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心を無くした伯爵令嬢は、新たな土地で本当の自分を取り戻す  作者: 陽ノ下 咲


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第四十二話 私が愛せる私になって

 そんなクラリスを、アシュレイは愛しげに見つめると、ふっと微笑んだ。


「もちろんです。私も、リンデ村でしたように、あなたと一緒に領地を見ていけたらと考えていました」


 その答えに、クラリスがぱっと顔を上げる。


「本当ですか?」

「ええ。ですから、あなたからそう願い出てくれて、本当に嬉しいです」


 その言葉を聞いた瞬間、クラリスの胸にあたたかなものが広がっていった。

 自分が大切にしたいと思ったものを、アシュレイも同じように大切にしてくれている。それが何よりも嬉しかった。


「ありがとうございます。……あなたと夫婦になれることを、心から嬉しく思います」


 クラリスはそう言って微笑んだ。

 その時、ふと以前アシュレイと交わした会話を思い出した。


「……そういえば以前、アシュレイ様がマーガレットの花言葉を教えてくださいましたよね」


 白い花へ視線を向けたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「“誠実”と“信頼”」


 その響きを口の中で確かめるように呟く。


「本当に、アシュレイ様のようなお花ですね」


 そう言うと、アシュレイは少し驚いたように目を瞬かせた。

 やがて照れくさそうに小さく笑う。


「……あの時は言えなかったのですが」


 少しだけ視線を逸らしてから、穏やかな声で続けた。


「実は白いマーガレットには、もう一つ花言葉があるんですよ」

「え?」


 不思議そうに見つめ返すと、アシュレイは再びクラリスへ視線を向けた。


「“心に秘めた愛”という意味もあるんです」


 その言葉に、クラリスは思わず目を丸くする。


「……まさに私を表した花言葉ですよね」


 その言葉とともに向けられたアシュレイの眼差しは、ひどく熱を帯びていた。

 その視線を受けて、クラリスの頬が一気に熱くなる。


「アシュレイ様……」


 小さく名前を呼ぶことしかできない。

 そんなクラリスを見つめながら、アシュレイが一歩、距離を縮めた。


「先程、夫婦になれることが嬉しいと言ってくださいましたが……それは、私のほうこそ伝えたい言葉です」


 どこか切なさを滲ませながら、一言一言を噛み締めるように告げる。


「私はずっと、叶わない恋だと思いながらも、あなたを想い続けてきました。……ですから、あなたと夫婦になれることが、本当に……奇跡のように嬉しいんですよ」


 その言葉に、クラリスの胸が大きく高鳴る。

 そして、差し出された腕に導かれるように近づくと、優しく身体を抱き寄せられた。

 広い胸に包まれた瞬間、不思議なくらい安心している自分がいた。

 胸の鼓動は速くなっているのに、その腕の中はどこまでも穏やかだった。


「クラリス」


 優しく名前を呼ばれ、自然と顔を上げる。

 澄んだ青い瞳と視線が重なった。

 アシュレイは、身体に回していた右手をクラリスの顎に添えた。

 そのまま顎を少しだけ持ち上げられる。

 ゆっくりと顔が近づいてきて、そっと唇が重なった。


 唇が離れた後も、クラリスは恥ずかしさのあまり言葉が出なかった。

 愛しげに見つめてくるアシュレイと目が合い、たまらない気持ちになっていると、もう一度優しく抱き寄せられた。

 その腕の中があまりにも心地よくて、クラリスはそっと身体を預けた。

 しばらく静かな時間が流れたあと、耳元で穏やかな声が響く。


「愛しています。これまでも、そしてこれからも、ずっと」


 その一言に、また胸が熱くなる。

 ゆっくりと顔を上げると、アシュレイは優しく微笑んでいた。


「はい」


 照れながらも、小さく頷く。


「私も……愛しています、アシュレイ様」


 クラリスはそう言うと、ふわりと口元を綻ばせて柔らかな微笑みを浮かべた。

 そんな彼女の姿を、アシュレイは惚けたように見惚れ、そして幸せそうに目を細めるのだった。


 小さな花壇には、白いマーガレットの花が陽の光を浴びて、穏やかに咲いている。

 花々は、寄り添う二人を優しく見守っていた。



*


 ずっと憧れていたものがある。

 それは、美しいドレスでも、高い地位でもない。

 私が愛せる私と、ありのままの自分で笑える毎日。


 そして、ようやく見つけることができた。

 ありのままの自分を愛し、心から笑って過ごせる日々と、幸せを感じられる居場所。

 大切な人と共に歩む、かけがえのない未来を。


 

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