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パーティを追放されけれど、助けた聖女と共に冒険者として生きていくことにした  作者: 巴 雪夜
第七章:鷲獅子は血肉を喰らう

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第37話:仲間だから心配をするのだ


 月が真上を昇り過ぎた頃、深い眠りが森を包む。時折吹く風に揺られて枝葉がざわめく。カンテラの僅かな光に照らされている中、クラウスは木にもたれかかっていた。


 野営をする場合、何が起こるか分からないので交代で警戒する。今は丁度、クラウスとシグルドの番だった。


 何か会話があるわけではないけれど、空気が悪いわけでもない。クラウスは特に気にすることもなく黙って空を見上げていた。



「ヒルデが心配していたが」



 声をかけてきたのはシグルドのほうだった。クラウスは顔を向けると腕を組んでいる彼の切れ長な瞳と目が合う。



「ヒルデが?」


「少し様子がおかしかったからどうしたのかと心配していた」



 様子がおかしかった、それはきっとラプスのギルドで顔を合わせていたシュンシュたちと再会したからだ。前のパーティのことを思い出したから。


 今のパーティメンバーに昔のパーティのことは関係ないのだから、話すことではないとクラウスは思っている。もう、追い出されたことを気にはしていないし、掘り返すことでもないと。


 話したくないという気持ちがあるのは恥ずかしいからとかではなく、気にされるのが嫌だからだ。余計な心配はかけたくないので、クラウスは「少し昔を思い出しただけだ」と返す。



「大したことではない」


「なら、それをヒルデに伝えてやれ。付き合いが一番長いのだろう」



 お前のことを心配している人間がいるのだからとシグルドに言われてクラウスは目を瞬かせる。



「俺の心配か……」


「信頼している人間を心配するのは当然だ」



 ブリュンヒルトはクラウスに助けられている。クラウス自身は助けたという感覚とは少し違うのだが、彼女にとっては手を差し伸べてくれた恩人なのだ。


 そんな信頼している相手を心配するのは当然で、驚くことではない。


 シグルドに「話したくないなら話さなくてもいいが、安心はさせてやれ」と言われる。



「慕われているのだからな」


「……俺は大したことをやれていないと思うのだが」


「それはオレには分からん。だが、ヒルデはそうじゃないんだろうさ」



 彼女にとっては救われた行為だった。シグルドの言葉にクラウスはあの夜のことを思い出す。


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を微笑ませながら手を取ったことを。自分にはこれぐらいしかできることがなかっただけだったけれど、ブリュンヒルトにとっては救いで。


 そう考えると心配だと感じる気持ちは分からなくはなく、クラウスは申し訳なく思った。



「入ったばかりのオレが言うのもどうかと思うが」


「いや、教えてくれて助かった」



 礼を言えばシグルドは「気にするな」と何でもないように返す。



「お前はこのパーティのリーダーなのだから一人で考えることはないとオレは思う」


「……シグルドは前のパーティのことが気になったりはしないか?」



 一人で考えるなと言われてクラウスは頭に浮かんだことを問う。シグルドは片眉を上げてなんだと言いたげに見つめたが、「それほど気にはしていないな」と答えた。



「ただ、あのリーダーはいいとしても他のメンバーが振り回されているのではないかとそう思うぐらいだ」



 もう抜けたパーティのことなど気にはしていないけれど、少しばかりの良心はあるので元気でやっているかと思うことはあるとシグルドは話す。


 シグルドの場合、リーダーよりもメンバーにパーティにいてくれと頼まれていた側だ。リーダーはさておき、メンバーを心配することはなくもない。



「それぐらいで大した未練はないな」


「そうか」


「お前はあるのか?」


「いや、お前と同じだな。元気でやっているだろうかと思うぐらいだ」



 未練がないというのは薄情なことだろうかとクラウスが呟けば、シグルドは笑った。



「薄情なものか。未練など引きずって何になる。それぐらい切り捨てられるぐらいじゃないとリーダーにはなれんだろうさ」


「そうだろうか」


「あぁ、そうだ」


「ならいいんだ、ありがとう」



 未練たらしいよりはいいと言われてクラウスはそういうものかと納得する。追い出された側が心配するというのも余計なお世話なのかもしれない。


 リーダーとして今のパーティのことを考えようとクラウスは気持ちを切り替える。



「そうだ、シグルドは入ったばかりだろう。何かあるか?」



 皆、まだ日は浅いのだがパーティを組んでいるのだから、何か気になることがあるかもしれない。他のメンバーにも聞かねばと思ったクラウスは先にシグルドに聞くことにした。


 シグルドは「特に不満はないが」と答えつつも顎に手を当てる。



「ルールーは皆をお兄ちゃんと呼ぶのか」


「出会った時からそうだったから、そうだと思う」


「……特別変わった呼び方をする人物はいないと」


「ヒルデぐらいじゃないか?」



 ルールエはブリュンヒルトのことをヒルデと呼んでいる。


 クラウスたちのことはお兄ちゃんと、フィリベルトはおじさんと名前の後ろに付けていたので変わった呼び方といえばヒルデぐらいだろう。そう話せば、シグルドはうむと悩ましげに眉を寄せる。



「ヒルデと同い年だからそう呼んでいるのだと……」


「何歳だ」


「十八歳と聞いた」


「……なるほど」



 それならばそう呼び合うのもおかしくないかとシグルドは呟く。何が引っかかるのかクラウスには分からなかったが、ルールエのことが気になるのだろうことは察することができた。


 彼はルールエに好意を抱いているのは見て分かるので、彼女のことを気にするのは当然かとクラウスは思いながら「何かあったか?」と話を促す。



「名で呼ばれたいと思っただけだ」


「それは本人に言うしかないだろうな……」


「言ってはいるが伝わらない」


「あぁ……」



 ルールエは鈍感な節がある、いや鈍感だ。伝わらないというのも想像ができてしまい、クラウスは少しばかりシグルドに同情した。


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