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能力封じ

「いや、違うと思う。彼に怪しいところはなかった」


俺は思わず呟いていた。アランとは出会って一日も経っていないが、俺は彼を好いていた。何より、新任衛兵から容疑者が二人も出るなんて考えられなかったのである。


「そもそもアラン・リッチーは、暗殺計画に直接関与しない予定だった。そう考えればすべて辻褄が合う。君を連れてジェイソンに話しかけたのも、自身の潔白を証明するための布石だった。君と共に証言者となり、暗殺への関与を疑わせない為の。しかし壇上で君が妙な動きを見せた。そして君はジェイソンを殴り倒した。アランはそれを見て、証拠隠滅の為短刀をどこかへ転送したのだろう。空間転移の能力を使って。証拠が出なければ、君を妄言に取りつかれた狂人に仕立て上げることもできるだろうしな」


ホールデンの話を推測を聞いて、俺は再びあの光景を思い出した。俺の手に握られた短刀。そうだ。あの短刀には、血糊が一切付着していなかったのだ。となればその奥に横たわる王太子妃は、短刀により殺害されたわけではなかったということになる。アランが空間転移の能力で彼女を殺したのか……。


「しかしそれなら最初から、アランが王太子妃を狙えば良かったのでは?」


「彼を使い捨てたくなかったのだろう。能力を使って暗殺を行えば、検死で必ずバレる。諜報局は全ての軍人の能力を把握しているからな。彼の能力は隠密に適していた。王室衛兵としてしばらく潜入させたかったのだろう。対してジェイソンの能力は回復系、スパイとして優秀な能力ではない。ジェイソンは捨て駒だったと考えれば理屈は通る」


使い捨て? 捨て駒? まるで裏で何らかの組織が動いているような言い様じゃないか。しかしあれこれ疑問を抱いている場合じゃない。今はアランの容疑について考えるのが先決だ。


「でもアランが共犯者だったとして、あなたの言うように暗殺を中止し、証拠隠滅を図ったとして、あなたを殺すメリットがないではありませんか」


そう、先ほど上書きで見た光景だ。ホールデンはこの取調室で机に突っ伏して死んでいた。あれがアランの仕業なら、一体何のために……。


「その点については、私は何も分からんのでな。君が何も語らないから」


「それは……。俺も、分からないんです」


「まあ、私が殺されるという情報だけでも結構だ。サムと私がいて、直接私を殺すことは不可能だからな。私が殺されるとすれば、遠隔での暗殺、それしか考えられない。アランの容疑を確信するに足る情報だよ」


その時、俺の後方で扉が開く音がした。俺が戦慄して振り返ると、先ほど部屋を出ていったサムが立っていた。まさか襲撃かと慄いていた俺は、ほっと胸を撫でおろした。


「室長、現在局内は厳戒態勢に入っております。ジェイソンの身柄は別棟に移送中です」


「ありがとうサム。戻って早々すまないが、共犯者が判明した。第四取調室へ向かう」


「今ですか? 私の能力の効果は間もなく切れますが……」


「問題ない。容疑者が割れている以上、私がやればいい」


能力だと? このサムという局員が何か能力を行使しているのか?この部屋では特段変化を感じられなかったのだが。


「ニック、君も来るんだ」


そう言ってホールデンは俺の手錠を外しにかかった。


「室長! 何を!」


サムが驚いて声を上げる。俺も同じく動揺した。ホールデンはなぜ、ここまで俺を信用してくれるのか。彼の行動原理が全く読み取れないのである。


「サム、君には言ってなかったが、これ能力封じではない、ただの手錠だ。彼には直接かけておいた」


「なぜ、そんなことを……」


「万が一の為にだ。このニックという青年、なかなか面白いモノを持っているぞ」


能力封じ? 直接かける? やはりこの男、俺が能力持ちであることに勘付いていたのか?

俺の頭は混乱していた。先ほどからこの二人は、何やら意味深な会話を繰り広げている。その断片しかとらえられないのがもどかしい。


手錠を外された俺は二人に続いて部屋を出た。そして、目の前に現れた光景に驚愕した。


恐らく廊下を歩いていたであろう諜報局員、そして王室衛兵たちが、みな固まっているのである。まるで時間が停止しているかのように見えるが、あの俺が経験した契約時とは状況が異なるようだ。機械音や時計の秒針が進む音、その他日常生活で聞こえ得るあらゆる雑音はそのままに、人の動きだけが停止しているのだ。


「驚いたか、これがサムの能力だ。一定範囲の生物の動きを、一定時間止めることができる」


「ちょうど、切れますがね」


サムの言葉と共に、固まっていた人々が一斉に動き出す。俺たちの周りで停止していた局員らは、突然現れた俺たち三人の姿に驚いていた。だがそんな周囲の反応をよそに、ホールデンは一直線に廊下を突き抜けてゆく。


そうか。だから襲撃の話を聞いても、あんなに余裕な態度が取れていたのか。改めて諜報局の恐ろしさを実感したような気がする。人の動きを止めるなんて、何でもありじゃないか。


第四取調室。そう書かれた扉を、ホールデンは何の躊躇いもなく開けた。そこには取調官と、アランの姿が見て取れる。俺たちに気付いたアランは瞬時に立ち上がり、眉間に皺を寄せた。


「アラン・リッチー、君に大逆罪の容疑が掛かっている。身柄を拘束させてもらおう」


アランの向かいに座っていた局員が、即座にアランへ飛びついた。続けてサムも飛び掛かり、アランの身体は床に圧し潰される格好となる。


「クソッ! どうなってんだ!」


もがくアランの両手首に手錠が掛けられた。彼は相変わらず、二人の制止を振り切ろうと全力で暴れている。


「驚いたろう、私に能力は効かないよ。それに手錠をはめられたら終わりだ。その手錠にも能力封じの効果が付与されているからね」


ホールデンはそうアランに告げると、二人に連れて行けとジェスチャーした。アランは両脇から抱えられるようにして、取調室から退場したのであった。

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