第30話 君の銘(な)は――★(挿絵有り)
スケルトンは完全に立ち上がった後、そのままその場でピクリとも動かなくなった。
スケルトンを確認すると装備していた剣と楯どちらも装飾が豪華になっていて、楯の大きさが一回り大きくなっている。
「えっ、魔獣……? ダンジョンではボス以外エンカウントする事ないはずじゃ……」
レインが驚くのも無理はない。本来であれば湧き部屋は存在する魔素を、全て同一種類の魔物生成に消費するため、魔獣が発生する事はあり得なかった。
確かにダンジョンでも魔獣と戦わなければならない場面はある。それはレインの言う通りダンジョン最下層のボスだ。
一番深いところにある為かどのダンジョンでも必ず、最下層は魔獣がボスとして待ち構えているのが常識。
「理屈は分からないけど……俺達二人しか居ないから今は撤退するべきだと思う」
「……だね。アイツ固まってるし今のうちに逃げてギルドに報告しよ!」
「よし、じゃあ……は?」
「……テイトさん? 一体どうし――」
俺の視線を辿ったレインは言葉を失ったが無理は無い。何故ならスケルトンが三体に増えていたからだ。
増えた二体は一番初めに現れたのと同じ姿形をしている。
「レインさん、アイツの固有魔法は恐らく『増殖』だ。一刻も早く撤退しよう」
「う、うん」
スケルトンは魔獣となった際、どんな固有魔法を持つか見た目では分からない種族の中の一つだ。
それに加えて発現する固有魔法も多様だが、特に危険とされている魔法が幾つかあり、その中に『増殖』が含まれている。
魔法の効果はその名の通り、魔獣と同じ身体能力と装備を持ったスケルトンが産み出される。
産み出せる上限も個体によって変わってくるため、それによってスケルトンの魔獣のランクも変わると記録にあった。
増殖した個体は固有魔法を使用する事は出来ないのが唯一の欠点だが、過去『増殖』を持ったスケルトンが一国を滅ぼした記録も残っている。
実力的に可能であるなら増殖しきっていない今叩くべきだが、目の前の個体の増殖上限数が不明な事と俺の実力的に討伐できるか不明な為、撤退して応援を呼ぶのが正解だろう。
そう判断して再度撤退しようとしたが――。
「クソッ、遅かったか……!!」
いつの間にか更に増殖していたスケルトン五体に出入口を塞がれていた。
「どうしようテイトさん!?」
「出入口に居るスケルトンを速攻で片づけるしかない!! 俺がまた前衛を担当するからまた炎で援護頼む!!」
「わかった、任せて!」
俺はスケルトン相手に駆けた速度を載せた剣戟を増殖体にぶつける。
「はぁあああっ!!」
――キィイイイ……ンッ!!
「くっ……重い!! だけどっ!!」
俺は増殖体一体の楯を弾くことに成功し、その勢いのまま魔石を貫くことに成功する。
「テイトさん!!」
「頼んだ!」
俺はレインから名前を呼ばれたタイミングで増殖体を飛び越え、残りのスケルトン達をレインと挟み込む形にする。
「燃えちゃえー!!」
直後レインからの炎撃があり、スケルトンは炎を防ぐため楯を構えた。
「後ろはがら空きってね!!」
俺は炎を防ぐのに夢中になっているスケルトンを、背後から魔石を貫いて追加で三体屠ることに成功。
「後はお前だけっ!」
「きゃっ!!」
「レインさん!?」
炎が止んだので最後の個体と正面から戦おうとした時、レインが悲鳴を上げたのでそちらを確認する。
見ると彼女の元に増殖個体が一体迫っており、更に数体近づいて来ているのが見える。
「今行く!!」
俺は残り一体となっていた目の前のスケルトンへの攻撃をキャンセル、レインの方へと全力で駆け彼女へ到達しそうになっていた剣を防いだ。
「レイン、無事っ!?」
「うん! ありがとう! でもテイトさん……」
「……わかってる」
剣を受け止めながらチラリと彼女を確認すると、確かに傷はないようでよかった……。
だけど状況は非常に不味くなってしまった。
出入口は先ほどよりも更に数が増えた増殖個体に守りを固められ、俺とレインも若干囲まれつつある……。
「こうなったら速攻で魔獣本体を倒すしかない」
「だけど……どうやって本体倒すの?」
「それは……」
『マスター、任せて下さい。マスターの目を一時的に元の性能へ引き上げます』
例の声が聞こえた後、俺の視界に何かオーラの様な物が見えるようになった。
「これは……」
『以前ウィンドウルフと戦った際に無意識に少しの間使用していた視界です。魔素・魔力の可視化が可能となります』
俺はその目でスケルトン達を見ると、一体だけ明らかにオーラを纏っている個体が居た。
「アイツか!!」
『はい、あの個体です。ただこの状態は今のマスターにはまだ負担が大きいため、現在のマスターだと十分程度がタイムリミットだと思ってください』
