12話 宣言
カブランの驚きの言葉に、周りの貴族は次々と席を立ち、その様子を一目見ようと集まってくる。
「これは……一体……」
「まさか、こんなものを……」
先ほどまで俺の計画に対して疑いの目を向けていた者達でさえ、今ばかりは目の前にあるものから視線を外せずにいた。
まぁ、それも当然だろう、俺だって、何も知らない状態でこれを見せられたら同じような反応をしていたと思う。
「見てもらった通り、この中では時間が早く進む、これがあればこれまでとは考えられないほどの効率で作物や木などを育てられるだろう。畜産に応用すると少し効率は落ちてしまうが、それでもこの国の国民の需要を満た程度には生産ができるはずだ」
俺がそう説明すると、大会議室は一瞬にして静寂に包まれた。
「…………そんな馬鹿な」
最初に声を漏らしたのが誰だったのかは分からない。
ただ、その一言を皮切りに、部屋の空気が一気に弾けた。
「こ、国民全員の需要を満たせるだと!?」
「お待ちください! 今、木も育てられるとおっしゃりましたか!?」
「畜産まで!? そんなもの、もはや農業そのものが変わってしまうではないですか!」
先ほどまで呆然としていた貴族達が、一斉に俺へ詰め寄ってくる。
「陛下! 一体どれほどまで時間を早められるのです!?」
「一年かかる作物は!? どれほどでで育つのですか!?」
「まてまて、押すんじゃない、一個一個ちゃんと説明する」
俺の周囲に人が殺到し、とうとう誰かが椅子を蹴倒す音まで響いた。
その中でもカブランは、顔を引きつらせながら目の前の結界を見つめている。
「……あり得ない」
絞り出すようにそう呟く。
先ほどまで俺の計画を非難していたカブランも、流石にこれを目の前にしては言葉を失っているようだった。
俺はそんなカブランの様子をしばらく眺めた後、ゆっくりと口を開いた。
「さて……カブラン公爵」
「……は?」
「鎖国についての説明はまだあるが、その前に1つ、君に聞いておきたいことがある」
俺がそう言った瞬間、先ほどまで騒がしかった大会議室が再び静まり返る。
カブランも何かを察したのか、僅かに表情を強張らせた。
「な、何でしょうか」
「先日の飛竜襲来の件だ」
「…………」
「飛竜が王都へ向かってくる少し前、君の領地では領民の避難が始まっていたそうだな?」
「っ……!」
カブランの顔から、明らかに血の気が引いた。
よし、少し鎌をかけたのだが、どうやら当たりだったようだ。
先ほどからの話を聞く限り、カブランは俺の結界板について信じていない部分があった。
そのため、もし本当に教皇国とつながっていた場合、祖霊祭の日に飛竜討伐を止め、我が国を襲わせようとしているという情報を知って、自分の領土への被害を少なくしようとするはずだ。
今回俺はそれを予測し、特にそんな知らせを聴いた訳では無いが、試しに鎌をかけてみた。
そして、この反応、ほぼ黒だと考えていいだろう。
「飛竜が結界に阻まれた頃には既に避難が完了していたという知らせがあったが、随分と対応が早いな……これは偶然か?」
俺は笑顔を崩さないまま、カブランを見る。
「も、勿論でございます! 我が領地は魔物の被害に備えて日頃から訓練をおこなっていまして……」
「ほぅ? あの領地は飛竜の影響もあって、飛竜以外の魔物はあまり出ないはずだが? そして、その飛竜もセレス教皇国が討伐を担ってくれている……関係悪化を知らなければそんな事をする必要もないのでは無いのか?」
「そ、それは……!」
「だが、関係悪化については私以外知らないはずだ、なら、なぜお前が知っている……?」
「…………っ!」
カブランの言葉が止まった。
周囲の貴族達からざわめきが生まれる。
「ふん、語るに落ちたな……ポトス、後は頼んだ!」
「はっ、衛兵よ、カブラン公爵を拘束しろ!」
ポトスがそう叫ぶと、何人かの衛兵が大会議室の外から一斉に集まり、カブランを取り囲み、拘束する。
「なっ!? わ、私は公爵ですよ!? それをまだ疑念の段階で拘束するなどという横暴が許されるはずが……!」
「ほぅ? まだ理解していなかったのか?」
俺は暴れるカブランを見下ろして言い放つ。
「結界板は俺が死んでも維持され続ける、つまり、この鎖国状態が解消されることは無い。そうなれば、さっき見せた俺の力がどうやっても必要だろう?」
俺の言葉に未だにそのことを理解していなかった貴族達が息を飲む。
「お前らはもう俺に従うしか無いんだよ」
俺の言葉が大会議室に響く。
先ほどまで俺を責め立てていた者達も、今はただ黙ってこちらを見ているだけだ。
「勘違いするなよ? 俺だって好き好んでお前らを脅してるわけじゃない」
俺はゆっくりと周囲を見回す。
「反対意見も聞くし、提案も大いにして構わない。だが、一つ条件がある……それがこの国の為になる事だ」
俺はそう言って、その場にいる者達を一人ずつ見渡していく。
「俺達が争うべき相手は身内じゃない、少なくとも、こんな小さな国の中で足を引っ張り合ってる場合じゃないんだよ」
「…………」
「今のカリスト王国は人口僅か三十万、領土も、国力も、周辺諸国と比べれば小さい。少し圧力を掛けられれば要求を呑み、好き勝手に利用される」
今までがそうだった。
不利な条件を圧力にりって飲まされ、挙げ句の果てには、駐屯軍を置かせろ。
要求を断れば何をされるか分からないからと、その度に譲歩を繰り返してきた。
「だが、それを当然だと思うな」
俺は机を叩き、立ち上がる。
「この国は最初からこんな小国だったわけじゃない、戦争に負け、条約で領土を奪われ、また戦争をして……何代にも渡って少しずつ国を削られ続けた結果が今だ」
かつてカリストは、この大陸の中央部一帯を支配するほどの領土を持っていた。
周辺国から恐れられ、多くの都市を従え、この地で最大級の力を誇っていた時代もあったが、今となっては歴史書の中でしか見ることのできない、遠い過去の栄光だ。
「俺は、全てを取り戻す、鎖国はその為の手段だ」
交易の要衝である我が国を閉ざすことにより他国に被害を与え、それでいて自分の国は俺が開発した技術により発展させる。
そして、外国に何を言われようと頭を下げる必要のない力を手に入れるのだ。
俺は拳を振り上げ、雄弁に宣言した。
「ここに宣言する、かつてこの大陸に存在した……カリスト帝国を復活させると!」




