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006話 冒険者ギルド

 冒険者ギルド。


 魔物討伐や素材採集、発掘調査などを請け負う、国家に属さぬ独立組織である。

 その組織の仲介で仕事を受け、日銭を稼ぐのが冒険者である。


 冒険者は、魔物の被害に遭っている村落の防衛、時間や人手が足りない職人の手助け、別の街での交易路の護衛、はたまた近所のマダムの猫探しまでなんでもこなすジェネラリスト。

 雑に言ってしまえば、痒いところに手が届く派遣型の便利屋である。


 魔物討伐は軍に任せればよいのでは?という疑問が浮かぶが、本来軍とは国家主権を守るための抑止力である。

 軍が魔物討伐で出払っている隙に、隣国から攻め込まれて国を落とされるということはあってはならないのだ。

 テーブルの上ではにこやかに手を握っているが、テーブルの下ではナイフを突き付け合っているのが今の情勢である。


 辺境そのものが巨大な対魔物防衛拠点になっている例外もあるが、基本的に小中規模の魔物被害に関しては冒険者ギルドにて処理される。



 * * *



 石造りの巨大な建物が、通りの一角にどっしりと腰を据えていた。


 王都の華やかな商館群と比べれば、飾り気はあまりに少ない。

 だが、その無骨な佇まいには、長年使い込まれてきた建物特有の迫力があった。


 元は大規模な交易商館だったのだろう。

 横に広く取られた造りで、荷馬車ごと出入りできそうな巨大な搬入口。

 分厚い灰色の石壁で構成されており、まるで小規模な砦のようだ。


 建物の脇には素材運搬用と思われる大型滑車が備え付けられており、使い古された縄が軋む音を立てて揺れている。

 近くには解体後と思われる魔物の素材を積んだ荷車が停まっており、獣臭と薬品臭、それに鉄臭さが入り混じった独特の臭気が漂っていた。


 ギルドの入り口には扉がなく、巨大な獣の口のように開け広げられている。

 威圧感を覚える者もいるだろうが、ノルンは気にした様子もなく、中へ足を踏み入れた。


 中には酒場が併設されているらしく、何人もの冒険者の姿が見える。

 ──仲間と楽しげに酒を酌み交わす者。

 ──景気よく武勇伝を語る者。

 ──依頼書を眺めて思案する者。

 ──黙って煙草を燻らす者。

 ──包帯を巻いた腕を気怠げにさする者。

 そこには活気と倦怠感が入り混じっていた。


 ノルンは机に向かって書類仕事をしているであろう若い受付嬢のもとに歩みを進める。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご依頼でしょうか、それとも登録手続きですか?」


「登録を」


 登録、という言葉をノルンが発した瞬間、いくつもの視線を感じた。

 新しく入ってくる奴はどんな奴だろうと値踏みするような湿った視線だ。


「かしこまりました。では、新規登録の手続きを行います」


 そう言って、一枚の用紙をノルンに差し出す。


「これからギルドに関しての説明を行います。説明を聞き、問題がなければこちらの用紙に署名をお願いします」


 おそらく、登録時の義務のようなものだろう。

 ノルンは黙って首肯すると、受付嬢は説明を始めた。


 説明は長かったが、要するにこういうことだ。

 ・冒険者にはランクがあり、銅、真鍮、鉄、銀、金、白金、ミスリルの七段階

 ・ランク査定の詳細は伏せるが、依頼難易度だけではなく、成功率や依頼数も対象

 ・各ランクごとにそのランクに対応した素材のプレートが渡され、それが冒険者としての身分証

 ・過信による新人の負傷事故が多発しているため、しばらくの期間は先輩冒険者による引率が必要

 また、プレートを紛失した際はその素材に対応した弁償金を請求されるのだとか。


「最後に、魔物についてです」


 その言葉に、ノルンはわずかに意識を向けた。


「魔物には換金可能な素材のほか、“魔石”が存在します」


 ──魔石。

 石という文字がつくため無機物を想像するが、臓器の一種である。

 魔法を扱うための器官と言われ、生物なら例外なく──人間にも存在するらしい。


 この臓器には不思議な性質がいくつかある。

 生きているうちは誰にも観測できず、死が確定することで存在を確認できるようになる。

 にもかかわらず、人は皆、自分の内側にそれがあることを感覚として知っていた。


 また、他の物質を透過するが、肉体には定着するという霊的物質としての特性を持つ。

 魔石には宿主の経験や素養を蓄積する機能があるため、魂の具現化とも言われている。

 魔物狩りを生業とする者たちは、討ち取った魔物の魔石を自らに取り込み、力を積み上げていくのである。


 そして、魔石は死後に活性化する臓器である。

 活性化がしばらく続くと、魔石は宿主不在を回避するため、宿主を生かそうとする。

 最終的には生物は魔物に変容する。──つまり、魔物は魔石暴走の成れの果てと言えるだろう。


「入手した際の扱いはお任せしますが、ギルドにて買取も行っていますので、その際はご利用ください」


 そう、受付嬢は笑顔でノルンに話した。

 説明内容は概ねノルンの想定通りだったため、特に疑問は浮かばなかった。

 ノルンは署名しようと用紙に手を伸ばしたところ、忘れていたことを思い出したように受付嬢が話を続けた。


「あと、もし人型の魔物に遭遇した場合は絶対に逃げてください」


 ノルンは無言で受付嬢の言葉を待った。


「人型の魔物は非常に危険です。発見したら直ちにギルドに報告してください」


 200年前、魔石を不活化する方法を確立したことで、人間が魔物化することはほとんどなくなった。

 稀にゾンビやスケルトンのような魔物が発生するが、強さ自体はそれほどでもなく、大きな問題にはなっていない。


 問題はそれ以外の人型の場合で、そういった魔物は主に二パターンに分類される。

 200年以上討伐されることなく生き残っている歴戦の個体。

 不活化処理を行える者が到達できない危険地帯で死亡した、英雄級の人間。


 いずれも個人で戦った場合に勝てる可能性はゼロに等しく、ギルドとしては大規模な討伐隊の編成を強く推奨している。


「説明は以上となります」


 ノルンはその言葉を聞き、手元の用紙に署名をした。

 用紙を受付嬢に返すと、受付嬢は言葉を続けた。


「ノルンさんですね。ご登録ありがとうございました。本日は仮のプレートをお渡ししますので、後日正式なプレートをお受け取りください」


 受付嬢から仮の身分証を渡され、この後どうしようかと思案していたノルンの背後から声がかかった。


「──もう終わった?」


 そこには銀髪の美しいエルフの少女が立っていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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