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インテリジェント・アイテム

数億匹のバッタが絶対零度で凍り、更に超圧縮されたことにより

生成した金属的物質ロカストーン2つ。

それらは今、魔法の神ミラのトリプルマキシマイズドフォージにより、

8万度に及ぶ超高温で焼きつくされようとしていた。

・・・

(今しばし待たれよ!それがしが辞世の句を詠む。)

1つのロカストーンが緑に明滅してオレに念を飛ばしてきた。

そのフィーリングには馴染みがある。

例えるなら、カレーの匂いのようなフィーリング。

オレにはピンと来た。

バッタの天敵、昆虫病原糸状菌エントモファガ・グリリだ。

オレはダダ漏れ全開してグリリに返す。

なあ、それがしさん。

お前は真菌のエントモファガ・グリリだろ。

それがしに名は無い。では辞世の句を…。)

ふーん。辞世の句ね。

詠みたいなら詠めばいい。

拝聴するよ。

オレは静かにグリリの辞世の句を待つ。

(死に際や 今ほととぎす 鳴きにけり。)

グリリが静かな念で辞世の句を詠んだ。

オレはダダ漏れでグリリの句を繰り返す。

死に際や ほととぎす 今鳴きにけり。

オレはもう一度、心の中で句を読んでみる。

死に際や 今ほととぎす 鳴きにけり。

俳句だ。

季語はほととぎす。

季節は夏。

ほととぎすの鳴き声はテッペンカケタカだ。

ちなみにホーホケキョはうぐいすの鳴き声。季節は春だ。

…ゴホン。

ほととぎすを詠んだ句として、オレは3種を知っている。

詠み人は戦国時代の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康だ。

鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす(信長)

鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ほととぎす(秀吉)

鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす(家康)

この3種の句が史実に基づくかどうかは分からない。

それは置いておいて。

死に際にほととぎすが鳴いた。

グリリの句は信長の発想に近いのだろうか?

うーん…。

微妙に違う気がする。

この死に際は、ほととぎすじゃない。

グリリの死に際だ。

ふふふふ。

はははは。

まるで本能寺の変で、光秀に殺される直前の信長が詠みそうな句じゃないか?

信長にはどんな風にホトトギスの鳴き声が聞こえたんだろう?

テッペンカケタカッタ。

てっぺん駆けたかった。

そう聞こえたかもしれない。

ふふふふ。

はははは。

気に入った。

やるね。グリリ。

オレも一句詠もう。

えーっと。

うーんと。

鳴いたなら 共に駆けよう ほととぎす。

死ぬ必要はない。

いや、絶対に殺さない。

平和に暮らしていたグリリを巻き込んだのはオレだ。

グリリにはバッタ駆除に力添えしてもらった。

もし良ければ、オレの仲間になってくれ。

オレのダダ漏れに驚いたのだろう。

緑色の明滅は、いっそう強く輝いて消えた。

グリリ。

仲間になってくれ。

グリリの持つ知識を教えてほしい。

これからも力添えしてほしい。

(…力添え。)

ああ。

グリリが生きて得た経験。

それを語って欲しい。教えてほしいんだ。

(ではそれがしに名前をつけてくだされ。)

え?

名前?

別にグリリでいいだろ?

オレは周りを見渡す。

魔法の神ミラの傍に立つ魔法の女神イースが目に留まった。

イースは右手を上げる。

「ググリ♪」

あらま。そうですか。

(ググリ…。かしこまった。このググリにぜひ、力添えさせてほしい。)

ググリは新しい名前を喜んでいるみたいだ。

声には悲壮感は皆無で、自信が溢れている。

緑色の明滅はポップなリズムを刻んでいる。

はははは。

一件落着。

オレはググリを呼び間違えないように気をつけよう。

オレは緑に明滅するロカストーンを両手で抱えた。

・・・

その時、もう1つのロカストーンがオレンジに明滅した。

うおっ。

(わっちも、なかまになりたいでありんす。)

オレはすぐにピンと来た。

このフィーリングには馴染みがある。

例えるなら線香の匂い。アロマテラピーのようなフィーリング。

彼女は細菌ボルバキアだ。

ググリと同様に仲間になりたいってことか。

(ググリとおなじように、いっく、よませておくんなまし。)

