス最高だった!」
「おめぇの願い一個かなってよかったな」
「あー、おめーのおかげだな」
「寝る前ふと思ったんだけどよ。お布施、お前が払うべきじゃねぇの?」
「ありゃ、飼育係の責任だろ?」
つんつんが割って入る。
「半分は湊が払ってもいいんじゃない?」
ゴリラが言う。
「半分が妥当だな」
「金ねーよ」
「俺みたいにバイトすればいいじゃん」
確かにつんつんはよくバイトをしているようだ。
「わーったよ。半分払えばいいんだな」
「助かる。どっか奉納するしかねーところだった」
まぁ、どーにかなるだろ。とりあえず、バイト探すしかねぇか。
帰り途中、俺の腹が急に痛くなりやがった。
「いててて、こりゃ家まで持たねぇぞ」
俺は近くの公園の公衆便所に寄ることにした。
騎獣をトイレの前に付け、急いで個室便所に向かった。
ブリブリブリブリ!
「ふー、間に合った」
俺は小さな幸せを感じていた。
ふと正面の壁を見る。
色々な落書きがある。
『世界征服したらここを本部にする』
『田中へ 借りた三百円返せ』
『花子さんはここにいる』
落書きを見ているとふと一つの落書きが目に留まった。
「楽して高収入。初心者大歓迎。大金稼げます。連絡先○○○○」
うんこも間に合うし、仕事も見つかりそうだし、こりゃついてんな。
俺はご機嫌で家まで帰った。
早速連絡してみる。
「はい。エンジェル派遣会社です」
「あー、楽して稼げるって聞いて連絡したんだけどぉ」
「はいはい。楽して稼ぐのがモットーですから。いいところ見つけましたね、お兄さん」
やっぱり、今日はついてると思った。
「いつから働けますか?」
「あー、まぁ夕方以降なら今日からでも行けるぜ」
「そうですか。今日ちょうどいい案件がありまして。いかがですか?」
「おう、稼げるんだろうな?」
「はい。任せてください」
「じゃあ、働いてやる」
「それでは本日二十一時に空き地公園へ集合してください」
空き地公園とは土管が三本置いてある公園だ。
ボアに乗ればそう遠くない。
「おう、分かった。そこ行きゃいいんだな」
「係の者がお待ちしておりますので、指示に従ってください」
「おう、任せとけ」
二十一時に空き地公園に行くと二人の男がいた。
「おう、来たな。今日のリーダーの五浪だ」
五浪と名乗った男は二十代半ばくらいに見えた。
痩せた体に、少しよれた白いシャツ。
黒いズボンを履き、肩には古びた布の鞄を掛けている。
髪はきっちり七三に分けていた。
どこか昔の苦学生みたいな格好だった。
「それと、こいつが大木だ」
隣にいた大木は二十歳くらい。
少し長めの黒髪にパーカーとジーンズ。
肩にはリュックを背負っている。
駅前の大学に行けば五人くらいいそうな、ごく普通の男だった。
俺も名乗った。
「俺は神原湊だ」
「今日はお前、初めてらしいから指示に従ってくれ」
他人の指示に従うのはムカつくが、しょうがねぇ。
「おう」
五浪は少し離れたところを指さした。
「今日はあそこの家を訪問して、金品をもらうっていう簡単な仕事だからな」
指さす方を見ると、少し古い一軒家があった。
今日はあそこに行って仕事をするみたいだ。
お使いみたいなもんかと俺は思った。
「楽勝だな」
「おう。二人ともついてこい」
俺たちはその家まで歩いた。
「ちょっと待ってろ。鍵開けるから」
五浪は針金みたいなものを取り出し、扉の前にしゃがんだ。
しばらくすると。
ガチャ。
扉が開いた。
五浪は小声で言った。
「これから五分間で金目の物を集めてこい」
俺は物を探すのは得意だ。
今日のバイトで活かせそうだ。
俺たちは家の中に入った。
当然、俺は靴を脱いだ。
「お前はあっちの部屋を見に行ってくれ」
「おう」
俺は指示された方の部屋へ向かった。
金目の物がないか探していく。
その時だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
違う部屋から五浪の悲鳴が聞こえた。
「どうした?」
俺は急いで声のする方へ向かった。
廊下へ出る。
そして。
向こうから誰かが歩いてきた。
「福山?」
左手で五浪の胸ぐらを掴んでいる。
五浪の顔は血まみれだった。
鼻からも口からも血が流れている。
足にはほとんど力が入っていない。
福山はそんな五浪を引きずって歩いてきた。
右手にはいつもの木刀。
「なんでここにいんだよ」
五浪をその場に放す。
ドサッ。
五浪が床へ倒れた。
後ろから大木が走ってきた。
「何があった!?」
「……」
大木は何も言わず反対方向へ走り出した。
「どこ行く?」
福山が木刀を投げた。
ゴンッ!
「ぐえっ!」
大木の後頭部に直撃した。
大木はそのまま前のめりに倒れた。
「おい! 何しやがる!」
次の瞬間。
ドゴッ!
腹に拳がめり込んだ。
「おごっ……」
息ができない。
膝から力が抜けた。
そこで俺の意識はなくなった。
「おい、起きろ」
頬を叩かれた。
「いてぇな!」
目を開ける。
福山がいた。
五浪と大木はいない。
「あいつらは?」
「警察に突き出した」
福山は木刀を肩に担いだ。
「お前も突き出そうと思ったが、生徒が捕まると俺が面倒くせぇからな」
「帰れ」
なんで突き出されるのかもわかんねぇし、何のバイトかも結局分かんねー。とりあえず、リーダーいねぇし帰るか。
そう思って俺はボアに乗って家へ帰った。
「そういや、バイト代もらってねぇな」
すぐにエンジェル派遣会社へ連絡する。
『おかけになった番号は――』
繋がらない。
「なんで繋がんねーんだよ」
「しょうがねぇ。バイトもう一回探すか」
楽して稼げる仕事は、きっと他にもあるはずだ。




