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ボツ

ダンジョン第五階層で秘策Pを仕込んだ日の深夜。

(あーあ…。)

ウノたちが寝静まった頃、カムナビ温泉の周囲を

散歩しながら警備中の細菌義人キアはため息をついた。

一緒に散歩して警備している真菌義人ググリが話しかける。

この2人は一見すると日曜日の朝のヒーロー、

セーラーなビーナスと仮面なライダーに見えるが、

知性がある金属的な物質ロカストーンが胸に埋め込まれた

インテリジェント・アーティファクトだ。

2人は睡眠不要であるため、毎晩、率先して警備している。

(どうした。キアがため息など、キアらしくないではないか。)

(…ググリの真菌は採用。わっちの細菌はボツでありんす。)

(ふむ…。)

キアの言葉にググリは思い当たった。

第五階層の攻略会議において、ググリは真菌魔法フンギを説明した。

ググリが下級真菌魔法フンギを使えばあらゆる真菌を入手できる。

今回、ググリはアスペルギルス・フラブスを紹介し、ウノに提供した。

ウノは価値を見出し、秘策Pを発案した。

それを見たキアは、わっちも、と言って細菌魔法バクターを説明した。

キアが下級細菌魔法バクターを使えばあらゆる細菌バクテリアを入手できる。

キアがウノに猛アピールしたのは、クロストリジウム・ボツリヌス。

ボツリヌス菌だ。

ボツリヌス菌が作り出すボツリヌス毒素は自然界最強の猛毒。

最強の猛毒なのだからウノが大喜びするだろうとキアは期待した。

ところがウノは喜ばなかった。

ボツリヌス菌か…と言葉を濁した。

(ダメでありんすか?)

そう問うキアにダダ漏れで答えたウノ。

キアはその内容を回想する。

・・・

ボツリヌス菌か…。

ボツリヌス菌は、食中毒の原因菌として身近だ。

ハチミツにほぼ確実に含まれており、

料理にハチミツを使うなら、

微量のボツリヌス菌が混入していることは覚悟の上だ。

それくらい身近な細菌だ。

それでいながら、

ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は自然界最強の猛毒。

猛毒で知られる毒物に青酸カリがある。

青酸カリが1gあれば5人を殺すことが出来るのに対し、

ボツリヌス毒素が1gあれば100万人を殺すことができると言われている。

単純計算で20万倍の強さの猛毒。

ボツリヌス菌とボツリヌス毒素は恐ろしい。

特に1歳未満の乳児に対しては注意が必要だ。

1歳未満の乳児が口にする離乳食には、絶対にハチミツを加えてはならない。

ハチミツ以外に黒糖にもボツリヌス菌が含まれる可能性がある。

だから黒糖も避けた方がいい。

1歳以上の子供と、1歳未満の乳児とで、何が違うのか?

1歳以上の子供は微量のボツリヌス菌を口にしたとしても、

腸内フローラが機能して、善玉菌がボツリヌス菌と戦ってくれる。

1歳未満の乳児の場合、腸内フローラが未成熟であるため、

腸内の善玉菌が少ない。

だからボツリヌス菌が異常繁殖してしまう。

異常繁殖したボツリヌス菌が作るボツリヌス毒素が大問題だ。

これが乳児ボツリヌス症。

1歳未満の乳児がボツリヌス菌に感染すると腸内で繁殖し、

ボツリヌス毒素により四肢が麻痺し、最悪、呼吸困難となって死亡する。

1歳未満の乳児がいる家庭では、

ハチミツと黒糖は捨ててしまった方がいいと、オレは考える。

知らない家族の誰かがうっかり使ってしまってからでは遅い。

・・・

ボツリヌス菌は大人にとっても食中毒の原因となる。

オレなりにキャッチフレーズにすると「ボツリヌス毒弁当」だ。

ボツリヌス菌は嫌気性細菌。

酸素濃度20%以上の環境では増殖しない。

酸素濃度20%未満の環境なら増殖する。

真空機能がついているタッパー容器を知っているだろうか。

一般的なイメージとして、

真空機能付きタッパーを用いれば、食品は傷みにくくなると考えがちだ。

素人は空気が入らなければバイ菌は増えないに違いないと短絡的に考える。

だが、真空機能付きタッパーはボツリヌス菌にとって最高の繁殖環境なのだ。

具体的に物語を考えてみよう。

妻が夫に愛妻弁当を作る。

キッチンに立つ妻。

妻は、ホカホカのごはんを、真空機能付きタッパーに大量に詰める。

夫は大食漢なのだ。

そして、タッパーのわずかな隙間に無理やり、おかずとして焼いた肉を詰める。

あらら?

