第三話 冒険者ギルド
ちょっと長めです!
私たちは店を出て、広場の一角にある、酒場の隣にある大きな建物の前にやってきた。
「ここはどこなの?酒場に用でもあるの?」
ルナリスは微笑みながら、
「ここは冒険者ギルド。特にこのノヴァリア中央ギルド舎は、築120年の歴史ある建物なんだ。ここで君の身分証となる『ギルドカード』を作る。」
ギルドと言えばむわっとしたむさくるしいイメージだったが、実際には大理石の柱と美しいタイルで出来た、涼し気で美しいシンメトリーの建物だ。
そんな建物の中心にある、登録所と書かれた窓口の列にならび、気になったことを聞いてみる。
「ギルドカードはどんなことに使えるのかしら。」
「まず、預金ができる。これがあるから、殆どの人が登録している。ほかの国にも点在するギルドで引き出せるから、現金で持ち歩かないで済む。さっき俺は現金で払ったが、ギルドカードを出せば、口座から払ってもらえる。」
「どういう仕組みなの?」
「魔道具だから詳しいことはわからないな。だがそれも大書庫に行けば資料があると思うぞ」
そんなことを話していると、順番が回ってくる。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「この子のギルドカードの登録を頼む。」
「ギルドカードの登録ですね。ではまず、お名前を教えてください。」
「アルヘナ・レシルスよ。」
事務的な会話はなんだか心地よい気がする。さらさらとする書くペンの音は、緊張感を表している。
「アルヘナ様ですね。次に連帯登録人となる方のお名前とギルドカードをご提示ください。」
「ルナリス・アルテミスだ。ギルドカードはこれだ。」
ルナリスは枠が金色のカードを見せた。なかなかにすごそうなカードだ。
「ルナリス様でしたか。いつもありがとうございます。それではアルヘナ様。こちらの水晶に手形をかざしてください。」
「わかりました。これで大丈夫ですか?」
そうやって手をかざすと藍と緑のグラデーションに、ちりばめられるように光が浮かんでいた。外側にカラフルな虹もあった。
「おぉ!三属性の適正がありますね。水属性に回復魔法、雷属性と、その他の魔法も鍛えればサテライト級程度は使えそうです。雷属性の適正なんて久しく見てないです!」
「サテライト級って何ですか?」
「すいません。ランクの説明が未だでしたね。ランクは六個あり、下からメテオラ、サテライト、プラント、アストラ、ルークィドゥス、スーパーノヴァとなります。」
「俺はアストラだな。」
「はい。そしてランクを上げるには、『ギルドスコア』をためる必要があります。」
「その『ギルドスコア』ってどうやれば貯まるのかしら?」
「クエストのクリアでクエストランクに応じた報酬と、それとは別に、魔物それぞれに割り当てられた討伐ポイントでためることができますよ。例えばゴブリンでしたら1pt貯まります。強さなどによってポイントの量が変わります。」
「なるほど。複数人で倒したりクエストをするときはどうするんですか?」
「パーティを組むことができます。パーティでポイントを割り振れますよ。」
「わかりました。」
「それでは説明は以上となります。こちらがアルヘナ様のギルドカードです。」
受付嬢は微笑み、カードを手渡してきた。
受け取ったカードは、紺色に木枠のカードだった。そこには私の名前、0ptの文字、ランクが記載されていた。
「…私のカード木枠なのね。ルナリスは金ぴかじゃない。」
「ははっ、俺は『アストラ』まで2万5000ポイント積み上げたからな。お前はその『メテオラ』から、まずは地道に500ポイント貯めて『サテライト』を目指せ。」
「500ポイントかあ。気が遠くなるわね。」
