いい夢
次の日の午後、女神アイアがルカとウノの部屋に訪れた。
ウノは今、温泉地の風呂掃除の仕事中だ。
「女神アイア。お呼び立てしてすみません。」
「構いません。私のお願いに尽力してもらっているのですから。」
女神アイアの願いとは永遠の17歳の設定解除。
その方法を探るために毎晩、眠る前の15分間のお勤めとして、
ウノ、ルカ、たま、ガーベラ、シロの家族全員は
箱の内部プログラムをソースコードレビューしている。
ウノはこれを家族レビュアーズと呼んでいる。
これまでに見つかった2つの気づき。
アト秒の変数、そして17個に及ぶgrantRoleの多重定義。
その2つの気づきは女神アイアにとって驚きだった。
女神アイアは日々成果が出ていることで上機嫌だった。
「ルカは私に何か依頼があるのでしょう?」
「厚かましい願いなのですが、
私たちをダンジョンに送り迎えして欲しいのです。」
「…もしかして毎日、ですか?」
ルカは申し訳なさそうに頷いた。
「…毎日の朝と夕方の送り迎えです。」
「…うーん。毎日…、しかも朝と夕方の2回となると負担が大きいです。」
「それでは朝だけ、あるいは夕方だけというのはどうでしょう?」
「1週間のうち月曜日から金曜日の5日間の夕方だけならば構いません。」
「ありがとうございます!」
ルカは顔をほころばせた。
「交換条件として、こちらからもお願いがあるのですが…。」
「なんでしょう?」
「夕食をご馳走してもらえませんか?それから温泉とマッサージです。」
「わかりました。私からお願いして絶対にウノに了承してもらいます。」
「土曜日と日曜日の夕食も…。どうでしょうか?」
今度は女神アイアが申し訳なさそうな声だ。
「分かりました。なんとかします。」
「ありがとう!ルカ、ありがとう!」
女神アイアはルカの手を握り、満面の笑顔を見せた。
ルカは女神アイアの笑顔が見れて嬉しくなった。
・・・
ルカからオレに相談があるとのことだ。
かしこまってなんだろう?やはり不甲斐ないオレへのダメ出しか。
ルカがベッドの上に正座しているので当然、オレも正座だ。
え?女神アイアが毎日ダンジョンまで送り迎えしてくれるの?
マジで?
「帰り道だけです。朝は自力でダンジョンまで移動する必要があります。」
なるほど。
帰り道、夕方だけか。
それでも最高だよ。
だってダンジョン攻略で疲れたとするだろ?
帰り道ってのはキツいわけ。
その帰り道が一瞬だったら超安心だよ。
いやー。素晴らしい。
女神アイアには夕食を食べてもらって温泉に入ってもらって、
オレがマッサージしよう。オレからのお礼の気持ちだ。
え?約束したの?
さすがルカだぜ。オレの思考回路を分かってる。
宿泊は?寝泊まりはどう?
女神アイアは神界の寝室で寝るのが一番なんだ。
神界に自分で転移して帰って寝ると。
ふーん。なるほどね。
そうだ。
女神アイアは月曜日から金曜日の夕食はウチで食べるとして、
土日は?土日の夕食は自分で用意するのか?
出来れば土曜日と日曜日の夕食もウチで一緒に食べたいと。
いいんじゃないか?
毎日夕食を一緒に食べるなんて最高だろ。
家族みたいなもんだ。
何も問題ない。オッケー。
え?ほっとしたって?
実は土日の夕食は心配してたって?
はははは。
大丈夫だ。
それにさ。仮にオレがいないとしてもさ。
シズさん、ヒナタさん、ユカリ先輩、セイヤの4人の料理自慢がいる。
それにカムナビは新鮮なお肉が手に入るし、
八百屋から新鮮な野菜を毎日配達してもらってる。
一時期は配達人が体調を崩してたけど今はバッチリ元気だ。
おそらくはこの世界ナンバーワンのお食事処だぞ。
オレがいないとしても問題ない。
どうした、ルカ?
悲しそうな顔をして…。
オレがいないということがありえるのかって?
うーん…。どうだろう。ありえるか?
朝はファルコン号に乗って遠距離通勤。
日中はダンジョン攻略して。
夕方の帰り道は一瞬。
オレが夕食時にカムナビにいないってことはありえないな。
事実上、可能性はゼロだな。
うん。オレも安心したぜ。
女神アイアの夕食はオレに任せてくれ。
どーん!とな。
はははは。
・・・
その晩。隣で寝ているルカが寝息を立て始めたので、
オレは少しだけ考えることにした。
極小音量で自問自答しよう。
さてさてさーて。
ルカにはああ言ったけどさ。
いつまでも女神アイアに頼りきるわけにはいかないぞ。
そりゃ当面の帰り道はすごく頼りにするんだけどさ。
シズさんが時々セイヤに言うようにだな。
少しずつでも進歩が無いと不満に思うわけだ。
優しい女神アイアにしたってさ。
(ずっと私に頼るつもりかしら?)
なんて不満に感じるようになるかもしれないんだ。
これが心の難しいところ。
もしも女神アイアが不満を感じるようになったら、
ルカはオレたちと女神アイアとの間で、
板挟みにあってしまうかもしれない。
女神アイアからさ。
「私とウノ、ルカはどっちの味方なの?」
みたいな事を言われたらルカは困ってしまうだろう。
どちらも選べないから。
そういう事態は避けたい。
避けるにはどうすればいいか?
オレたちが進歩することだ。
オレたちが少しずつでも進歩していると、
女神アイアは安心して
(ずっと私に頼ってくれてもいいのよ?)