「テイトさん……? また誰かと話してる……?」
「後で説明するよ。それより今から十分だけ魔獣の判断が出来るから俺に合せてほしい!!」
「えっ、えっ……?」
「時間がない、いくよっ!!」
「もう、後で絶対教えてよね!」
そう言って俺はまず周りの邪魔な増殖個体を掃除しに掛かかった。
「はぁ……はぁ……」
腕時計をちらと確認すると七分が経過するところだったが、俺達はボスに辿り着けないで居た。
原因は分かっている。
俺は身体強化を使えるため機動力はあるが、周りの増殖個体を速攻で屠る火力がないからだ。
現状はギリギリ増殖と討伐速度がほぼ同じくらいになっていて、戦闘開始してから状況としては何も変わっていなかった。
『マスター、そろそろ限界です。カップラーメンを作れるくらいの時間しか残されていません。もったいないですよ』
「お前他人事だと思って余裕だな!?」
「余裕なんてないよー!?」
「ごめん、レインに言った訳じゃないんだ」
『ふぁいとです、マスター』
レインの言う通り余裕なんて微塵もなく、俺達は常に戦い続けなければあっという間に増殖個体に呑まれるだろう。
「くそっ俺にもっと火力があれば……」
「……テイトさん、火力があればいいんだね?」
「何か手があるの?」
「二つ……いや、一つだけ手があるよ。だけど少し時間が欲しいんだ」
「わかった、俺が身体強化を限界以上に使って時間を稼ぐから――」
「待って! テイトさんの協力も必要なの!! だから難しいのは分かってるけど何とかならないっ!?」
「俺の協力……?」
何か作戦がありその説明に時間が必要という事だろうか。とにかく時間を稼ぐだけなら方法はある。
「なら以前やったみたい油をばら撒くから着火して欲しい! それと着火前についでに残りの煙幕全てスケルトン側に投げ込む!」
「わかった!」
そう言って俺はストレージリングから煙幕を取りだし、スケルトン達に向けて投擲する。
その後再度ストレージリングを起動、油を取り出し俺達を囲むように周りにぶちまけた。
「いっくよー!!」
――ゴォオオオ!!
俺が油を撒いた瞬間、レインが炎を放出し着火すると炎の壁が出来上がった。
どの程度時間が必要か不明だったので、ありったけの油を撒いたからとんでもない勢いで燃えていた。
「ふぅ……これで少しは落ち着ける……かな?」
「そうだな……それでレイン、どうする?」
「えっとね……時間が無いし単刀直入に言うけど……。テイトさん、レインと契約して欲しい」
「……それはブレイダーの?」
「そうだよ。テイトさんがレインをブレイダーとしてじゃなく、一人の人として見てくれたから貴方になら……ううん、貴方と契約したいって思ってはいたんだ」
「そう……なのか」
「ほんとはね、レインが自分の炎をコントロールできるようになってから契約を提案したかった。だけどこんな状況になっちゃったし、何より今は火力が欲しいんでしょ?」
確かに俺の機動力にレインのブレイダーとしての火力が合わされば、この場を簡単に乗り切ることが可能だろう。
「わかった、レインの提案を受けよう」
俺がそう言うとレインはぱっと顔を輝かせた後、すぐに顔を曇らせた。
「よかった~! あ……でもね、もしかしたらレインと契約する時、テイトさんの手が焼けて使い物にならなくなる可能性もあるんだ。それでも……いいかな?」
「どちらにしろこの状況を何とかできないなら詰みなんだ。手が焼けるくらい誤差だよ誤差」
「あはっ! それもそうだね! 契約出来ても出来なくても、死ぬ時は一緒だね?」
「……」
そう言う彼女はどこか怪しい笑みを浮かべていた。なんだろう、この嫌な予感は。もしかして契約しない方がいいんじゃないか。
『マスター、もう時間がありません』
その時例の声が聞こえたので時計を確認すると、残り一分足らずで視界が通常に戻ってしまうようだった。
「それで契約するにはどうすればいい?」
「レインの願いを言うから、その願いを叶えるのに力を貸すことを宣誓してっ!」
「わかった。なら君の願いを教えてほしい」
レインは一瞬黙った後、己の願いを口にした。
「……私の願いは『レインと一緒にお母さんの仇を取る事』、『お父さんを取り戻す事』、『今まで通りレインを武器じゃなく人間として大切にする事』!」
「あぁ、了解した! だからっ、君の力を俺に貸してくれ!」
「勿論! これからレインの力はテイトの力! だからテイトっ! 私の銘を呼んで!」
彼女がそう言うと、レインのブレイダーとしての名前が頭の中に思い浮かぶ。
「あぁ――レーヴァテイン!!」
そして――俺は炎に包まれた。




