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番外編『ただ願ったもの』

ほんとのほんとの蛇足

レパート王子視点


 

 母上は私の事を愛してはくれなかった。

 

 

 

 母親は国同士の繋がりの為だけにこの国へ嫁いで王妃となった。元々は隣国の貴族に降嫁(こうか)するはずだったのだと言う。そしてその相手は母上の想い人だったと。

 

 父上の代になって、力が強くなったこの国への繋がりのため、本当にその為だけに母上はその婚約を破談され、一人この国に嫁いできたのだ。力が強くなった国へ我が国の王家の血を…そう、御祖父様は考えたそう。

 

 父上はまだ王位を継いだばかりで、母上に興味がなかった…ちがう、子を産むものとしか見ていなかった。

 

 だから母上は父上を心底嫌っていたし、私のことも嫌っていた。

 

 でも母上がまだ私の頭を優しく撫でてくれた時。言ったのだ。「愛してくれる人と幸せになるのよ」と。

 

 たしかに私を心配したように言ってくださった。

 

 

 アイリスは、父上が私が七歳の時に連れてきた。可愛らしい一歳下の女の子。一瞬で私はアイリスに恋をした。

 

 だが違ったのだ。アイリスは私の事を好いてくれることはなかったのだ。時々、母上と同じ全てを受け入れる、全てを諦める目が怖くなった。

 

 アイリスは、私を愛してくれる人ではない。その事実に打ちのめされ、それは成長していくにつれて強くなった。

 

 

 エカリーテはそんな私に寄り添ってくれた。寄り添い、慰めてくれたのだ。

 

 「アイリスは元々は醜い娘で魔法であの美しさを保っているそうです、そして保つ方法が身の回りの存在の不幸だとか」

 

 そうならば、そうならば、なんて悲しい魔法だろうか。

 私の目を偽っていた。だから私を愛さなかったのか。だから距離を置いていたのか。

 

 美しさなぞどうでもよかったのに、愛してくれるなら、愛をくれるなら私はあなたを愛せたのに。

 

 「愛しておりますレパート様」

 

 偽りでもよかった。私を見て欲しかった。愛して欲しかった。愛をくれぬアイリスが間違いで、エカリーテに嫉妬し傷付けるアイリスこそが悪なのだと憎しみを向け。

 

 婚約破棄を告げた時アイリスは唖然とし、そしてどこかホッとした顔をしていた。

 

 アイリスの心のどこにも私はいなかったのだと告げるその顔に憎しみが心を締めた。

 

 アイリスにアイリスを愛さぬと誓ってほしいと言われた時、そんなにアイリスは私を嫌っているのだと知った。

 

 言葉が震えないだろうか。いつも通り話せているだろうか。誓いの言葉を告げた途端、何かが抜け落ちた気がして悲しくなった。その時だ、父上とアイリスの父親…宰相が教室へ入ってきて私とエカリーテの話を聞いた後拘束してきた。

 

 私は間違ったのだと思う、愛人も側室も欲しくなかったのだ、一人でよかったのだ。愛してくれる人が一人いればよかった。

 

 エカリーテは連れてかれた部屋で鎖に繋がれ床に座らされた。聞けばエカリーテには歳上の婚約者がいたのだという。婚約者がいながら王子である私の婚約者になろうとしたことは充分罪になるのだと宰相は申し訳なさそうに告げた。

 

 父上は私を見てはくださらなかった。

 

 エカリーテも私を見ることはなく、後に部屋に入ってきたアイリスに口汚く罵った。

 

 エカリーテも私を愛してくれる人ではなかったのだと理解してただ悲しくなる。私はただ愛が欲しかっただけだ。愛がある結婚をしたかった。愛する人との子が欲しかった。

 

 父上が私が誓ったことに顔色を悪くする、私は理由を話そうと、口を開いた…が殴られ、歯が飛ぶのを見た。

 

 父上にとって私は母上と同じなのだろう。ただ血の繋がりを作るためだけの存在だったのだろう。

 だから、愛人も側室も好きにしろと。

 

 それは王としては合っているのだ。子を産み、血を繋ぎ、血を継ぐ。それが王族と、王族に嫁ぐ者の役目だと知っていた。

 

 分かっていた。

 

 

 それでも。

 

 父上に見放されたという事実に背筋が凍った。

 唖然としている間にエカリーテとアイリスが部屋からいなくなっていた。父上は悲痛そうに私に魔法をかけ治してくれる。歯も、ちゃんとあるのは舌で口の中の血を舐めとってから気づいた。

 

 

 「レパート…お前は本当に馬鹿な子だ」

 「ち、ちうえ」

 「あの女の言う通りの存在にしかなれぬ馬鹿な子だ」

 

 訳が分からない。私は、母上の言う通りになれたことなど一度もないのに。

 

 宰相もひたすら悲しそうに私を見る。どうしてだと、なんでだと問いかけたいのに。

 

 「レパート、お前はもう死ぬしかないのだ」

 

 息ができなくなる。どうして、なんでと。見放されたのはわかった、見捨てられるのはわかった、でもなんで私が死ぬのだと。

 父上に問いかけようとして────宰相の手が私の目元に当てられた。

 