なんて感じの言葉を言ってくれる可能性が高くなる。
それはありがたい言葉だ。
ありがたや。ありがたや。
そしてまた、心の難しいところ。
オレたちは女神アイアの言葉に甘えちゃいけないわけ。
オレたちは一歩一歩着実に成長する。
そうすると頼られる女神アイアもさ。
(今は頼りにしてくれるけど、そのうち頼られなくなるのね。
寂しいわ。だけど、それなら私も安心よ。)
なーんて考えるわけ。
え?ちょっと演技が入ってた?キモい?
自問自答してみよう。
うん。キモかった。
でもさ。子を持つ母親ってたぶん、そういう気持ちなんだと思う。
これが理想的な関係だとオレは思う。
子の巣立ちを喜ぶものの、内心寂しい。
巣立ち…。
おっと?
今、ひらめいたぞ!
ホピットの2人についての妙案だ。
クルマニーとポピーをファルコン号に乗せて旅に連れて行こう。
旅好きのホビットを旅に連れていくようにすれば、
クルマニーとポピーがカムナビ温泉を辞める可能性が、
ぐっと減るんじゃないか?
日常の合間に世界中を旅する。
そうすれば日常に飽きることはない。
むしろ日常に安心するんだ。
「やっぱりウチが一番落ち着くな。」
そんな言葉ってありがちだろ。
遠足は家に帰るまでが遠足です、みたいな?
はははは。
・・・
あとは…そうだな。
ダンジョンに遠距離通勤するとなると、
朝から夕方までの日中、オレは温泉合宿所の仕事が出来なくなる。
家電的な機械がやっぱり必要かもな。
まずは掃除機。
温泉合宿所用には掃除ゴーレムは既に多数ある。
それは良い。
それは良いとして。
なんか変なコメントが来てるんだ。
だから紹介しますけども。
えーと。
匿名の弟子4号さんのコメント。
巨大浴槽の掃除が大変で嫌になります。
ウノさんは多重影分身できますか?
できません。
ニンジャの女神ルーシィでさえできません。
多重影分身は全てを超越するとんでもないチートだと思います。
…なるほど、風呂掃除ね。
そうだ!
防水タイプの風呂掃除専用ゴーレムを作ろう。
そうすればオレとセイヤがいなくても風呂掃除が問題なくなるし、
たまに聖湯にしたい場合も、オレとセイヤの仕事が短時間で済むぞ。
聖湯。青白く輝く湯だ。
そもそもこの温泉が持っている効果以外にも様々な効果があり、
女性客にはとんでもなく評判がいい。
なんでも肌ツヤが良くなり髪がサラサラ、枝毛が治るそうだ。
女神アイアが温泉に入りにくるなら、
オレが風呂掃除できる日は、なるべく聖湯にしてあげたいな。
よーし。
防水タイプの風呂掃除専用ゴーレム。
決まりだ。
・・・
あとはミラとイースが作ってくれた洗濯機と乾燥機。
これを量産して宿泊客にも使ってもらおう。
そうすれば朝だけでなく昼でも夜でも洗濯出来る。
従業員の手がかからないのに越したことはない。
それから調理家電だな。
まずはフライヤー。
これは前から作ろうと思ってたし作ろう。
元の世界の知識チートが使えそうだ。
あとはやっぱり電子レンジだな。
オーブンでもいいか。
オーブンは屋外設置なら問題なく作れる。
異世界小説テンプレのピザ窯にもなるし作ろう。
くぅー!
とうとうオレたちもピザ登場か。胸熱だぜ。
はい。オーブン決定。
・・・
鬼門になりそうなのは電子レンジ。
加熱の仕組みはマイクロ波による水の振動だとわかってる。
だけどマイクロ波を出す仕組みがわからないな。
電波の神か磁力の神に相談したいところだ。
電波の神に相談するとなると鍛冶の神つながり。
磁力の神に相談するとなると宝石の神つながり。
鍛冶の神と宝石の神には、ディスクサンダーを貰ったこともあるし、
オレとしては仲がいいつもり。
なんとか顔つなぎできないかお願いしてみよう。
お礼は何がいいかな…。
ドラゴン素材?金のインゴット?天使のハンカチ?
完成した電子レンジが良いかもしれない。
うん。それがいいかも。
お礼は何がいいかも神々に相談しよう。
オレはワクワクしてきたぜ。
ワクワクでいっぱいだ。
はははは。
こりゃいい夢が見れそうだぞ。
ふう、さすがに眠い…。
ZZZZ…。
・・・
ウノの隣でスヤスヤと寝ているはずのルカ。
実はルカはタヌキ寝入りだった。
少しウトウトしかけた時にウノが極小音量でダダ漏れし始めたので、
タヌキ寝入りすることにしたのだ。
そして全てを盗み聞きしたのである。
…。
(うふふふ。まったくウノってば。)
(女神アイアに頼り続けないように、なんて。)
(私が、女神アイアとの板挟みに合わないように、なんて。)
(すごく嬉しいです。)
…。
(ウノはやりたいことが幾つもあります。)
(どんどんワクワクしています。)
(本当に楽しそうです。)
…。
(私は不安がありました。)
(良いアイデアを出してアシストできるか不安でした。)
(でも違いました。ワクワクしていればアイデアは出るんです。)
(アイデアは頑張って考えるものではないのでしょう。)
…。
(私の仕事は1つです。)
(私はいつも冷静でいてロジカルに判断するよう心がける。)
(それがウノにとっての一番のアシストです。)
(妥当かどうか、それを判断する役目です。)
(でも私だって時々はアイデアを出します。)
(すごいアイデアだ!ってウノに喜ばれたら嬉しいから。)
(うふふふ。夢の中でアイデアを思いつくかも。)
ルカは幸せそうに微笑む。
ルカはウノが眠ってすぐに眠りについた。
ZZZZ…。