「目標を持つことは大切だぞ。どんなことにも、目標がなきゃやってられない。」
「ギルドカードの名前に間違いはありませんね?」
「ありません。」
「それでは、登録料の10万G頂戴いたします。」
ルナリスは財布から金貨を一枚取り出し、
「これは建て替えておこう。自分のギルドカードだ。返したほうが気分が良いと思うしな。」
カードを受け取った後、二人はギルドのロビーに戻る。
「私お腹がすいたわ。」
「そうだな。ギルドの喫茶店で何か食べるか。あそこの店はトマトライスの卵包みがうまいんだ。」
「なんだかオムライスみたいね。それにしようかしら。」
そんなことを話しながら、喫茶店に入る。ギルドの荘厳な雰囲気とは打って変わって、小さいながらにおしゃれな雰囲気をまとう店は、昼時だからかなかなかに席が埋まって、談笑する人たちの声があちこちから聞こえてきていた。
「すまん。二人だが、入れるか?」
「いらっしゃいませー。二名様ですねー。こちらの席へどうぞー。」
案内された席で、メニューを手に取る。
さっき聞いたオムライスみたいな料理やおいしそうなケーキもあった。
「トマトライスの卵包みでいいか?俺はトマトと腸詰めのスパゲティにするぞ。」
「それでお願いするわ。飲み物はこのコークってのをお願いするわ。」
「わかった。すまん。いいか?」
「はーい。ご注文はお決まりですか?」
「トマトライスの卵包みとトマトと腸詰めのスパゲティを一皿づつ、飲み物はコークとボトルキープのチェラズオーロ・ダブルッツォを頼む。」
「承知いたしましたー。」
ふわふわとした喫茶店の雰囲気に包まれ、飲み物と料理が運ばれてくる。
「トマトライスの卵包みとコーク、腸詰めのスパゲティとチェラズオーロ・ダブルッツォになりまーす。伝票失礼しますね。ごゆっくりどうぞー。」
運ばれてきたオムライスはとてもおいしそうだった。
ふわとろ卵に緑の小さい葉っぱが混ぜ込まれている。
スプーンを差し込むと、プルプルと震える卵の層が優しく弾け、中から湯気と共に鮮やかなトマトレッドのライスが顔を出した。
一粒一粒が完熟トマトのソースをたっぷりと纏い、艶やかに輝いている。具材の鶏肉や玉ねぎの甘みがソースの酸味と溶け合い、鼻をくすぐる香ばしい香りが食欲を強烈に突き動かす。
一口頬張れば、まずは卵の濃厚なコクとバターの香りが広がり、次にトマトライスの爽やかな風味が追いかけてくる。卵に混ぜ込まれたハーブ——細かく刻まれたパセリの清涼感が、重たくなりがちな味に絶妙なアクセントを加え、スプーンを動かす手を止めさせてくれない。
合間に流し込む漆黒の「コーク」は、ピリッとした刺激と冷たさで口の中をリセットし、次の一口をより鮮明な味わいへと変えてくれた。
懐かしい味のこれらをたべていると、故郷の母を思い出す。
「どうだ、おいしいか?」
手の中でワイングラスを転がしながら、ルナリスが聞いてくる。黙ってもくもくと食べてしまった。
「すっごくおいしいわ。このコークもスパイスが効いていておいしい。口の中がさっぱりするわ!」
ルナリスは微笑んだ。
***
俺たちは宿に戻り、少し魔法の訓練をすることにした。
「いいか。サンダの詠唱は『轟け』だ。やってみろ。水の生活魔法は魔力を圧縮しないが、攻撃魔法となると話は違う。魔力を一点に集中させ、狙った点と結べ。」
「わかったわ。『轟け』ライトニングボルト!」
その刹那、修練場を白い光が通り抜け、そのあとを音が追いかけていった。
「すごいじゃないか!初めてなのにこの威力とは!!」
「はぁ、はぁ、なんだか、つか、れたわ。」
「大丈夫か?この水飲むんだ。」
俺はとっさに無詠唱で氷のコップと水を出した。顔色が悪い。魔力酔いかもしれないな。まだ魔法に慣れていないから、無理は禁物だな。
