第49話:オーガを打ち倒し――
槍が頬を掠りながら二人は地面を転がるも、抱き留められた腕は離れることがない。
ブリュンヒルトを庇うように倒れたクラウスは荒い呼吸を整えるように息を吸った。
「クラウスさん!」
「大丈夫、か、ヒルデ」
荒い呼吸にどれほど早く駆け付けたのか、ブリュンヒルトは理解して瞳を潤ませた。
クラウスははぁっと息を吐いてから抱きかかえていたブリュンヒルトを下ろす。彼女の前に立つと二刀の短刀を構えた。
「ヒルデ」
クラウスは視線をオーガたちに向けながら言った。
「少しの間でいい、オーガたちの目を眩ませてくれ」
少し、そう少しの間でいい。クラウスの指示にブリュンヒルトは頷いた。彼女がロッドを掲げたのを合図にクラウスは姿勢を低くする。
紫の魔法石が淡く光り、ぱっと弾けた。
「神の瞬きを、今っ!」
ブリュンヒルトの声と共に閃光が走る。周囲を包む眩い光に二体のオーガは目を潰されたように瞼を閉じて立ち止まる――影が駆け抜けた。
クラウスは地を蹴って飛ぶと巨体なオーガの背後を取った。二刀の短刀を首根に突き刺し、イメージを指輪に送る、瞬間、深紅の指輪から炎が溢れる。
短刀が熱せられ、首根を焼き切っていく。
ぐっと力を籠めて短刀で押し切きる、血を噴き出しながら首が跳ね飛んだ。浴びた返り血を拭うことなくクラウスは翻って残りのオーガへと駆けた。
「シグルド!」
クラウスの叫びにシグルドは目潰しから回復しかかっているオーガの腕に鞭のような剣を巻き付けて思いっきり引っ張る。
ぐらりと足元が揺れてオーガは倒れた、その隙を逃さずクラウスは二刀の短刀を背中に刺した。
光が短刀を通り、オーガの体内で溢れて刃と化す。内部で破裂し斬り裂かれていく中、オーガは血を吐きながら悲鳴を上げた。
ごぼごぼと溢れる血と共にオーガは息絶える。オーガの亡骸が地面に転がり、大量の血液で汚れていた。
二刀の短刀を引き抜き、クラウスは軽く血を掃いながら鞘に納めた。その顔は返り血で汚れて紅い瞳をより妖しく彩る。鬼か悪魔か、頭に過る光景にリングレットたちは目が離せない。
「クラウスさん、血!」
ブリュンヒルトは慌ててクラウスのほうへと駆け寄る。息を整えたクラウスはあぁとやっと気づいたように頬を手で拭う。
「返り血だ」
「知ってますけど! 見た目が凄いことになってますから!」
クラウスに突っ込みを入れながらブリュンヒルトはハンカチを取り出して彼の頬につく血を拭ってやった。
自分でできるのだがと口にすると、「適当に拭くので駄目です」と言われてしまい、彼女のされるがままになる。
「相変わらず、クラウスの兄さんえぐいね」
アロイはクラウスを眺めながら言う。彼から見てもかなり見た目は酷いものになっているようだった。フィリベルトにも「しっかり拭け」と言われてしまう。
「よく動けたな、リーダー」
「殺るなら一気にやるしかないと判断した」
連携して暴れる相手に倒すならば一気に決めていくしかないとクラウスは判断した。
ブリュンヒルトの光の魔法ならば、少しの間ではあるが動きを制限することができる。やるならばその隙だとクラウスは考えて指示を出した。
「やっぱり、やるねぇ」
シュンシュがランを連れてクラウスに話しかける。クラウスは「援護助かった」と礼を言えば、「あんまり大したことはできてないよ」と返されてしまう。
「グリフォンの時もそうだけど、あんたやる時の判断能力凄いよね」
クラウスは殺ると決めたら瞬時に行動を判断し、動く。
考えるだけでなく行動に移せて実行できる者というのはそう多くない。シュンシュは「それはあんたの才能だね」と笑った。
「助かったよ、クラウス。ありがとう」
「ありがとうございます」
シュンシュとランに礼を言われてクラウスは「気にしないでくれ」と返す。倒すことができたのは自分だけの力ではないのだと。
「あとは周辺を調査するだけだ。他にオーガが潜んでいないか確認しないといけない」
「おっさんの言う通りだな、さっさと確認しようぜ」
アロイに促されてクラウスはそうだなと頷いてから周囲を見渡した。リングレットたちからの視線を感じたけれど、何と声をかけるか思い浮かばす気づかないふりをする。
ルールエは獣耳をひくつかせながらシグルドの隣に立って「ここらへんは大丈夫そう?」と聞いていた。
シグルドが聞き耳を立てて「大丈夫だ」と返せば、安堵したように息を吐く。
「休む時間が短いが、周辺を調査しよう」
クラウスに言われてシュンシュとランがリングレットたちに「ほら、行くよ」と声をかける。
彼らは何か言いたげにしていたけれど、ランに「勝手な行動は慎んでください」と言われてしまい、黙って二人に着いていく。
その背をクラウスは眺めながら少しばかり安堵していた、見つめられる視線というのがあまり得意ではなかったから。
「クラウスさん?」
「……あぁ、ありがとうヒルデ」
頬を拭い終わったブリュンヒルトにクラウスは礼を言って、「行こうか」と彼女の背をそっと押した。




