表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6 実は……だった!

 小沼さんの目から雨のように俺の顔に涙が降ってくる。


「私、東野木君のことが好きなの。初めて会った時、助けてくれたでしょう。あの時からずっと忘れられなかったの。東野木君がうちの会社に入ってくれて、何度か話しかけようと思ったけどできなくて。やっと、彩夏ちゃんのおかげで東野木君と話せるようになったの。でも、なかなか勇気が出なくて……。彩夏ちゃんや栄子ちゃんがお膳立てしてくれなきゃ、今日だって誘えなかったし。彩夏ちゃんに、東野木君の好みドストライクだから、大丈夫だと言われたけど、一緒にいても東野木君は彩夏ちゃんと話してばかりで、私のことなんか見てくれなくて。それなら『自宅に連れ込んで事に及んで、責任を取らせるようにすれば、あいつは逃げないから』って、言われたことを実行に移しちゃうような女なんて、引くよね。引いたよね。嫌いになったよね?」


 えーと、とりあえず後で木下のことはデコピンの刑にすることにしよう。


 そう決めると俺は、右手をあげて小沼さんの後頭部に手を当てて引き寄せた。唇が重なったことに驚いたのか、小沼さんの目が大きく見開かれた。手を離すと、小沼さんは体を起こして口元へと手を当てた。


 俺も腹筋に力を入れて起き上がり、そっと小沼さんを引き寄せると腕の中に閉じ込めるように抱きしめた。


「俺も好きだよ。小沼さんが覚えていてくれているとは思っていなかった。4年前のことなんて、忘れられていても、仕方がないと思っていたんだ。俺のほうこそ、あの時の小沼さんのことが忘れられなくて、ずっと探していたんだよ」


 やわらかい声で告げると、小沼さんが顔をあげて見上げてきた。


「うそでしょう?」

「本当だって」

「まさか、私を探すためにここを選んでくれたとか?」

「ごめん。それはない」


 俺の言葉にがっかりした顔をする小沼さんの頭を、よしよしというように撫でた。複雑そうな顔をして見てきたので、俺は苦笑いを浮かべて言った。


「ごめんね。俺は小沼さん()を探してここに来たわけじゃないんだ。あの時も、就活前の下見を兼ねて旅行に来たんだ」


 そう。俺は大学3年の夏休みにここに来たことがある。自分が専攻していたことに関わる就職先として、ここも候補の一つとして考えていた。その時に、複数人の男女に絡まれていた彼女を助けたんだ。あの時には彼女の名前を聞くことはなく、そのまま別れたことをあとですごく後悔した。


 だから、ここに就職を決めた時に、助けた彼女のことを思い出した。どこかで会えるのではないかと、期待をしていた。でも、ここに住むようになって、あの日は祭りの日だったと知った。彼女を助けた後すぐにここから離れたから、祭りの日だなんて知らなかったのだ。


 だから、俺は誤解したんだ。会えないのは、お祭りだからと地元に帰ってきただけで、普段はここに住んでいないんじゃないかと。


 そう話したら、小沼さんは茫然とした後に「そんな~。もっと早くに話しかけていれば、恋人になれていたのね」と言った。


「ということで両思いとわかったことだし、ちゃんと恋人らしいことをしようか」

「恋人らしいこと? それって……」


 小沼さんが首をかしげて見上げてきたから、そのまま口づけをチュッとした。また驚いて固まった姿が可愛くて、チュッ、チュッとリップオンつきで何度か口づけをした。嬉しそうな蕩けたような可愛らしい顔に、そろそろ理性が持ちそうになくて、本格的に事に及ぼうと手を移動させたら、小沼さんがハッとした顔をして、俺の手を押さえてきた。


「待って」

「どうして? その気で誘ってくれたんだろ」


 そう言ったら、小沼さんはあっちこっちへと視線をさ迷わせだした。


「えーと、その、違う……わけでもないんだけど……でも、違うというか」


 言い訳にもならないことを口にして、俺の腕の中から逃げ出そうともがきだした。それを止めるようにギュウッと抱きしめる。


「なんで? 俺に責任取らせるようなことをさせようと思ったんだろ。ちょうどいいから、一足飛びにすべてを済ませてしまおうよ」


 耳元で囁くように言ったら「キュウ……」と、何やら発したと思ったら、俺に体重を預けるようにしてきた。あれ?


「えーと、小沼さん?」


 声を掛けてみたけど、返事がない。顔を覗き込んだら、意識を失っているようだ。


「えっ? ちょっと待ってくれよ。これでお預けかよ!」



 結局、キャパオーバーで意識を手放した小沼さんは、そのまま熱を出してしまい、俺は一晩看病することになったのだった。


 翌朝……謝り倒す小沼さんを何とか落ち着かせて、もう一度告白からやり直し、ちゃんとお付き合いをすることになった。


 月曜日。いろいろ画策しやがったやつら4人に、昼飯をおごらせた俺は悪くないと思う。


長くなったので、割愛した話を少々。


女子たちのこと。

彩夏が東野木と一緒に通勤した朝。榊原と同じように見ていた小沼歩美が、「彩夏ちゃんずるい」と言ったことから、女子たちのほうでも歩美の気持ちを知ります。それまでは東野木が歩美の思い人だと知りませんでした。

なので、食堂で待ち伏せて、きっかけ作りをしようとしました。

今まで食堂で会わなかったのは、昼休憩に入る時間が違うから。食堂の混雑解消のために、西棟と東棟では30分ズレていたのです。

が、榊原の告白に、歩美と東野木を引き合わせる計画が狂いました(笑)


で、榊原の顔を気に入った彩夏は付き合うことを決め、ついでに栄子の彼の勝亦も巻き込む形で、東野木と歩美をくっつける計画が発動!

理由を作って6人で食事をしたりしても、東野木の反応がいまいちだったので、焦り気味の歩美に、『部屋に連れ込み勢いで事を成しちゃえ作戦!』を発動。

結局、いろいろとキャパオーバーになった歩美が目を回して倒れてしまい、何もない一晩を過ごした。

翌日、そのすべてを知った東野木に、改めて交際を申し込まれて二人はくっついたけど、余計なことを計画してくれたと、4人に対して魔王が降臨した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