第9話 ★
「う……ん……あれ、ここは……」
「おはよう、大丈夫?」
なんだ、ただの天国か。目を覚ますと俺は白髪の獣耳美少女に膝枕されていた。どうやら魔獣との戦闘の後、俺は疲れ果てて寝てしまっていたらしい。
「えぁ……っと、おはよう。まだ疲れはあるけれど、とりあえず大丈夫かな?」
戦闘中に感じた頭痛はいつの間にかすっかり消えていたが、魔獣と団子状になって転がった際にぶつかった場所が痛む。だが動く分には全然支障はない。
「俺は……どれくらい寝ていましたか?」
俺は頭に感じる少女の膝の柔らかさと体温、少女特有の臭いによって動揺する気持ちを抑えつつ、寝ていた時間を質問してみる。
「ん……よかった。わたしのお腹の時計によると……だいたい二時間ぐらいかな?」
「お腹の時計……ですか? でもそうか、二時間か……よかった。なら街の門が閉まるまでには戻れそうだ……」
朝の六時から夕方の六時まで十二時間開門している。というのも、夜は魔物達が活発に動くため街の防衛上どうしても閉めなくてはいけない。
ここでふと膝枕をしてもらったまま話を続けていたことに気づく。
「膝枕ありがとう、もう大丈夫。それと庇ってくれたことについても改めてありがとう」
非常に名残惜しい気持ちを堪えつつ、俺はそう言いながら膝枕をしてもらっている体勢を起こし、そのまま立ち上がる。それに合わせて少女も立ち上がった。
「ううん、わたしこそ庇った後にすぐに中級ポーションを使ってくれてありがとう。おかげで傷が残らなくて済みそうだし完全に回復できた。ほら」
そう言う少女の状態を確認すると、確かに傷のあった部分はすっかり塞がっており、破けてる服の部分から少女の健康的そうな白い肌が見えた。
「あー……確かに回復できたみたいでよかった。とりあえず服が破れているから俺のマントを羽織って」
「ん……ありがとう。確かに肌を晒したまま話していたこと知られたらお母様に怒られちゃう」
そう言いながら彼女は俺のマントを受け取り羽織った。マントで彼女の上半身が隠れたことで人心地付いた。あのままだと少女の肌が気になりすぎて、まともに会話ができないところだった。
まぁ何はともようやくこれで彼女と落ち着いて自己紹介ができる。まず自分から素性を明かすべく俺は口を開いた。
「俺はサネディ出身の赤羽テイトって言います。みんなからはそのままテイトって呼ばれることが多いかな」
「わたしは……リビア。出身は……イスラン獣王国。わたしもそのまんまだけどリビアって呼ばれるから、テイトもそう呼んでほしい」
やはり……というべきか、白昼夢の中で俺が呼んでいた少女の名前と同じであった。
「了解、よろしくリビアさん。ところで出身はイスラン獣王国とのことだけれど、ヒノモトに来てからは長いんですか?」
「その……実は家に居づらくてつい最近、大体一か月前にこの国にやって来た」
ヒノモトというのは俺の出身地の国の名前だ。
ヒノモトは周りの海に囲まれている島国で、世界にある大陸と比べると土地面積に対する魔物と魔獣の発生数は少なく、またそれらが他大陸と比べて弱い傾向がある。
他にもダンジョンが多いことが特徴で、ヒノモトは魔物と魔獣から得られる素材が少ない代わりに、ダンジョンから得られる産物を元に国が成り立っている。
一方イスラン獣王国は、ヒノモトの西側にあるこの星で一番大きな大陸の北側にある獣人が主体となっている実力主義の国だ。
イスラン獣王国がある大陸や他の大陸はヒノモトとは真逆で、土地面積に対する魔物と魔獣の発生数は多く、また魔物がヒノモトと比較すると強い。
「そう……なんですね。この後の行先は決まっていますか? 大丈夫なら私の町に一緒に来ていただいて、腰を落ち着けて話をしたいんですが……」
家の事情を聞くには、流石にまだ会ったばかりという事もあり憚られた。
先ほどの魔獣との戦いの直前の言葉の意味をすぐに聞きたいところだが、ひとまずお互いの名前についてわかったしこの洞窟にずっといるのも嫌なので、サネディに移動することを提案する。
「ん……特に決まってないからテイトについていく」
「ありがとうございます、じゃあ早速移動しましょうか」
「あ、まって。せっかく倒したんだから魔獣の素材を取っておいた方がいいんじゃない? このまま放置しても魔物に食べられたりするだけだと思うから」
「確かにそうですね、少し待ってもらえますか」
「ん……もちろん。わたしにも手伝えることあったら手伝う」
彼女の言葉に甘えて魔獣の牙、爪、毛皮、魔獣石など主要な素材を剥ぎ取り、魔獣ウィンドウルフの討伐証明の耳を入れていた素材回収袋に詰める作業を手伝ってもらった。
また魔獣を討伐する際に首を切り落とした事から血抜きができていた為、肉も素材回収用の袋とは別に回収しておく。
「まさか……魔獣の肉を……食べるの?」
