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真実ト現実

目が覚めると、見慣れない天井が目に入った。

そういえば昨日、タイムスリップしたんだっけ。

わたしはまだ思考回路が定まらないうちから起き上がった。

まず右を向いてその後に左を見る。

しかし誰もいなければ気配さえしない。

長閑な日光が襖の隙間から入って来るくらいだ。


あれから政宗様には全てを話した。

わたしたちが二〇一一年に生きていた事。

中学三年の修学旅行の際に仙台へ観光し、青葉城を訪れた事。

すると突然わたしは右目に痛みが走り、トキは耳鳴りがした事。

その間に何者かに刺されて気を失って、目を覚ますとこの時代にいた事。

政宗様は全て興味深そうに聞いていた。

引き取られたのが伊達者で知られる政宗様で良かった、とこの時初めてそう思った。

彼がこの事を理解したかはわからないが、納得はしてくれたみたいだった。

そしてわたしはまだ伊達家の米沢城にいる。

政宗様はわたしを受け入れてくれたのだ。

その後、わたしはトキと二人きりで話した。

修学旅行で青葉城を訪れたのはわたし達以外に数人かいる。

もしかすると彼らもこの時代に来ているのかもしれない。

わたし達は同じ伊達家に引き取られたが、他の人達は違うところかもしれない。

でもトキと会えてホッとしている。

このままずっと独りでは心もとない。

それにトキは賢いし頼りになる。

トキは政宗様が今一六歳と仰っていたのを逆算して今が一五八二年だと教えてくれた。

わたしは政宗様が何年に生まれたかなんて知らなかった。

この時代は数え年で政宗様の歳は一六でわたし達より一歳上ではなく二歳上なのだということも教えてくれた。

しかしトキにもなぜわたし達に特殊能力があるのかはわからなかった。

トキは以前付けていなかったピアスが左耳に付いていた。

聞くと、この時代に来た時に付いたのだという。

そしてどうすればその能力が使えるのかもわからない状態だ。

日々鍛錬で使えるようになるだとか、危機的状況の時に発揮するだとか、色々言ってはみたものの答えまでは辿り着かない。

結局、考えるだけ時間の無駄という結果になり、わたし達は政宗様から設けられた寝床にそれぞれ向かう事にした。

そして今に至る。


「いつまで布団の中にいるつもり?」

突然聞こえた人の声で我に返った。

右を向いても左も向いても、先ほどと同じで誰もいない。

もしかして聴覚までおかしくなったのだろうか。

一人で焦っていると、声の主がクスクスと笑い出す。

「上だよ、上」

答えを言われ見上げると、人が器用に天井にぶら下がっていた。

彼は昨日政宗様から紹介を受けた忍だった。

相変わらずの漆黒の服装で、天井と同化してしまっている。

飛雲ひうんさん、おはようございます」

「いやいや、もうお早うの時刻じゃないんだけどね!っと!」

飛雲さんはその状態から器用に床に降りてきた。

彼はわたしの護り役となった飛雲さん。

普段はフードを目が覆うくらい深く被り、口元を首に巻いた布で覆っている。

今はプライベート内での仕事なのだろう。

昨日よりもはっきりと顔や表情が窺える。

「寝心地はどうだった?」

「…あまり、良くなかったです」

「あら~、素直」

飛雲さんは軽い口調だから話しやすい。

友達、とは言ってはいけないが親しみやすい人だった。

けれど彼だった戦国の世を生きる人。

つまり殺しを躊躇わないという事だ。

こうやって笑う顔も、戦場へ行けば無に変わる。

そう思うと一瞬ゾッと鳥肌が立った。

「何考えてたの?顔色悪いけど」

「だ、大丈夫です」

飛雲さんは納得していないが頷いていた。

そして飛雲さんは今日の一日の流れを話した。

「今日はとりあえず、着物を頂きに行ってもらいたい。あ、勿論、その格好で部屋から出ないように」

飛雲さんはわたしの服装に指差した。

今わたしが着ているのは昨日政宗様の侍女から借りた寝間着だ。

さすがにこの格好では外には出られない。

となると着る服は一つしかない。

「昨日着ていた服を着ろと?」

「そーゆー事。じゃあね」

飛雲さんはそう言うと、一瞬で姿を消してしまった。

わたしは重い足取りで布団から出て立ち上がった。

飛雲さんがもう一つ重要な事を言っていた。

それは今日は政宗様の母親である義姫様がこちらに顔を出しに来るらしい。

その話をしていた時の飛雲さんの表情は曇っていた。

わたしは義姫様が来る前にきちんとした着物を着付けてもらいたい。

万が一この格好で会うことになったら大変な事になりかねない。

わたしは着慣れたセーラー服に手をかけた。

そして部屋を出て、飛雲さんが教えてくれた道順どおり足を進めていく。

少し奥の曲がった先にまた一つ部屋があった。

この部屋が飛雲さんが言っていた部屋だと確信すると襖の前で座り込んだ。

「失礼します。紅で御座います」

襖越しで話しかけるのは初めてだ。

どのくらいの声量で話せば部屋の中に聞こえるのかわからない。

しかししばらくして部屋の中から返事がした。

「お入り」

声の高さからして女性だろうと思った。

入室の許可を得ると、わたしはゆっくりと襖を開けた。

部屋の中には中年の女性と、彼女の前に長細い箱があるだけだった。

「片倉喜多。わたしの名前」

喜多さんの話し口調は非常にゆっくりで、子守唄を聞いてる感覚になる。

彼女は動作もゆっくりだった。

彼女が開けた箱の中にはキレイに着物が入っていた。

「女の子が生まれた用に置いておいたんだが…誰もいなくてね」

その着物の色は赤色で、柄は梅だった。

「丁度良い。紅様の"赤"に紅梅の"梅"」

喜多さんは少し微笑んでいた。

彼女が出す雰囲気はまるで母親のようだった。

そばにいるだけで落ち着いて安心感のする人物だ。

彼女は箱の中から着物を取り出すと立ち上がった。

「着付けてやるよ。こちらへおいで」

わたしは彼女に言われるまま足を進めていた。

セーラー服を脱いで、わたしは慣れない着物に袖を通す。

正月などで何度か着たことのある着物だったが、この時代の着物は触り心地が良かった。

喜多さんは起用に着付けながら、ゆっくりと話し出した。

「今日は義姫様が東館からこちらに御出でになられる。紅様もきちんとした格好をしなければならぬ」

「はい」

「紅様も伊達家の一員なのだよ。もし義姫様がお気に召されなかったら、政宗様がまた悲しい思いをしてしまわれる」

「…はい」

わたしは頷く事しかできなかった。

喜多さんの言葉はとても強みがあった。

政宗様の"また"という表現が気になったが、触れてはいけないと思った。

喜多さんの話を聞いている内に着替えが終わっていた。

着物は少し重量があり歩くのに少し苦労する。

その重さはきっとこの時代で生きていく重さなのだろう。

わたしはその重さを噛み締めながら、喜多さんの柔らかな目に見送られた。

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