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瑞季が同じ階ということには驚かされたが、考えてみれば同じ階の先輩が案内してくれているということで納得できた。
夕食は食堂で18時から21時まで食べられると聞き、それまでは手持ちの荷物整理と、従者としての事務作業の環境づくりを行うことにした。
「しかし、まあ、なんというか……。恐ろしいくらい何も持ってないんだよね」
学園から支給されているのは寝具1式と机、あとは洗濯機や冷蔵庫などの家電があるのみ。当たり前だが衣服やPCなどというものはない。
着のみ着のまま学園に来た翼にとって、特に衣服は重要だ。外へ出るにも服は必要だし、制服での外出は禁止されている。もちろん、持っている仕事着は男性物のため学園内で着ることはできない。実際には、できないこともないが余計な目立ち方になるかもしれない。
「買い出しに行こうにも、服がないんじゃどうしようもないし……。朔耶ちゃんに買ってきてもらうしかないか」
年に1度採寸されるため、本社に問い合わせればすぐにサイズは分かる。自身の服のサイズを見るという手もあるが、メンズとレディースでは同じMサイズでも大きさは全く違う。
「あ、そういえば、バイクウェアならバレないじゃん」
思い出して鞄を漁ると出てくるのは、今日ここに来るまでに来てきたバイクウェア。カジュアルなデザインでプロテクターは別で付けられるものなので、学園内で着ていても違和感はない。バイクウェアは女性用の物でも格好いいデザインが多いため、恐らく不審にも見えない。
いつかは外出用の服装も必要になるかもしれないが、買い出しに行く程度であればバイクウェアで十分だろう。
問題があるとすれば、バイクが手元にないことと、外出に許可が必要か知らないことの2つ。
バイクは学園内に入った際に朔耶が回収していったため、行方がわからないが、外出については瑞季に聞けば教えてくれるだろう。ついでに買い出しに都合のいい場所も聞いてみると良いかもしれない。
「挨拶の品も必要だし、早いに越したことはないよね」
買い出しは学園が休みの日に行けば十分と思っていたが、バイクさえあれば今からでも行くことはできる。夕食の終了時間にもまだ余裕はある。
自室で休んでいるであろう瑞季を頼るというのは少し憚られたが、どちらにせよいずれは彼女個人の時間を貰わなければならない。
制服のまま部屋を出て瑞季の部屋へ向かう。部屋の中にいるであろう瑞季の気配を確認して戸を叩く。
「佐倉翼です。瑞季様、少しお時間頂けますか」
努めて丁寧な口調で声を掛ける。これから長い期間を共にする間柄である以上、不快感を与えることは避けておきたい。良好な人間関係は互いの尊重によって成り立つものだと考えている翼にとって、先輩である瑞季に対して高い敬意を示すことは当然だった。
「あら、翼ちゃん。ごめんなさい。今ちょっと手が離せなくって。鍵は開いているから入ってくれますか」
「あ……え、っと。もしかして着替え中とかでしたか」
扉の奥から聞こえてくる声は吐息が混じったようなもので体に負担のある体勢をしていることが想像できる。
学園から帰ってきてすぐの時間ということもあり、着替えているというのは容易に予想できた。
「いえ違いますが……。その、もしお急ぎでなければお手伝いいただけませんか」
「はい、それでは失礼しますね」
予想外の返答に困惑しつつ、扉を開ける。瑞季はこちらに背を向けたまま、何やら棚の上に手を伸ばしている。こちらに視線が向いていないことを理由に瑞季の部屋を眺めてみる。いずれは誰かの訪問を受けるかもしれない。女性らしい部屋に関する知識は持っていない翼にとっては意図せず勉強の機会に恵まれたことになった。
「このままの状態でごめんなさい、翼ちゃん。何か用事があって来てくれたのでしょうけれど。お時間、本当に大丈夫でしたか」
「……は、はい、大丈夫、です」
翼の返答を特に気にすることなく、背を向けまま作業を続けている。背中がざっくりと開いたネグリジェ姿は理性的な従者である翼にとっても刺激が強い。寝る際までこの装いのままということはないだろうが、17歳の少女が誰に見せる訳でもない筈の場でこのような格好をしているというのは何とも言葉にし難い感情であった。砕けた風に言うのであれば、男の夢叶う。というものだろう。
「瑞季様、手伝いというのは何をすればよろしいでしょうか」
不要な邪念を振り払い、凛とした声で背を向ける瑞季に声を掛ける。
翼の視線には気が付いていないらしく、翼は出来る限り紳士的に――現在の姿を見れば明らかに少女であるが――無粋な視線を避けることにした。
「そうでした。ごめんなさい、翼ちゃん。ちょっとあなたの体をお借りしたくて」
「か、体ですか……」
振り返った瑞季に体と言われて少し身を震わせる。背中はざっくりと開き、正面から見れば谷間が強調されている。そういった誘惑に対する訓練を受けて理性的になっているでも、その姿と言葉に一瞬とはいえ確かな動揺を与えた。