「そうですね。魔獣の肉は俺は食べたことなかったけど、討伐した人は売ったり自分で食べたりすることが多いって聞いた事ありますね。イスラン獣王国では食べる習慣はないんですか?」
「他の人の所は分からないけど……わたしの家では食べなかったよ」
「そうなんですね。俺は魔獣の肉食べてみたかったので、街の店で料理してもらって食べながら色々話しましょうか」
「ん……正直ちょっと抵抗感があるけど……食べてみる」
そして一通り素材回収を終えた俺達は洞窟の入り口まで歩いた。
「良かった、雨止んでるな。でも携帯も使えないしこの洞窟が街からどの方角にあるかわからないんだよな……」
そう言って俺は携帯を取り出してみるが、やはり魔獣から逃げている時同様圏外だった。
「わたし獣人だから木登り得意。前の方に見える大きな木に登って、周りの景色見てみようか?」
「本当ですか? よろしくお願いします」
「ん……わかった。任せて」
「すごい……スルスル上っていくな……」
リビアがあっという間に木の頂上まで到達し周りを見渡す。そして一点の方向を見つめた後何かを見つけたのか、木の上にいる状態でどや顔をしながら両腕で丸を表した。え、なにこの子かわいい。
リビアは木から降りるとこちらに向かって小走りで駆けてきた。
「街が見えたよ。ここから西の方に向かえば大丈夫」
「ありがとう。じゃあ早速移動しましょうか」
「ん……こっちだよ」
そういって彼女は俺の手を引き森の中を歩きだした。
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洞窟を出てから二時間後、俺はようやく夕焼け空を背景にした見慣れた街の城壁が見えてきた。今朝挨拶をした衛兵がまたいたため声をかける。
「マモルさん、お疲れ様です。今日は何か事件とか起きなかったですか?」
「おう、テイトじゃないか、今日は帰りが遅かったな。閉門ぎりぎりだぞ。もしかして討伐クエストだったか?」
「そうですね。今日はちょっと色々あったので早く帰って休みたいです。なので早速ですが街の中に入れてほしいのですが……。クエスト中に出会った彼女を町に入れて大丈夫ですか?」
「獣人の女の子か、またえらい可愛い子だな。……分かっていると思うが、よそ者を街に入れた場合は――」
マモルさんがリビアの方を見るが、リビアは俺の後ろに隠れていた。ちなみにマモルと話し始めた時からずっとこんな感じだ。
マモルさんは坊主で強面の顔をしているので怖がっているのかもしれない。
「わかってますよ。その人が街を出るまで招き入れた人が責任を持たなければならない、ですよね?」
「わかってるならいいんだ。まぁお前が大丈夫そうだと判断したのなら、何も問題ないだろう。ほら、とっととギルドに報告行って休め休め」
「ありがとうございます。それじゃあ」
マモルと別れた後、俺はふとある事に気が付いた。
「そういえば、リビアずっと黙ってたけど……やっぱり疲れてるよね?」
街につくまでの少しの間に他愛ない話をした結果、お互いに気楽に話すことになっていた。結果俺はリビアの事を呼び捨てするようになっている。
「ん……それもちょっと理由ではあるんだけど……ねぇ、テイト」
「ん?」
「テイトはわたしの事……本当に信用してくれてる?」
「……どうしたの、急に」
「さっきマモルがわたしが何か問題を起こしたらテイトのせいだって……。だからもし本当に信用してないんなら今からでも街を出ていこうかなって……」
「リビア、確かに俺は君と出会ったばかりだ。だけど君は自分の身も顧みず俺を庇ってくれた。信用するには十分な理由だと思うけど……」
「……」
彼女はこれだけでは信用してる事に納得していないようだ。
俺は答えるか少し悩んだが、正直な本心を彼女に伝える。
「……これは信じてくれなくていいけど、俺は八年間ずっと、君に瓜二つの女の子が出てくる夢を毎日見てきた。夢が理由か分からないけど……俺は君と何十年も、いや下手すると何百年も一緒に過ごしたような感覚があるんだ」
「夢……」
「だからか俺は君が何も問題を起こさないと何故か心から信じることができる。……そんな理由じゃやっぱり……ダメかな?」
「そっか……テイトも夢を……」
彼女は小声で何かを呟くと俯いて、何か考える素振りを見せた。そして少ししてからリビアは顔を上げた。
「ん……わかった。わたしも……後で詳しく話すけど夢でテイトに似た人と会っていた。だから……信じてくれてるってことを信じる」
そう言って彼女は小さくはにかんだのだった。
※ノベルAIにて作成した挿絵です。
※AIイラストの為毎回キャラの雰囲気は変わる可能性が有ります。
明日も22時頃に投稿予定です!
基本手動での投稿の為多少前後すると思います。
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