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初連載です。よろしくお願いします!
「宰相から王子との婚約を持ちかけられた」
飴色の重厚な執務机の向こうに座ったお父様は、苦々しい顔をしながらそうおっしゃいました。
執務室に呼ばれたときから嫌な予感はしていました。
普段なら気軽に私の部屋に顔を出したり、ダイニングで食事をしながら、肩肘張らずに話をしたりするお父様が、わざわざ執事を通して私を執務室に呼び出したのです。
何かやっかいなことが起こったのだろうと想像はしていましたが……。
「どうしてでしょう? 我が家には王家のお相手が務まるほどの歴史も権威もありませんわ」
私もお父様に負けないほど、苦々しい顔をしていることでしょう。
独立を目指す我が領地で、王都の者に関わって良いことなどありません。
王家のお相手といえば通常は公爵家や侯爵家から選ばれるものです。しかし我が家は伯爵家。
公爵家や侯爵家に年齢が合う娘がいない場合や、王子が伯爵家の娘を見初めた場合など、わずかな例を除けば、伯爵家への縁談など通常はあり得ません。
「どうやらうちの領地が豊かなことに、王都の一部が気付き始めたようだ」
……っ! なんと言うことでしょう。
ため息を吐くように伝えられたお父様からの返答に、思わず頭を抱えます。
王都の厄介な貴族たちからの横槍を防ぐために、情報の統制には人一倍気を使っていました。
……一体どこから漏れたのか。
「仕方ないさ。こうも変われば完全に隠し通すなどできることではない。
それに幸いなことに気付いているのは王都でも特に目ざとい宰相など一部の者だけだ」
この地は機密を守るには最適な地形です。
お父様は"気付かれた"とおっしゃいますが、宰相らが完全にこちらの領地のことを把握しているとは思えません。
「婚約の話もまだ内々のことだが、一度ローラを王都に寄越せとのことだ。
私としてはお前は病だということにして、王都には代役を立てれば良いと考えているが、ローラ、お前はどうしたい?」
お父様はいつも私の気持ちを聞いてくださいますね。
ありがたいことです。
私の中ではいくつかの道筋が浮かんでいます。しかし、一人で突っ走るのはいけません。
いかにするべきか、皆を集めて話し合うことにしましょう。
今この領地は、力を蓄えている最中です。
残念ながら、まだ王都からの要請を突っぱねられるほどの力はありません。
――ですが、王都の言いなりになるなど絶対にごめんです。
◇
私はローラ=カーハインド
カーハインド領を治める伯爵家の一人娘です。
お父様とお母様、それに三人のお兄様がいるカーハインド家の末娘として生まれた私には、物心ついたときから不思議な知識がありました。
前世の記憶――そう呼ぶのが近いのでしょうか。
けれど、それは一人や二人のものではありません。
ゆうに百人を超える人々の経験や記憶が、私の中に眠っていたのです。
まるで頭の中に図書館でもあるかのように、私は様々な知識や数多の人生を覗くことができました。
だからこそ、この国が決して豊かでも平和でもないことに、幼い頃から気付いていたのです。
そもそも図書館というのも知識として知っているだけで、実際この国にそんなものはありません。
本は希少で高価、知識は力ある者だけが持つものとされ、一部の権力者の都合が良いように世が回っている。
それが今私が住む国の現状です。
私の記憶の中には、身分のある者もない者も、男も女も、時代も国も、果ては世界そのものさえ異なる人々がいます。
しかし残念ながら、総じて幸福な人生を送れた者は、多くないようです。
そして私もまた、権威ある者の都合が何より優先され、身分の低い者たちは容易く切り捨てられるこの国で、幸せな人生を歩むのは難しいでしょう。
けれど幸いなことに、私にはある程度の身分があり、何より、記憶の中の人々が持ち得なかった、優しく頼りになる家族がいます。
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