第8話 灰かぶり姫は媚人たちの策略でエロ狼のもとへドナドナされる!?
毒リンゴ作戦が失敗に終わり、アシュリンが地響きのような寝息を立て始めた深夜。七人の媚人たちは、物音を立てないよう小屋の隅に集まり、決死の密談を開始した。
「……なぁ、今度はリンゴじゃなくて、他の果実で毒を盛るのはどうだろうか?」
一人の提案に、リーダー格の媚人が首を激しく振る。
「馬鹿を言え! また俺達が毒を食わされる羽目になったらどうするんだ? 今度こそ俺たちは天国の階段を登ることになるぞ。いや、この疲労だ、階段の途中で力尽きて地獄へ真っ逆さまだ!」
「じゃあ、やっぱり……誰かに押し付けるしかない」
「誰にだ!? あんな歩く筋肉モンスターを引き取ってくれる物好きが、この森のどこにいるって言うんだ!」
すると、一人が暗闇の中でニヤリと下卑た笑みを浮かべた。その目は、地獄の底で見つけた唯一の希望に輝いている。
「ちょうどいい獲物がいる。『エロ狼』だ。アイツ、最近『赤頭巾ちゃんごっこ』をしてくれる新たな美少女を募集しているらしいぜ」
「おい、アイツには長年のパートナーがいただろう? あの赤頭巾ちゃんはどうしたんだ?」
「……フン、時の流れは残酷なもんさ。あの赤頭巾ちゃんもすっかり歳を召されてな。エロ狼の野郎、『今のパートナーとはイマイチ萌えない』なんて贅沢なことを抜かしてるらしい」
「……贅沢な男だ。だが、ちょうどいい」
『エロ狼』は本当の狼ではない。狼の頭がついた毛皮を頭から被り、美少女との『赤頭巾ちゃんごっこ』が何よりも好きだという救いようのない変態野郎である。
媚人たちはさっそく、夜闇に乗じてレンガ屋敷へ使いを飛ばした。
―明日、とびきりフレッシュで『刺激的』な赤頭巾をそちらへ向かわせる。楽しみにしておけ―
その手紙を受け取ったエロ狼が、期待に胸を膨らませて鼻の下を伸ばしていることなど露知らず、翌朝、媚人たちは猫撫で声でアシュリンに近寄った。
「お、お嬢さん! 川岸のレンガ屋敷に、筋肉に非常に詳しい『お婆さん』が住んでおりましてな。これを被って、お見舞い(プロテインの配達)に行ってくれませんか?」
アシュリンの耳がぴくりと動いた。
「筋肉に詳しい? 私の筋肉を見て、タンパク質の摂取タイミングを秒単位で指導してくれるかしら?」
「ええ、ええ! もちろんですよ! その道の権威です!」
差し出されたのは、媚人たちが必死に夜なべしてこしらえた特注の赤い頭巾。
アシュリンは元々、貴族のご令嬢。肌を露出させない育ちの良さと、仕立ての良いゆったりした服のせいで、その狂気じみた筋肉は完全に隠されている。
見た目は、どこからどう見てもあざと可愛い、守ってあげたくなるような美少女であった。
――脱ぐまでは。
「……まぁ〜! 私、赤い色は血行が良くなりそうで大好きなんですぅ〜! プロテインの配達、行ってきますですぅ〜!」
「(ヒヒヒ……あばよ軍曹! 変態の巣窟で思う存分!可愛いがってもらえ)」
こうして、史上最強の『赤頭巾アシュリン』が、獲物を待ち構えるエロ狼の元へと歩みを進めたのである。
その頃、川岸のレンガ屋敷では、エロ狼がベッドの中でニヤニヤと卑猥な笑みを浮かべていた。
「ヒッヒッヒ……。媚人の野郎ども、ついに新しい赤頭巾ちゃんを連れてきたか。どんな可憐な娘かな。怖がって震えるその声を聴くのが楽しみだぜ……」
彼は頭の狼の被りものを整え、老婆らしい裏返った声を出す練習を始めた。
「おや、赤頭巾ちゃん。よく来たねぇ……。ヒヒッ、完璧だ。さあ、早く来るがいい」
しかし、彼が待ち構えているのは、可憐な少女などではない。
ドシン。ドシン。
川岸の柔らかな土を踏みしだく、不自然に重い足音が響いた。
エロ狼はベッドの中で首を傾げた。
「おや……? 今日の赤頭巾ちゃんは、ずいぶんと足音が重いな。さては、よほど重いお菓子を持ってきたのかな?」
扉が開く。バキィッ、という蝶番が悲鳴を上げる不穏な破壊音と共に。
逆光の中に浮かび上がったのは、影だけで部屋の半分を覆い尽くす、威圧感溢れるシルエットであった。
だが、光が差し込むとそこに立っていたのは、赤い頭巾を被った可憐な美少女――アシュリンである。
「ごめんくださいですぅ……。プロテインの配達に伺いました、赤頭巾です(素)」
「(……お、おお! 極上美少女じゃねえか! こりゃあ楽しみだ!)」
エロ狼はこれから始まる『赤頭巾ちゃんごっこ』の期待に悶えた。
こうして、史上最強の『赤頭巾アシュリン』と、運命の犠牲者『エロ狼』の、世にも恐ろしい物語改変劇が幕を開けたのである。




