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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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16話 決着 ─Altered of Merkava─ 後編

 最初の銃撃と同じように、拳銃とは思えない大砲と見紛う爆発音が鳴り、両腕へと激しい衝撃が伝わってくる。

 だが、今度はさっきのように銃に振り回されて倒れるようなことはなく、小さく揺れたり皮膚が裂けるなどの裂傷が起きはするものの、そんなことは構わずにひたすら撃ち続けていく。


 ──いけるッ!


 やっていることとしては、力任せに握りしめるようにしてるのと、地面に衝撃が流れるようにした、ある種の合気のような立ち回りをしているぐらいである。

 聞きようによっては大層な技法のようにも思えそうだが、ただの度が過ぎた握力にものを言わせているだけの力任せと、躰の強度と再生能力で無理やり行っているというめちゃくちゃなゴリ押し。

 技術もへったくれもなければ、再現性なんぞこれっぽっちもない、技というのもおこがましいやり方。


 異常な火薬量と連射速度によって生じた熱は、肉を焼き焦がすだけの高温を銃に帯びさせていき、脳を焼き切らんばかりの刺激を発するマズルフラッシュによる閃光の嵐も、使い手を死に追いやるには十分すぎる危険度を持つ。

 それゆえに、この躰でなければ実践など到底できない究極の使い方とも言え、これによって大砲級の拳銃を二丁がかりで、ガトリングのようにぶち込んでいくという芸当を成している。

 時々両脇に交差するように挟めながらリロードを行い、我ながら執拗なほどに巨人の心臓をピンポイントに狙い撃ち続けていく。


「ガ、ゴァァァァッッ!」


 心臓を狙い撃ち続けたことで、徐々に巨人の胸の穴が大きくなっていき大きな風穴が開いていく。


 まだだッ……もっと、もっと撃ち続けてやる!


「フレェェンッ!」


 発砲音に負けないようにと声を張り上げ合図を送る。


『任せてッ!』

「……ッ!」


 すると頭の中にフレンの声が響き渡り、銃撃の振動や爆音があるにも関わらず、それを払拭するように空気が一変していくのを肌や感覚を通して伝わってきた──。


『力を見せよう、破壊の力を──』


 頭に響き渡るフレンの声は、どこか客観的で俯瞰的で、意識の奥底から木霊させるトランス状態を彷彿とさせる。


『天から拝領されし戦車(チャリオット)よ、表層の教義(ドグマ)たる者に応じここに顕われよ』


 おそらく紡がれていく言葉に意味自体はないのだろう、しかし、次々と紡がれていくのに比例するように、空気の震えと重圧が増していくのがひしひしと全身に感じていく。


『その号砲たる業火をもってして、我が玉座へと迫る眼前の愚者を破壊し尽くせ』


 フレンから紡がれていく言葉に込められた意志が伝わってくる──それは純然たる破壊の力への憧憬、それは自分という存在を外敵から防ぎ切るという、攻撃性と防衛性の両面を内包した矛盾しそうで矛盾しない意志。


『崇めよ、天の光──』


 巨人の側方、こちら側から向かい側に立つフレンが抱いていた鉄塊が、さながら繭のように光の中に包まれていき、まるであいつの意志に呼応するかのように、その姿をさらなる巨大な鉄塊へと〝変容〟させていくのが見えた──。


Altered(オルタード) of(オブ) Merkava(メルカバ)


 詠唱を終え、フレンが携えていた鉄塊の剣は影も形もなく、光の繭が割れて顕れたのは、威圧感のある車体と砲塔を備えた巨大な〝戦車〟だった。


「あ、あれは……」

『手を止めないで!』

「──ッ!」


 一瞬呆気に取られてトリガーを引く指を止めてしまったが、フレンの一喝で我に返り、再び撃ち続ける。


 あの形状、あれは確か──。

 記憶にある情報とフレンが唱えた名称を頼りに、あの戦車の名前を思い浮かべる。


 メルカバ──それは平たい台形の砲塔が目を引く形状をした、さる国での主力戦車の名称だ。

 なぜそんなものがフレンの目の前に顕れたのかは分からないが、俺の記憶にあるのとでは大きすぎる差異がその戦車にはある。


 でかい……そう、でかすぎるのだ。

 戦車の全高は大体3メートル前後、全長でも10メートル前後が大半を占める。

 走破性能や機動性を加味した上での設計理念により、大きさの規格というのは自ずと似通っていくものだ。


 だが、今目の前に顕れたそれは、そんな理念など知ったことではないかとばかりにいたずらに大きく、巨人に匹敵するほどの巨大な車体を持っている。

 何かの能力か、ただただ兵器をどこかからか呼び寄せただけなのか、どちらにしてもなるほど、確かにこれを使えば巨人を完全に倒すことも可能だと思えてしまう。

 堅牢で強固な防御力を誇る巨大な車体と、力の象徴と破壊の権化とでも言わんばかりに大きく主張する砲身は、一切の有無を言わせない圧力と説得力を否が応でも生み出させている。


