疑惑
僕は遺体の発見された現場に向かった。
前日の雨で遺体のそばには何も残されていないと言われた。
何故かドウとキュンも駆けつけていた、そしていろいろと好奇心丸出しであたりの人に聞いて回っている。
「何しに来たんだ」
思わず僕は聞いてしまった。
「ええ、何初めて起きたことだから興味あんだろ」
ドウがふざけたことを口にした。
「でも、さ、普通に殴る蹴るでミランダさんから聞いたような死体になるとは思えないんだよね」
だから凶器の目星を探しに来たのだが、見事に何も残っていない。
「お前としてはどんな凶器だと思うんだ」
「思った感じでは」
そして僕の最初に浮かんだのは巨大な蛇に絡みつかれたような状態だった。
「普通に人間では無理だよね」
「だからと言って敵の攻撃とも思えないが」
ドウの言う通り、敵襲ならこちらも即戦闘態勢に入る。それがどういう状況なのかは初陣を済ませたばかりの僕にはよくわからないけれど。
「死体もみておくか? あっちに一応保存してあるらしいぞ」
特に死体が見たいわけでもないが僕は頷いた。
そして、少々温かくなってきている季節柄、しばらく経った遺体は当然臭いだす。
ポケットから出したハンカチで僕は自分の口と鼻を覆った。
僕のようにハンカチの持ち合わせがなかったドウとキュンの二人は自分の手のひらで顔の下半分を覆っていた。
右腕と左足が曲がるべきではない方向に折れていた。胴体もいびつに歪んでいる。
「人の身体をこんな風にするにはどうやればいいと思う?」
「こんな広範囲に胴体をへこませるのは素手じゃ無理だろ」
ドウがそう答えた。
「凶器ってもな結構大きいもんだし普通の体格の男じゃ無理じゃね」
二人は胴体に注目しているようだ。
「僕はものすごく丈夫な太いベルトを身体に巻き付けて両側から締め上げればッて思うけど普通の状態でそんな風にベルトに巻かれてくれないよね」
僕がそう言うとそのまま三人で頭を抱えた。
「他の人にも相談するべきかな」
僕はたぶんこの人を殺したのは人間じゃないと思ったのだがこの街は常に人間じゃない生き物に襲われている状況にあるがそれが起きた気配はない。
「どういうことなんだか」
「そういえば、昨日も雨だったよね」
僕は軽く頭を振った。
ふとしばらく前の雨の日に見たあの灰色の男だ。だがあれも普通の人間の形をしていたんだしできるかどうか。
「三人ともこんなところで何をしているんだ」
いつの間にかアンソニーさんが来ていた。
「どうしてこんなことを気にしているんだ」
僕はしばらく考えた末に聞いた。
「これ、人間ができると思いますか」
アンソニーさんは真顔になった。