 「君にはたくさんの大人の思惑が混ざりすぎて、君はこんなに歪んでしまったね」 

 

 そんな君を守るための婚約だったのに。と宰相は優しい声で囁いて。

 

 涙が出る。やめてと誰かが頭の底で叫んでて、私の体が熱くなる。

 

 死ぬのか、私は。

 

 この優しい手で死ぬのか。

 

 「レパート王子……いえ、パレル王女、気分は?」


 最初、何を言っているのか分からなかった。優しい手が外されてゆっくりと瞼を上げて、悲しそうな父上と宰相が目に入る。

 

 「…わた、しはレパートです宰相」

 「いいえ、あなたの本当の名はパレル…この国の第一王女(・・)

 

 そう言われて自分の視線がやけに低くなっていることに気づく。胸も、腰も、なんだか重く窮屈に感じて視線をしたにやれば本来あるはずのないものがあった。

 

 いや、本当はこちらが正しかったのだろう。父上と宰相の話では。

 

 「私は、どうして」

 どうして女になったのか。それともどうして今まで男になっていたのか。どちらを聞けばいいかわからず言葉を飲み込む。

 

 呪い、と言った。なら私は元々は女で男ではなかったと、王子では、なかったのだと。そういう、ことで。

 

 「ちち、うえ」

 「……お前が生まれた日の事だ」

 

 父上は私から目をそらして、ぽつりぽつりと話し出した。

 

 私は双子だったのだという。生まれた時既にもう一人の私は死んでいたらしい。父上は生まれた時は戦場にたっていた、漸く帰ってきた所で、そう乳母に聞かされ、母上に会いに行ったと。

 

 「子は、男女の双子で、死んだのは娘の方だと言っていた…私が戻ってくる前に既に子は火葬され、私の手に渡されたのは確かに男の赤子だった」

 

 だが、と一度きられ私のことをやっとみて、困ったように目を伏せた。

 

 「事実は違った。死んだのは男…レパートの方で、生きて生まれたのはパレル…お前だったのだ」

 死んだのは男、ではなぜ私は王子として生きていた? なぜ私の体は男の物だった?

 

 「あれはお前に呪いをかけた。強い呪いだ。女のお前を男と偽装する呪い、男だと周りに信じさせる呪い……お前の婚約者がアイリスだった理由はなお前を王子でいさせるための唯一の存在だったんだ」

 

 父上は私の事を本当に憐れむように目を伏せた。

 

 「愛人も側室も好きにしろと言ったろう、お前が本当に女として好きな男ができても添い遂げられるようにというものだった、王族の血を絶やさないためにもな、なに、今までだって男を側室にした例もある」

 

 ────アイリスは。

 

 「アイリスはイエルスの娘だ、頭も良く、努力家で美しい…なにより、華娘だ。他国から送られてくる姫よりも王妃にするのが相応しい者、我々を裏切ることなくけして民を蔑ろにしない者……それがアイリスしかおらなかったのだ」

 

 アイリスは全てを知っていたのか。

 知っていて、いや、だからこそ、彼女の女としての人生を無理やり閉ざそうとしていたから私の事を好きにならなかったのか?

 

 「あれによって、側室の王子は皆生まれてすぐに死んでおる。あれは私を恨んでおるからな…王女を王子として立たせたことを明るみにし、私を失脚させようと目論んでいたのやもしれぬ」

 

 すべてはお前のためだったのにと、告げる父上に私はただただ愕然とする。十六年。男として生きてきた。そう信じてきたし周りもそう扱ってきたというのに今になって、女だからアイリスを婚約者にしたのだと告げられて。

 

 

 私は、私はどう生きれば良いのだ。

 

 アイリス、アイリスは私がまた君を婚約者に置くと思い、あの誓いをさせたのか。

 

 それとも…。

 

 「信頼できるものを置いたとしても王妃の席には座らせられん、王妃になりえる存在は他国の王族を退けられるとは限らん、だからお前の呪いを解いたのだ。だからお前を再び殺したのだ。」


 ああ、そうか。

 

 父上にとって、レパートが全てだったのか。私なぞ、パレルなぞ、どうでもよかったのか。だから、私の心など知りもしないで。

 

 

 私は王子でも王女でもどうでもよかった。

 

 ただ愛して欲しかっただけなのに。

 

 「お前は養子に出す、私の側室の実家だ、もうお前に父上と呼ばれることもなくなるお前は私の子ですら無くなるのだ」

 

 そう私を置いて父上は……父だった男は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 


この王、父親としては駄目駄目だなぁと。


国の為にってのは

王子がレパート以外いない為、王位継承者争いで今後起こるであろう争いを避けるため。


アイリスはこの事を知りません。表の理由は華娘の血を王家に入れるためですが、裏は王子が王女である事実を伏せ、王位を継がせること。


アイリスは生贄みたいなものでした。

イエルスはそれを国の為とのみました。

その為だけにアイリスを洗脳しました。


嘘を嘘で隠すためには新たな嘘でしか隠せないということです。




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