「ありがとう。落ち着いたわ。」
少しベンチに座ると、顔色もよくなってきた。
「おそらく魔力酔いだろう。一度に魔力を使ったときや魔力枯渇の手前まで使ったときになる症状だ。無理は禁物。今日はここまでにして、少し早いが夕食を取ろう。先に戻って少し休んでおけ。」
「わかったわ。ふう。つかれたー」
アルヘナが行った後、ルナリスは少し感覚を取り戻すために魔法を使うことにした。
「すべてを凍らせろ!『永久凍土』」
修練場すべてが凍り付いた。少し威力が落ちたかな。やはり、この魔法は寒い。
「炎の壁よ!焼き尽くせ!『太陽の欠片』!」
氷が全部溶けたな。上出来だ。最後に、
「魔力よ、矢となれ!『マジックアロー』」
鋭い矢となった魔力の矢は、早いスピードで駆け抜けていく。
高威力かつ消費が少ないこの魔法は、いつもお世話になる相棒だ。
魔力の形を変えて打ち出すので、属性に対する耐性をものともしない。
とりあえずこんなもんかな。さて、部屋に行ってアルヘナを呼び、ご飯を食べに行こう。今日の夕飯は何かなあ。
***
少しベッドで休んでいるとルナリスが夕食に呼びに来た。
「アルヘナ、夕食に行くぞ。今日の夕飯は、ロールキャベツとブルスケッタだ。」
「ありがとう。おいしそうなメニューね。」
そんなことを話しながら階段を下り、食堂につく。
騒がしい食堂では、央都を拠点にする冒険者や、神殿への旅行者らしき人でいっぱいだ。
カウンターで、来た旨を伝え、席に着くとすぐに料理が届いた。
まずは、深いスープ皿に鎮座するロールキャベツにナイフを入れる。
驚くほど柔らかく煮込まれたキャベツは、抵抗なくスッと刃が通り、中から溢れんばかりの肉汁がスープに溶け出していく。
一口食べると、キャベツの優しい甘みが口いっぱいに広がり、その後に続く合挽き肉の旨味がガツンとやってくる。
スープはコンソメベースかなあ?透き通っているのに、野菜と肉の出汁がこれでもかと凝縮されていて、一滴も残したくないほど深い味わい。熱々のスープが、魔法の訓練で冷えていた体にじわーっと染み渡っていくのがわかる。
添えられたブルスケッタは、見た目も華やか。
軽く炙られたバゲットの上には、オリーブオイルで和えられた真っ赤なトマトと、爽やかな香りのバジル。
かじりつくと、「カリッ」と心地よい音が響き、ガーリックの香ばしさが鼻を抜ける。トマトの酸味が口の中をリフレッシュさせてくれるから、濃厚なロールキャベツとの相性も抜群だ。
最後の一口まで堪能した私は、皿に残ったロールキャベツのスープを、小さくちぎったバゲットにたっぷりと吸わせた。
野菜の甘みと肉の脂が溶け合った黄金色のスープは、パンに染み込むことでまた違った表情を見せる。噛みしめるたびにジュワッと溢れ出す旨味に、思わず頬が緩んでしまう。
修行で空っぽになっていた体に、温かな活力が満ちていく感覚。
「……ふう。ごちそうさまでした。本当においしかったわ。」
久しぶりにコンソメを味わった満足感で胸がいっぱいになり、自然と大きな吐息が漏れた。
ポテトチップスが食べたいなあ。
「満足したようで何よりだ。ここの宿の飯は、この界隈じゃ一番だからな。」
ルナリスはブルスケッタとワインを少しづつ楽しむように食べていた。
「アルヘナ。お前の魔法への適正はすごい。それはよくわかったと思う。しかし、今のところ魔力総量が少ない。だから毎日訓練を欠かすな。使えば使うほど増えていくはずだ。自信を持て。しかし傲慢にはなるなよ。」
そこまで言うと、ふっと表情が緩み、いつもの微笑みに戻る。
「ええ。私にはきっと才能がある。でも今は使いこなせない。だからこれからも頑張るわ。」
そうして長い一日を終えた二人は、明日の旅立ちに向け、部屋を片付け、早めに床に就いた。