一句。

辞世の句ではない。

俳句を詠むのだろう。

オレは頷き、静かにボルバキアの句を待つ。

ボルバキアは一句で自らを語るつもりなのだ。

それを試せということだろう。

一方でオレを、オレたちを試す意味もある。

(きちきちや きちをてんじて きちとする。)

オレは句を繰り返す。

きちきちや きちをてんじて きちとする。

漢字にするなら、おそらくこうだ。

きちきちや 危地を転じて 吉とする。

そしておそらく「きち」の字面だけ転じての「ちき」=「知己とする」を踏まえている。

はははは。

あっはっはっは。

きちきちとはバッタのこと。秋の季語だ。

今回のバッタ駆除は本当にヤバかった。

草原の危機、いや、この世界の危機だった。危地だった。

今回はなんとかバッタ駆除に成功することが出来た。

新しい知己ググリを迎えることが出来た。ラッキーだ。

ググリも死を覚悟した危地から脱することが出来た。

危地から吉=ラッキー。

禍福は糾える縄のごとし。

オレたちの境遇とググリの境遇を踏まえた句だ。

そして自分の境遇も吉となりたいという願いが感じられる。

いいね。

ボルバキアは自らを語った。

申し分ない内容だ。素晴らしい。

うん。

えーっと。

オレも一句詠もう。

(ちきちきを あつめてわらう ともふたり。)

ちきちきはきちきちと同じ。

バッタのことだ。

(まあ。たのしげでありんすね。)

ああ。

きっと楽しくやれるさ。

な?ググリ。

ボルバキアと知らぬ仲ではないだろ?

(…左様ですが、知己とまではいきませぬ。)

オレの両手の中でググリは緑に明滅した。

はははは。

知己ってのはさ。

単なる知り合いという意味もある。

それに、これからは仲良くやってほしい。できれば楽しく。

(わっちにも、なまえをつけてくんなまし。)

え?

名前?

ボルバキアにも新しい名前が必要か。

えーっと。

オレは魔法の神ミラを見やった。

ミラ、悪いんだけどさ。

ボルバキアに名前を付けてやってくれ。

「そうですね…。キアはどうですか?」

(よいなでありんすね。わっちはキアでありんす。)

キアは新しい名前を喜んでいるようだ。

どストライクがハマったみたいで良かった。

ポップなリズムでオレンジに明滅するロカストーンをミラが両手で抱えた。

・・・

こうしてオレたちに新しく2人の仲間が増えた。

1人目の仲間はググリ。

元々は真菌エントモファガ・グリリ。

真菌はカビとかキノコの仲間。ユーカリオタドメインだ。

2人目の仲間はキア。

元々は細菌ボルバキア。

細菌はバクテリアのこと。バクテリアドメインだ。

なあ、セイヤ。

今のオレのダダ漏れ、聞いてた?

「なんとなく聞いてましたよ。なんです?ウノさん。」

良かったぜ。セイヤ助かる。

今、便宜的に1人目の仲間、2人目の仲間としたけどさ。

1人、2人でいいのかな。

ググリとキアは人と見なせるのかな。

緑に輝くロカストーンとオレンジに輝くロカストーン。

知性がある金属的な物質だぞ。

とある異世界小説にも似た名のインテリジェント・アイテムが登場した。

ヒロインの1人を守護するカッコイイ存在だ。

「ウノさんの元の世界のお話ですか…。」

うん。ごめんね。

だけどさ。

人とは何か?という問いを持っているオレたちはさ。

人の定義を拡大しようと考えているオレたちは、さ。

一応、考えてみるべきじゃないか?

「ウノさん、勘弁してくださいよ。

ググリとキアは仲間です。仲間なら、人かどうかなんて些細です。」

セイヤは手のひらを上に向けて首を左右に振った。

はははは。

ごめんごめん。

オレも真菌と細菌が仲間になるとは思ってもみなかった。

整いました。

ここで一句。

異世界や 夏の夜話より 奇なり。

夜話は冬の季語。だから季がさなり。

奇なりだから勘弁して。

はははは。

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