第93話 破滅的料理を食す強者
見るからに飲んだらアウトなスープをアシュリンは嬉々として国王の居る部屋に持って来た。
「私が心を込めてリチャードのお父様に作りましたですぅ」
アシュリンは親しくない相手と話す時、母から教えられた「猫を被りなさい」という言葉を律儀に守もり、猫被りの仮面を装着していた。
リチャードもマーサも見た瞬間さっと顔色が青くなる。アシュリンの猫被り仮面に青くなったのではない。彼女の持っているスープに慄いたのだ。
アシュリンの後ろでは、料理長がコック帽を胸に抱え、申し訳なさそうな顔で立っていた。
「そうか…えっと君は?」
自分の事をリチャードのお父様なんていう女性は…多分そうだとは思うが、念の為に国王は尋ねた。
「アシュリン・ルーカスですぅ」
国王はアシュリンの顔をマジマジと見た。国王とはいえ、貴族の顔を全員知ってるわけではない。
これが自分の息子が選んだ娘なのか。そういえば、廃嫡したエドワードがルーカス伯爵家の娘に入れあげて貢いでいたが、どんな妖艶な魔性の女性なのかと思っていたら、目の前のアシュリンがあまりにも普通の娘すぎた。
しかし、アシュリンが手に持っているスープの色といい、匂いといい、ものすごい破壊力があった。
(これを飲めと、この娘は言ってるのか?もしかして、リチャードに対しての私のこれまでの行いをこの娘は怒っていて、リチャードの代わりに報復しようとしているのか?)
嫌な汗が流れた。
「アシュリン、申し訳ないが、これを父上に飲ませるわけには…」
なんとか穏便にすませようとリチャードは言った。
「え…でも、これを飲めば、リチャードのお父様は今日からビンビン物語ですわ!!イノブタラの肉を煮込んで、にんにく、ニラ、山芋、牡蠣、アサリ…あれ他に何を入れたっけ?」
入れた材料を聞くだけでも恐ろしい。味が二の次であるのが丸わかりだ。
妖艶な魔性の女ではない。
国王の目にはアシュリンが、壺の中身を混ぜ混ぜしながら毒を制作している魔女に見えてきた。
チラリとアシュリンの持っているスープを見ると、意を決したように、国王はスープを受け取り、ゴクリと一気に飲み干した。
死んだ…。
リチャードもマーサも料理長もそう思った。
だが、国王は平然とした顔で
「悪くはないな。いや…上手いスープだった」
と言ったのだ。
「まぁ、リチャードのお父様はこの味のよさがわかる方ですのね!!」
(((え〜〜〜〜〜〜!!)))
三人の心の中の声が一致した。
リチャードの愛犬ジョンソン以外で、アシュリンの料理を食べる事が出来る人間がいたとは…もはや、世界の七不思議だった。
ちなみに今回のアシュリンの
「まあ、リチャードのお父様はこの味のよさがわかる方ですのね!!」
という台詞。
実は第26話でジョンソンに言った、
「まあ! ジョンソンは、この料理の価値が分かるのですわね!」
のセルフオマージュです(笑)
かなり前の話なので、覚えている方は少ないと思いますが……。
決して作者のマンネリでも、手抜きでもありません!
……たぶん(笑)




