第129話 検閲官
第599任務部隊は、強い光に包まれる。
それは爆発による発光であることは誰しもが理解した。
しかし、衝撃が来ない。
「……うん?」
フクオカは、あたりを見渡してみる。
するとそこには、暗闇のみが広がっていた。上下左右前後、重力も存在しない空間だ。
自分の姿以外、何も見えない。
「何、これ?」
『やぁ、ようやく目覚めたかい?』
どこからともなく声がする。
周囲を見渡してみるものの、声の主は見当たらない。
『僕はここだ』
すると、フクオカの後ろから光が照らされる。
振り返ってみると、そこには少しばかり古い軍服を着た青年がいた。
「あなたは誰?ここはどこ?」
『僕は君たちの言うマルチバース宇宙を管理する者。簡単に言えば検閲官だね』
「検閲官?」
『知らないかい?君たちは宇宙検閲官仮説として取り上げてもらっているんだけどな』
そういって検閲官は、フクオカの近くに行く。
『君たちは存在してはいけないはずの138番目の原子を生成し、疑似的に宇宙を創造した。この時点で相当危ないけれど、それをブラックホール爆弾の強烈なエネルギーとトンネル効果にぶつけた。結果、円環状の裸の特異点が生成されてしまい、無事に僕が出てきたってわけさ』
「じゃあ、あの作戦は成功したってことなの?」
『君たちの作戦は宇宙を崩壊させない事。その点で言えば、成功と言えるね』
「そっか……、良かった……」
『……自分のことは心配しないのかい?』
「あの状況なら助かってないと思いますし、アタシたちの犠牲でその他大勢の人間が救えたのなら、一番です」
『ふぅん、なかなか出来た人間だね。同僚とか上司とか、他の人はどうなったのか聞かないのかい?』
「そういえば、どうしてアタシが検閲官と話しているんだろう……?」
『ま、仕組みは簡単さ。僕が裸の特異点に存在する全ての生命体と対話しているんだ。こうして君と話している間にも、他の生命体と並行して存在しているんだ』
「つまり、今、同時に数万人もの人間と話をしているってこと?」
『そうとも言えるね』
そういって検閲官は襟をただす。
『今回の作戦で、裸の特異点が露出し、そしてそこにブラックホール爆弾のエネルギーが集中した。結果、技術者や物理学者たちの言う通り、高次元隔壁通路が生成された』
「それで、結局どうなるの?」
『彼らは少し計算を間違えた。本来なら、高次元隔壁通路が形成されると、逆に高次元からエネルギーが君たちの宇宙に流れ込んで、そのまま空間ごと引き裂いて終了。宇宙を構成していたひもは解かれ、泡のごとく弾ける状態だ』
「……それってつまり、アタシたちのしてきたことは無駄だったってこと?」
『簡単に言えばそうなるね』
フクオカは言葉に詰まった。
しかし、検閲官は言葉を続ける。
『でも、これだけの技術力を有することもなかなか珍しい。君たちなら、僕たちのいる次元まで上がってこれるかもしれないね。だから今回は特別に助けてあげようと思う』
「助ける……?」
『今回生成した裸の特異点、それとブラックホール爆弾が放ったエネルギー。それを僕が回収していくよ。これはこれで利用価値があるからね』
そういって検閲官は右手を前に持ってきて、何かをフクオカに見せる。
そこには、円環状に渦巻いた黒い何かがあった。
「これって、特異点?」
『正確には少し違うかな。君たちの知覚器官ではそう見えるだけだよ』
検閲官はそれをそっと握ると、フクオカから離れていく。
『今回の出来事は一つの忠告としておくよ。もしこれ以上の問題を犯したのなら、今度こそ君たちの宇宙は崩壊する』
検閲官は帽子を深くかぶり、光の中に消えていく。
そして光は強くなり、何も見えなくなる。
フクオカが次に目を覚ましたのは、第599任務部隊の旗艦、作戦室であった。
「さっきのは……」
「う、頭イテェ……」
フクオカの同僚、上司も起き上がる。
「宇宙検閲官が登場するなんて聞いてないぞ……」
「やっぱり?アリサも検閲官のこと見た?」
「うん、よく分かんなかったけど、なんかすごかった……」
一方、指揮官ら上層部も同じような状態に陥る。
「宇宙検閲官のことは後でいい。今は周囲の状況を確認せよ」
「レーダー不調。妨害電波のような状態です」
「光学で周囲を確認していますが、ブラックホール爆弾が跡形もありません」
「友軍からの通信です。円環加速装置も消失したとのことです」
「一体何が起こったんだ?」
その時、艦橋にいた一人が気が付く。
「もしかして、宇宙検閲官の彼がブラックホール爆弾と円環加速装置、それによって生じた現象を全て持ち去ったのでは?」
「確かに……。あの口ぶりだと、そう捉えることも出来ますね」
「……とにかく、真空崩壊を免れることが出来たことだけは喜ばしいだろう」
そういって指揮官が締めくくる。
「レーダー復旧。亡命国家艦隊健在。しかし白旗を上げているようです」
「そうか、ならば全て確保だ。今回の戦争の総括をしようではないか」
そういって第599任務部隊と友軍は、亡命国家艦隊を拿捕しにいくのであった。
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