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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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プロローグ カラの目覚め

 ──暗い。

 何がどうなっている……なぜ何も見えない、まっくらな部屋にでも居るのか俺は?


 ──そもそも俺は目を開けているのか、それとも閉じているのか、起きているのか、寝ているのか、それすらもまったく分からない……。

 分からない──分からないぞ、なんで分からないんだ。


 いや──一つだけ分かることがある……。


「脳が……無い」


 人の思考や記憶を司り、おおよそ失えば死ぬであろう重要器官の一つ。

 その脳が、俺の頭の中に今はない。


 自分で自分に問い詰めたくなる、なんでそんなことが分かる?

 ──そんなことはどうでもいい。


 脳を、俺の脳を探さないと──。

 動かせる箇所、どこでもいい、とにかく(からだ)の動かせる箇所をがむしゃらにでもいいから、動かすんだ──!


「これは……」


 何かが触れた、おそらく手に触れたのだろう。

 柔らかいが弾力はあんまりない、そしてこのしわのような凹凸(おうとつ)の手触り、俺はこれを知っているぞ……。


 ──脳みそ──。


 ああ……探していた臓器、その輪郭(りんかく)が頭の中に像としても浮かぶ。

 まるで管が絡み合ったヘルメットのようなものが真ん中で分かれるように結合されており、その中心の下部からは細い線が束になったようなものが垂れ下がっている様相が浮かび上がった。


 そうか、延髄(えんずい)も含まれていたか、なら〝脳髄(のうずい)〟──それが俺の中から抜け落ちているものだったか。


 手放すわけにはいかない──そう意識したとき、俺は脳髄を鷲掴みにしながら頭に近づけた。

 すると、それが当たり前であったかのように、手にあった脳髄の感触が少しずつ消えていき、頭の中に文字通り吸い込まれていくのを感じる。


「んぅ……」


 異様な感覚──。

 自分の身に起きていることが、俯瞰(ふかん)的に伝達されて理解していく。


 空になっていた自分の頭に新たな脳が格納され、覚えのある重さが頭に戻り、脳髄から伸びていた神経が、ちょっとした配線を繋ぐような呆気なさで、視神経へと繋がっていくのが感じ取れた。

 痛みのようなものはなかったが、頭の中でまるで虫が這い回ったかのような感覚は、できれば二度と味わいたくない。


「…………」


 ──繋がった視神経によって、ゆっくりと視界が回復していくと、ぼやけた空間が映し出されていき、目は閉じていなかったのだと分かった。


「床、か」


 ようやく、自分が床に突っ伏している姿勢であることに気付き、這っていた姿勢から、体をゆっくりと立ち上がらせていく。

 辺りを見回すと、そこは白く無機質な壁で囲まれ、うっすらと青白く薄気味悪い照明が点滅した異質な部屋。


 足元には、つい先ほど自分が拾ったであろうものと同じと思われる、黒く変色した脳髄があり、他にも脊髄(せきずい)や心臓と思わしきものがいくつも散乱している。

 これらがどういった理由でここにあり、なにに使われるのかは、あまり考えたくない。


「ここは、どこだ……」


 見覚えのない場所、見知らぬ部屋、それだけではない──。


「俺は、誰だ……」


 自分の身に起きていることだけは、いやに理解できている……なのに、自分のこと自体はなにも思い出せない──。

 ただ分かっているのは、今の自分が人間ではない、なにか知らない、そういう異質な存在になっているということだけだった……。

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