『チャージ開始……』


 戦車に圧倒されていると、フレンの声が再び響く。

 この脳内に響き渡る声も、戦車を呼び出した際に生じた効果の一種なのだろう。


『10%……30%……』


 無線などを用いずとも行える遠隔での連絡方法、それによってフレンの口から続いていくのは、この戦いの雌雄を決するまでのカウントダウンを意味している。


『50%……70%……』


 砲身の中心へと光が収束していく──遠目からでも奔流が凝縮されていくのが伝わり、空気を震わせている。


『90%……』


 巨人が身をよじらせているのが見えるが、もう手遅れだ。

 両腕が切り落とされて、おまぇに俺がこうやって心臓を撃ち続けている以上、満足に再生だってできないはず。


『100%──!』


 だから決めちまえッ! フレン!


『発射ァッ!』


 刹那──空気が収縮し、一瞬あらゆる音も振動の何もかもが消え去り、完全なる無音の空間が作り出された、そして──。


『ヴォォォォォォッッッッ!』


 砲身から光の奔流が解き放たれ、巨人の躰を包み隠すように放射し続けていく。

 聞いたこともないような空気を振動させる衝撃音が響き、この辺り一体の空間を削り取るかのような勢のようだった。


『ゴ……ガ……ガ……ァ……ッ……』


 光が巨人の躰を突き抜け、膨大な光の奔流に耐えきれなくなっていく先から塩の柱となり、その巨体を徐々に崩壊させていく。

 下半身部の先から上へと伝い、心臓部へと到達していき、もはや自慢の再生能力は完全に追い付かなくなっている。


『ハアァァァァッッ!』


 最後の気合いを振り絞っていくフレンの声が響き、光の奔流がさらに勢いを増していく。


「ガ……ォ……ォ……ッ……」


 断末魔の唸りと共に光がゆっくりと収縮していき、後には何も巨人の姿が見えず消失していた。

 

「ふぅ……」


 警戒はまだ解かず、銃を構えたまま辺りを見渡す。

 かすかにでも動くもの、蠢くものがないかと意識を凝らして周囲に配る……。


「やった、のか……?」


 油断の一切は解いていない、しかし、今のところわずかな気配も感じられず、銃は構えたまま巨人が鎮座していた場所へと近づいていく。

 そこには焦げ跡……というよりかは溶解した床などの跡だけが残っており、巨人の一部や肉片のようなものも見当たらない。

 くっきりとした地面の形から、あの巨人は地下から出てきたものではないことが見て取れる。

 あいつはいったいなんだったのか、どうして執拗に俺たちを狙ってきていたのか……謎は多い。


「おーい」


 声のした方へと視線を向けると、ぱたぱたとこちらへと駆け寄ってきるフレンの姿が見えた。

 すでに戦車も鉄塊も見当たらず、元の状態に戻っているようだ。


「どう、僕の力は? すごかったでしょう」


 ふふんと胸を張って自信げな態度を取る様子に、微妙なうざさをかんじなくもない。


「ああ、すごかったよ」


 でも、ここは素直になろう、あの力がなければ勝てなかったのは事実だし、実際にすごかったにも本心だしな。


「キミのおかげだよ、ボクだけでは、あの力を発動し切れたかわからないからね」


 素直に褒めてすまったからか、かすかに照れたような様子を見せてくるフレンに、自然と苦笑が漏れてくる。


「ま、なんにしても」

「うん、なんにしても」


 こちらへと促すように、フレンが小さく手を上げていく。


「俺たちの──」

「ボクたちの──」


 その手目がけて振りかぶり──。


「勝ちだッ!」


 そのままハイタッチをかわし、小気味の良い音を鳴らしていく。

 さながら勝鬨(かちどき)を上げるように、俺とフレンは勝利の余韻をしっかりと噛み締めていた。

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