第56話 灰かぶり姫の自称彼氏エドワード、筋肉の夢破れる
アシュリンがインド修行に向かった頃、魔女のエステサロンという名の筋肉ジムの特訓から、エドワード王子は命からがら逃げ帰っていた。
「3日坊主とは……やはり王子って忍耐力ないわね」
と、元・赤頭巾ちゃんのジュールが呆れたように言った事を付け加えて置く。何を言われようが、王子にとっては限界だったのだ。
這々の体で王宮に戻った王子は、精神と肉体の疲労から、そのまま丸1週間寝込んでしまった。
ようやく起き上がり、ふらつく足取りで部屋の鏡を見たエドワードは、自分の姿に絶句した。
逞しい筋肉がつくどころか、過酷なトレーニングで脂肪が完全に燃焼され尽くし、カモシカどころか、ただの「やせ細った白いゴボウ」のような、ひょろひょろの脚がそこにあった。
「な……なんだ、この貧相な身体は……。私は一体、何のためにあんな地獄の苦しみを……」
王子としてのプライドが完全に折れかけていた、その時。部屋の扉がノックされ、お気楽な声の郵便配達員がやってきた。
「こんにちはー、お届け物です。これ、エドワード王子に。必ず読んでくださいね、じゃないと僕が送り主の魔女様に怒られてしまいますから」
配達員はそれだけ言うと、嵐のように去っていった。
不審に思いながらも、渡された封書をエドワードが開封する。中から出てきたのは、禍々しい文字で書かれた1枚の書状だった。
『―大人のメンズエステ利用明細・および途中解約手数料
必ず明後日中に支払いを済ませること
金額 金貨1,000枚−』
「きん、金貨……一千枚ィィィ!?!?!?」
王宮の部屋に、王子の裏返った絶叫が響き渡った。
金貨1,000枚といえば、最新の軍艦が買えてしまうほどの、文字通りの法外な金額である。
「ふざけるな! エステサロンとは名ばかりで、中身はただの野蛮な筋肉ジムだったではないか! 1ミリも美しくなっていないどころか、私はゴボウになったのだぞ! それでこれほどのボッタクリ請求など……!」
あまりの理不尽さと法外な金額に、エドワード王子は完全に怒り狂った。
全身をプルプルと怒りで震わせ、手元にあった執務用のロウソクの火へと、その呪わしい督促状を近づける。
じわじわと火が紙を舐め、やがて激しい炎となって燃え上がった。灰となって消えていくボッタクリの証拠を見つめながら、王子は冷酷に言い放つ。
「踏み倒してやる。あんな虎の穴まがいのジムに、王家の金を1枚たらとも払うものか……!」
だが、エドワード王子はまだ知らなかった。
魔女たちの「取り立て」が、王宮の兵士などよりも遥かに恐ろしいという現実を――。
かつてアシュリンの義母であるレティシアを容赦なく拉致し、熟女バーへとドナドナした、あの恐るべき闇の取り立て屋たち。彼らが次なるターゲットをこの傲慢な王子に定め、王宮へと静かに歩みを進めるカウントダウンが、こうして始まったのだ。
期日は、明後日。
破滅の足音が、白いゴボウ脚の王子に刻一刻と近づいていた。