フライパンを洗おうとして、肉を焼いた時のタレをキッチンシンクに捨ててしまった。

これは失敗したと考えつつもリカバリーのために、

市販の焼き肉のタレとハチミツを混ぜ、味見する妻。

甘辛くてトロみもついて、丁度いい感じ。

これでいい、とタッパーの焼いた肉とホカホカの白米に回しかける。

タラーリタラリ。

加熱していないハチミツを含むタレがホカホカのごはんに染み込んでいく。

ごはん粒同士の隙間にタレが流れてごはん全体に広がる。

パンパンに膨らんだタッパーのフタを無理やり閉める。

真空機能で空気を抜く。

これで愛妻弁当が完成。

夫は出勤時間。

いってらっしゃーい!

妻は夫を送り出す。

夫の黒いカバンには温かい愛妻弁当が入っている。

出勤の間、ゆっくりと冷めていく愛妻弁当。

夫は会社のオフィスに到着。

窓際にある棚に黒いカバンを置く。

夏場のオフィスの室温は28度。

窓から黒いカバンに日差しが当たればカバン内の温度は37度に達する。

愛妻弁当は37度をキープしてしまう。

お昼を過ぎてかなり経った頃、夫のお腹がグーとなった。

この日は仕事が忙しくて、もう15時。

愛妻弁当が完成してから8時間以上が経過している。

ボツリヌス菌の増殖速度は約30分で2倍。

8時間あれば、1個のボツリヌス菌は2の16乗=65536(むごうござろう)個になる。

愛妻弁当が8時間後には「ボツリヌス毒弁当」とは、むごうござろう?

・・・

キアはウノがダダ漏れする物語に呆れつつ、ウノに問うた。

(どうせオークたちを殺すのだから、むごくて結構でありんせんか?)

ウノは首を左右に振り否定し、ダダ漏れで答える。

目的がオインクの父親の捜索なんだから、問答無用で殺したらダメ。

それに、過ぎたるは及ばざるがごとし。

アスペルギルス・フラブスなら肝臓障害。黄疸で士気低下って感じ。

クロストリジウム・ボツリヌスなら四肢が麻痺し、呼吸困難で死亡。

四肢が麻痺した時点で毒入りだ!食べるな!とバレる。

ボツリヌス毒素は強力だけど、強力すぎるんだ。

それにさ。

オレはボツリヌス菌とボツリヌス毒素が嫌いだ。

好き嫌いは主観100%だからさ。

オレが嫌いな理由はうまく説明できない。

ボツリヌスヤベー!

やばたにえん弁当!

そういう嫌悪感をオレは持っているんだ。

ごめんな。キア。

でもキアがアイデアを出してくれたのは嬉しかった。

だけど今回はボツにさせてくれ。

ボツリヌスだけに。

はははは。

…オヤジギャグでごめん。

また別の細菌が欲しい時には、キアにガッツリ頼るからさ。

その時は頼むぞ。

・・・

キアはウノのダダ漏れの回想から戻った。

キアは、タタタッとググリの前方に進み、くるっと振り返る。

金髪ロングのウィッグがなびき、月光できらめいた。

ググリはキアのその姿を見て、胸のロカストーンが回転したように感じた。

(わっちは、神は善悪も好き嫌いも生死もすべて超越すると思っておりんした。)

(だがウノ殿は、好き嫌いも、生死も、超越していないだろうな。)

(善悪については超越している、ググリは、そうお思いでありんすか?)

(善悪…。ウノ殿は正義を語らない。それがしは、そう思う。)

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