第6話 灰かぶり姫と七人の媚人
300kgの黄金像の土木作業(埋設)を終えたアシュリンは、猛烈な空腹に襲われていた。
「……はぁ、腹減った。消費カロリーが完全に摂取カロリーを上回ってるわ。このままだとカタボリック(筋肉分解)が始まっちゃうじゃない……」
素の低い声で毒づき、額の汗をドレスの袖(既にボロボロ)で拭いながら森を彷徨っていると、どこからか「♪まぁ!」「♪素晴らしいわ!」「♪なんて美しいお方!」という、耳が腐るほど甘ったるい合唱が聞こえてきた。
現れたのは、奇妙な格好をした七人の男たち。
彼らはアシュリンを見るやいなや、地面に伏してまで媚を売り始めた。彼らこそ、この森に住む『七人の媚人』である。
「おお! その泥にまみれたドレス! 流行の最先端、ヴィンテージ加工ですな!」
「見てください、あの方の瞳! まるで獲物を仕留める直前の鷹のような、高貴な輝きだ!」
「さあさあ、美しいお嬢さん。我々の小さな家で、最高の栄養を召し上がれ!」
「(……何こいつら、キモい。王子の親戚かしら?)」
アシュリンは直感的に胡散臭さを感じたが、空腹による筋肉の減少は何よりも避けたい事態だ。
「……まぁ〜! 皆さん、とっても親切なんですぅ〜! 私、お腹が空いて大胸筋が萎んじゃいそうなんですぅ〜!」
一瞬で『猫被りの仮面』を装着したアシュリンは、彼らの家へと案内された。
媚人たちは心の中でニヤリと笑う。
この媚人たちの正体は、森で行き倒れた娘を拾っては、過保護なほどに褒めちぎって油断させ、まるまると太らせたところで、好事家の貴族に『珍品』としてドナドナするという悪の組織だった。
「(ヒヒヒ……この女、単純だぜ。たっぷり食わせて、来月には『わがままボディの美少女』として隣国の伯爵に高く売ってやる……!)」
だが、彼らの計算は、食卓に並んだ料理をアシュリンが見た瞬間に粉々に砕け散った。
「さあ、お嬢さん。この砂糖たっぷりのケーキと、バターまみれのパイをどうぞ! これを食べて、もっとふっくらとされるとよろしい!」
アシュリンの目が、素の冷徹な光を放った。
「……は? 何これ。糖質と脂質の暴力じゃない。タンパク質は? アミノ酸スコア100の肉はどこなのよ。こんなの食べたら、ただの脂肪肝になるじゃないの!」
「えっ……あ、いや、お嬢さん、これは最高級の小麦を……」
「『最高の栄養を召し上がれ!』って言いましたですぅ!これのどこが最高なんですぅ?!」
アシュリンは、テーブルを指先一つで、メキッと破壊した。さらに、近くにあった鉄製のフライパンを素手で丸め、リンゴのような形に変形させてみせる。
「……あ。手が滑っちゃいましたですぅ〜。でも、皆さんの『真心』があれば、今すぐこの森で最高の獲物を狩って、私に提供してくれるよね?」
媚人たちは、目の前の『美少女の皮を被った怪力モンスター』の正体に気づき、顔を引きつらせた。
「ひ、ひぃぃ……! す、すぐに! すぐに赤身肉とブロッコリーを用意しますともぉぉ!」
「ついでに、その砂糖菓子は全部廃棄。あと、この家、天井が低すぎてスタンディング・プレスができないわ。今すぐ増築工事(土木作業)の開始よ。あなたたちは私の『トレーニングパートナー』兼『料理番』に任命する!」
こうして、立場は一瞬で逆転した。
媚人たちは、アシュリンをドナドナするどころか、彼女の完璧なバルクアップを支えるための『強制労働部隊』という名の『七人の下僕』へと成り下がったのだ。
「ほら、そこのお前! 肉の脂身を削ぐ手つきが甘い! 筋肉が泣くぞ!やる気があるのか?!」
鬼教官になったアシュリンはもはや鬼。『猫被りの仮面』を完全に脱ぎ捨てていた。
「ひ、ひぃぃ……ごめんなさいですぅ〜!」
「何が『ごめんなさいですぅ〜!』だ。あざとい言葉遣いしても私は許さないぞ!」
バシッとアシュリンは媚人の背中を殴った。
媚びを売り、いたいけな美少女を騙して、太らせてからドナドナするのが仕事だった彼らは、今やアシュリン軍曹の指導の下、涙を流しながら鶏胸肉の皮を剥ぎ続ける日々を送ることになったのである。




