閑話1:ある冒険者
リーシャがダンジョンから都市を見つけた頃、都市のとある場所でまさしく冒険者といった見た目の男達が話をしていた。
「聞いたか?あの男、一人で帰ってきたらしい」
「子爵の餓鬼は?」
「さぁな、死んだんじゃないか?」
男達は冒険者の中でも粗暴であまり良い評判も聞かないが実力だけはあるという厄介者だ、しかも彼等はこのところ依頼を受けれず金が減り苛々が積もっていた。
「いっそ餓鬼でもさらうか?」
「そこまで堕ちる気は無いぞ」
「冗談だ」
其処にもう一人の男が現れた、ジャックだ。
「お前達に依頼をしたい」
「わざわざ俺達に頼むんだ、金はあるんだろうな」
男がそう言うとジャックはパンパンになった革袋をドンと机に置いた。
開いた口からは大量の金貨が見える。
「前金で百枚、達成で三百、どうだ?」
「……良いだろう、依頼内容は?」
「静寂のダンジョン30層以内でのリーシャ嬢の捜索、殺すなら達成報酬で百枚出す、生かすならリーシャ嬢は好きにして構わない」
男は考える、この依頼は怪しすぎる。
捜索依頼としては遅すぎるしリーシャ嬢とやらの事を全く案じてないどころか此方に売り渡すと暗に言っているのだ。
「何故今さらこんな依頼を?」
ジャックはその質問に対してこう答える。
「魂の輪廻回帰はこの目で確認した、だが何かおかしい」
そう言うとジャックの左目に黒い炎が灯る、しかしその炎は体を全く燃やすことなく風に煽られる様に左の方へ火の粉を散らしている。
「その目、憤怒の罪か?」
「罪などではない、これは神の慈愛だ、それよりも、あの女の体に何か別のものが入った気配がした」
「俺達の仕事はその確認か」
「そうだ、だが別に殺さなくても良い、神もそう仰せだ」
男は悩む静寂のダンジョン事態はダンジョンの中でも小規模のものだ、しかし此処からは車で一週間掛かるし情報もあまり多くない、だが。
「受けるしかないか」
ジャックは狂っている、断れば何をされるか全くわからない、それに元々男達には最早仕事を選んでいられるほどの余裕はなかった。
この世界はもうすぐ冬になる、しかもただの冬ではなく数年に一度の灰冬だ、灰冬は大昔に戦争で使われた爆弾によって発生した。
灰冬の間は魔物も殆ど動かなくなり冒険者にとって死活問題な時期だ、だが灰冬を乗り越えた冒険者は一人前とも言われる、理由は。
戦争が起こる。
魔物がいないということは他国に行くのに障害がなくなるということだ、そしてそれは他国への侵略のチャンスとも言える。
しかもその戦争の参加者には衣食住が保証される、仕事がない冒険者にとってはこの戦争はとても重要なのだ。
戦争の報酬は参加人数によって増加する。
そろそろ主人公をダンジョン外に出したい